第13話 【ザックの試練】

≪ようやく気がついたか。オレは試練の番人の”ムトゥ”だ。長い説明は嫌いだから単刀直入に言う。大人しく帰るか、試練を受けるか、どっちか選べ。≫


ザックが気が付くと、目の前に≪ムトゥ≫と名乗る褐色肌の男が不機嫌そうに話しかけてきた。


辺りを見渡すと、物が一切ない明るい空間にムトゥと二人きりだった。


「一緒に居た黒髪の少年は無事ですか?」


ザックの第一声を聞いたムトゥは、面倒臭そうに頭を掻いた。


≪…おめぇらは、揃いも揃って自分のことよりも仲間の心配かよ…。チィッ!…あの坊主なら無事だ…。…ちなみに…試練を受けることで発生するデメリットは一切ねぇから受けた方が良いぜ…。…本来は受けたくても受けられねぇ試練だしな…。…試練の内容はオレに一撃入れることだ…。…オレから攻撃することはしねぇから…安心しな…。か、勘違いすんなよッ!オ、オレは別にてめぇらに肩入れしている訳じゃねぇぞッ!手加減なんてしねぇからなッ!≫


ザックはフワリと笑った。


「ありがとうございます。ぜひ受けさせてください。」


ザックから向けられた笑顔を見たムトゥは、照れた様子で顔をそらす。


≪チィッ!…じゃあ、始めるぞッ!いつでもかかってこいッ!もう一度言うぞッ!手加減なんてしねぇから全力でこいッ!≫


ザックは、腰のホルダーから右手で魔弾銃を取り出した。


「それでは全力でいきますッ!特技―ランダムダイス―」


ザックは、左手を上にあげると手のひらにサイコロが出現した。


そして、左手に出現したサイコロを地面になげると、“6”の目が出た。


「―二投目―」


再び、左手に出現したサイコロを地面になげると、“3”の目が出た。


「―三投目―」


再び、左手に出現したサイコロを地面になげると、“1”の目が出た。


―“631ダメージ”―


ザックが右手に持った魔弾銃に“631ダメージ”という文字が浮かび上がった。


その様子を唖然と見ていたムトゥは、ザックに問いかける。


≪ま、まさか…。おめぇ、真正面から勝負する気ねぇなッ!こっちが攻撃しねぇというルールを利用して、回避不能の固定ダメージを時間をかけて仕込んでるだろッ!それは、ちょっとズルくねぇか?≫


「申し訳ありません。私は商人です。ルールや道徳の範囲内であれば、ズルいも卑怯もないと考えています。ルールや道徳の範囲内でどうやって勝つかが重要なのです。それでは、”チェックメイト”ですッ!特技―ディストリビューター―」


ザックが魔弾銃の引き金をひくと、“631ダメージ”の文字がムトゥがいる方向に吸い込まれるように向かって行った。


≪…問答無用のダメージ変換タイプじゃねぇみてぇだな。ってことは、回避できる可能性があるな。フハハッ!やってやろうじゃねぇかッ!特技―リフレクター―≫


ムトゥは、“631ダメージ”が迫ってきている地点を予測しながら進行方向に透明な反射シールドを張った。


「”ダメージ流通”の流れを読んだのは流石ですが、“631ダメージ”は決められたアドレスにしか供給されません。」


“631ダメージ”は反射シールドをすり抜けてムトゥに向かう。


≪フハハッ!オレにしか受け取れない荷物って訳か?ヒントをありがとよッ!特技―ドッペルゲンガー―ッ!≫


ムトゥの姿が2つに分かれた。


「なるほど、分身に“631ダメージ”を受け取らせる気ですか?それでは、これならどうですか?特技―鑑定眼―」


ザックの瞳にモノクルのような透明なスクリーンが浮かび上がった。


「…どちらが本物であるか…分かりました。今度こそ“チェックメイト”です。」


“鑑定眼”により本物を見分けたザックは、本物を指差すと、“631ダメージ”が指差した方のムトゥの身体に吸い込まれた。


…“631ダメージ”を相手に届けました…


≪グゲェェェッ!!!…”鑑定眼”かよッ!フハハッ!オレの負けだッ!おめぇスゲェなッ!試練突破だッ!≫


一撃を入れられたムトゥは嬉しそうにザックを称賛した。


「ありがとうございます。急かすようで申し訳ありませんが、早くアル様のところに戻してくれませんか?」


『ったく、少しは勝利の余韻に浸れよ…。』

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