第12話 試練

≪おや☆気がつかれましたか☆何はともあれ☆ようこそおいでくださいました☆私は封印の紋章の管理者“テスラ”でございます☆以後お見知りおきを☆≫


気が付くと、目の前に≪テスラ≫と名乗る長身のピエロのメイクをした男が優雅にお辞儀をしていた。


辺りを見渡すと、物が一切ない明るい空間にテスラと二人きりだった。


「一緒に居た二人は無事でしょうか?」


アルを第一声を聞いたテスラは、ニッコリと微笑んで答える。


≪お二方とも無事ですよ☆それぞれ試練を受ける予定となっています☆ああ☆心配しなくても大丈夫です☆危険な試練ではありません☆≫


テスラの言葉に安心したアルは落ち着いて質問を続ける。


「俺にも試練がありますか?」


≪ありますよ☆≫


「試練をクリアしないと元の場所に戻れないのですか?」


≪クリアしなくとも戻れますよ☆≫


「クリアすると何が得られますか?」


≪何が欲しいですか☆≫


「身の安全を保証してもらったうえで、ヴァンとザックと俺の三人を元の場所に戻して欲しいです。」


≪ふふ☆随分と慎重なのですね☆それに☆こちらの事をかなり警戒していますね☆≫


「…………。」


≪そろそろ☆試練を始めましょう☆ルールはいたってシンプルです☆こちらからは攻撃をしませんので☆私に一撃でも攻撃を当ててください☆それでは☆どうぞ☆≫


(やるしかないか…。一撃でも当てる試練か。良くありがちな試験だな。攻撃してこないのであれば、前世の知識もあるし、光魔法の汎用性と攻撃速度と命中率を活かせば楽勝かもな。)


アルは、収納ペンダントから“天叢雲”を取り出して装備すると、3つの魔法陣を展開する。


…ミラージュ・ミスト(光魔法)…

…ミラージュ・アバター(光魔法)…

…シャイニング・フォース(光魔法)…


アルを中心に幻の霧が発生し始め、辺り一面が霧に包まれる。


≪”光魔法の同時展開”とは驚きました☆その“光の聖剣”の効果ですかね☆はて☆“光の聖剣”にそんな効果ありましたかね☆形状も違いますし☆もしかして☆聖剣を進化させたのですか☆≫


霧で視界が見えない中、アルはテスラの質問に答える。


「まあ、そんなところですッ!いきますよッ!特技―ソニック・ピアース―ッ!」


アルは、“天叢雲”に光のオーラを纏わせながら霧の中から高速の突きを放った。


しかし、テスラは回避行動を一切とらず落ち着いた様子で周りを観察していた。


そして、光のオーラによって10倍以上の長さに伸びた刀身が、テスラの左肩に到達した瞬間に”飛散”した。


テスラは、飛散した刀身が伸びてきた”反対方向”にゆっくり目を向けると、視線の先から光のオーラを纏った“天叢雲”の切っ先が伸びてきた。


≪蜃気楼のフェイクですよね☆そして☆本物の貴方は私の背後に転移している☆違いますか☆本当に見事ですよ☆≫


テスラは危なげなくもう一方の高速の突きを回避するが、その刀身も”飛散”した。


≪これもフェイクですか…☆≫


…ホーリー・チェイン(光魔法)…


更に霧が深くなっていき、ピエロの前後左右から光の鎖が伸びてきた。


≪☆前後左右から同時に…☆どうやって…☆…ッ!☆時限式で発動する魔法陣か…☆それとも☆またフェイクか☆…フム…☆とりあえず全て回避するとしますか☆特技―電光石火―☆≫


テスラの姿がブレたかと思うと、その場に残像を残して一瞬で上空に飛び上がっていた。


テスラが上空からアルの姿を探していると背後から声が聞こえた。


「これでどうだッ!特技―稲妻一閃―ッ!」


上空で待ち構えていたアルは、光の翼を使い空を駆け抜けながら“天叢雲”を稲妻の如く横に一閃する。


“天叢雲”は火花散らしながらテスラの姿を両断したが、テスラの姿は一瞬で掻き消えていた。


≪さっきのお返しですよ☆上とは予想外でしたね☆まさか空まで飛べるなんて☆実に惜しい☆≫


テスラはいつの間にかアルの背後に移動していた。


アルは光の翼を大きく広げる。


「そいつはどうもッ!特技―ウイングブレード―ッ!」


硬化した光の翼を使いテスラの姿を斬りつけたが、その姿も残像だった。


いつの間にか、テスラは地上に移動していた。


≪わお☆本当に多彩ですね☆油断できませんね…☆うん?☆?☆?☆?☆?☆?なぜ泣いているのですか☆そんなに悔しかったですか☆≫


アルが男泣きしている様子に、テスラは混乱していた。


「…足元を見ろや…。この…ボケカス…。」


アルの言葉を聞いて、自分の足元を見るとサブスクをミニチュアにしたようなドラゴンが足首に噛みついていた。


『ぜにぃぃぃ(毎度あり~♪)ッ!』


赤ちゃんドラゴンは満面の笑みを浮かべながら声を上げていた。


アルはガックリ肩を落としてボソボソと呟き始めた。


「…サブスクリプション・ドラゴンの赤ちゃんの料金体型は…、大人と違って”成功報酬型”なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!絶対攻撃当てられないと思って、お試し召喚したらあっさりくらいやがってッ!てめえ、クソピエロォォォッ!なぁにが”私に一撃でも攻撃を当ててください☆”だぁ?そんな歯も生え揃っていない赤ん坊の攻撃を簡単にくらいやがってッ!恥ずかしくねぇのか?ふざけんのも格好だけにしろよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


呟きから始まった悲痛な叫びは、何もない空間に大きく響き渡った。

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