第4話 【王女視点3】
『そろそろ、返事を聞かせてくれるかな?アルをこのまま見守っていてくれる?それとも、どこにいるかもわからないアルを探して、無理やり捕まえる?ちなみに、どんなに説得しても、アルが説得に応じる可能性は低いよ♪元々、今回の事件がなくとも15才になったらこの国を出ていくつもりだったからね♪理由はさっき話した通り♪』
国王はしばらく考えてから、絞り出すように答える。
「…わかりました。…アルフレッドのことは諦めます。…ただ…伝言をお願いします…。“…頼む…この国を救ってくれ…”と…。」
(アル…。)
『かぁぁぁッ!謝罪の言葉一つくらいあると思ったけど、全く無いわけね。どこまでも気持ちが悪いね。でも、まぁ良いよ♪伝えてあげるよ。じゃあ、僕は行くね♪約束を破ったら、さっき言ったことに加えて、もっと酷いことするから♪じゃあね♪』
そう言うと、光の精霊は羽根を動かして浮かび始めた。
「待ってちょうだいッ!私をアルの所に案内してッ!アルに会って、話がしたいのッ!誠心誠意謝るわッ!ちょ…ちょっとッ!聞いてるのッ?」
光の精霊は、振り返らずに飛び去って行く。
『国王。こういうバカを放置した責任は重いよ。余程、甘やかして育てたんだね。こんな頭の悪い王族は初めて見たよ。王族や貴族は、その地位と引き替えに大きな責任を負うんだ。責任を果たさない王族や貴族は、さながら害虫のようだね。アルには心から同情するよ。こんな幼馴染みがいたら、本当に大変だっただろうね…。じゃあね♪おバカさん達♪お前らのうち一人でもアルを追いかけたら、約束を破ったってことになるからね♪あぁ、冒険者を雇って探すのも無しね♪バイバ~イ♪』
…
「お父様ッ!あのような約束をするなんて、この国を滅ぼすつもりですの?光魔法使いを手放すなんて、どう言うことか分かっておいでですの?」
国王に詰め寄ると、宰相が代わりに答える。
「姫様…。貴女は、ご自分の犯した罪を正しく認識しておられるのですかな?貴女に責任を全て押し付ける訳ではありませんが、貴女の行動が引き金になって、今回の事件が起こったのですよ。例え王族であっても、処刑台は免れません。というか、そうでなければ民衆や貴族達が納得しません。そのくらい、重い罪を犯したのです。そして、あの精霊は光の精霊ですよ。光の精霊は精霊王とも呼ばれ、全精霊のまとめ役です。昔、貴女が“精霊の研究をする”と言って学者と騎士団の団員を何人か引き抜いていかれましたが、まさか、精霊王を捕獲していたなんて…。取り返しのつかない罪を重ね過ぎていて、今でも頭が追い付いていません。…ですが、はっきりと分かっていることがあります…。この国を滅ぼすのは、貴女の方です…。エリス・ウッドポッシュ…。」
(…処刑台!?この私が?…私よりももっと酷い人たちがいるじゃないッ!)
「王女である私が処刑台!?じゃあ、アルを物置部屋に閉じ込めて、発明を奪った宰相も同罪じゃないッ!いいえ、それよりも暗殺者を送り込んだ軍務大臣はそれよりも罪が重いわッ!」
宰相は、表情を曇らせ再び俯いた。
矛先が向いた軍務大臣は、慌てて宰相を攻め立てる。
「さ、宰相ッ!実の息子の発明を奪ったというのは、あなたを一躍有名にした手押し式ポンプのことではないですか?それともボイラー式の湯沸かし機械ですか?まさか、農業改革の革新的な技術も全部ですか?息子の手柄を全部独り占めするなんて、なにが、息子に嫉妬しただッ!ただのペテン師ではないですかッ!父親モドキとはよく言ったものですなッ!」
宰相は、顔を上げると慌てて弁明を始める。
「確かに手押し式ポンプのアイディアは盗んだが、それ以降はアルの方から提供してきたんだ。“もう勝手に部屋に入らないでくださいね”と言いながら…。」
部屋が静まり返り、静寂の時間が流れた。
…コホンッ…
国王が咳払いをしてから、話し始めた。
「今は、国を立て直すことが最優先だ。各々の罪は、落ち着いてからゆっくり話し合うとしよう。宰相を中心に各大臣は、被害状況を確認しながら各分野の復旧を急ぐのだッ!エリスは、引き続きベルド侯爵邸で謹慎しておるのだッ!間違っても、光の精霊の約束を破るでないぞッ!それでは、皆頼んだぞッ!」
救いの手を差し伸べられた形になった宰相達は声を揃えて同意する。
「「「「「「はいッ!」」」」」」
しかし、慌てた様子で部屋に飛び込んでくる兵士から凶報が届く。
「はぁ…はぁ…、失礼します…。この屋敷の持ち主である商人が、有力な商人達を引き連れて国外逃亡しました。さらに、我が国の精霊魔法使いも同様に国外逃亡しました。その損害は図り知れません。この事が知られれば、各地で内乱が起こるだけではなく、他国からの侵略も始まるでしょう。」
バシンッ!
通商大臣が机を叩く。
「陛下…。言った筈ですよね?商人から何の補償もせず一方的に財産を接収すればどうなるのかと…。貴方には少しだけ見所があると思ったのですが、どうやら私の目が節穴だったようですね…。私はこの泥船から降ろさせていただきます…。親子そろって、無知で無能で愚か者ですね…。あぁ、光の精霊様が言っていたことは、本当なんだと確信しましたよ。精霊から嫌われた国は必ず滅びますからな。では、ごきげんよう。これからアル様の国づくりのお手伝いをしなければなりませんので、忙しくなるのですよ。あなた方も早く逃げることをオススメしますよ。あぁ、逃げることができない国民は可愛そうですね。国王、貴方は間違いなく愚王です。必賞必罰が統治の原則、有事だからと言って罪をあやふやにしてはいけません。そもそも、光魔法の素質のある人間が虐げられているのを見て見ぬフリを決め込んだ時点で終わっていましたがね。いつ気づくのかと待っていましたが、結局、気づくことはありませんでしたね。…前国王様の時代は良かった…。貴方が処刑台にのぼる姿を見られないのは残念です。」
通商大臣はそう言うと、懐から帰還石を取り出すと、一瞬のうちに転移していった。
一同が唖然としていると、軍務大臣が汗を拭きながら立ち上がった。
「ま、全く…通商大臣ときたら、愛国心は無いのですかな。ああッ!用事を思い出しました。陛下、私は通商大臣のように逃げ出したりはいたしません。で、では失礼します。」
各大臣が軍務大臣のあとに続く。
「ワタシは急いで被害状況を確認して対策を練らなくてはッ!陛下、ワタシも失礼します。」
「「「「私もッ!」」」」
…
国王は俯いたまま力無く話し始めた。
「エリス、お前も逃げなさい。今なら、混乱に乗じて逃げられる筈だ。」
(アルが居なくなっただけで、こんなにも状況が変化するの?…ということは、アルが戻って来さえすれば元通りになるかもしれないッ!)
「お父様ッ!私はアルを探しますッ!」
国王は俯いたまま何も喋らなかった…。
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