第3話 【王女視点2】

王城が破壊されたため、王国は裕福な商人の屋敷を接収し、仮の王城と定めた。


私が仮の王城に呼ばれたのは、アルがいなくなった日から一週間後だった。


王城に呼ばれるまでの間、独自に調査をしたところ、今回の事件は光魔法の素質を持つアルを亡きものにしようとジークフリートが企てた策略だったことが分かった。


事件の内容が明らかになってきた頃には、この国にジークフリートの姿は無かった。


(………。私は騙されていたのね。)



朝一番で仮の王城に着くと、国王のいる応接室に通された。


応接室に入ると、国王や各大臣が揃っていた。


「さて、みんなの前で説明してもらおうか。」


国王からそう言われた私は、ジークフリートに嘘の情報を流され卒業パーティーで婚約破棄を宣言したこと、アルが光魔法を使ったこと、光の精霊が暴れ回ったこと、…そして、ジークフリートが私兵を騎士団と偽って学園に招き入れたことなどを話した。


国王は、顔面蒼白になり口をパクパクして、言葉を出したくても出ない状態に陥った。


アルの父である宰相も同様だった。


そして、外務大臣が重い口を開いた。


「会場にいた人間の証言などを合わせると、姫様は隣国の第3王子ジークフリートに唆されて、光魔法の素質を持つ…いや光魔法の使い手であるアルフレッド・フェリクスにありもしない罪を着せ、婚約破棄を突きつけただけではなく、後ろから斬りつけたあげく、あろうことか他国の兵隊を差し向けた。…ところが、アルフレッド・フェリクスの光魔法の素質が開花し、返り討ちにあったということですかな?しかも、王城を破壊した精霊は、かつて姫様が進めた精霊捕獲計画で犠牲となった精霊だったという証言もありますが…。」


問い詰められるような口調で質問されたこと不満を持ちながらも、私は質問に答える。


「…私が悪いような言い回しでしたが、ジークフリートが私に嘘の情報を流したのが全ての原因ですわ。それに、あの場にはここにいる教育大臣もいましたが、とめる素振りは全くありませんでした。おそらく、教育大臣もジークフリートに…………」


!!!バシン!!!


突然、教育大臣が机を叩いた。


「だ、黙れッ!逆賊がぁぁぁッ!お、お前のせいで光魔法使いがこの国から出ていったんじゃッ!陛下ッ!王女とはいえ、これだけの大罪、もはや処刑は免れませんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


「ヒッ…。」


教育大臣のあまりにも必死な形相に、思わず恐怖を感じてしまった。


(な、なんで、王女である私にこのような口をきけるの?私は王女なのよッ!)


父である国王の顔をみると、悲しそうな表情を浮かべていた。


「エリス…。自分の犯した罪を認めなくてはいけない。ジークフリートの話を、なぜ無条件で受け入れた?誰か責任のあるものに確認はしたのか?お前は小さな頃から、大人びていて何でも平然とこなすアルフレッドに良い感情を抱いていない部分があった…。そこにつけ込まれて、一番大切な確認を怠ってしまった。教育大臣もだ。光魔法の素質だけではなく、座学・実技・家柄・所作・容姿に秀でているアルフレッドを心のどこかで妬んでいたのであろう。…今回の事件には直接の関わりがないが、宰相も心当たりがあるではないか?」


アルの父である宰相は俯いたまま答える。


「はい…。アイツは、生まれた時から天才でした。赤ん坊の時、泣くのはこちらが余裕のあるときだけで、ほとんど手がかかりませんでした。3才の時に、暗殺者を一人で撃退してしまったこともあります。アイツは、光魔法の素質を持っているだけでなく、間違いなくフェリクス家歴代最高の才能の持ち主です。…しかし、こともあろうに私は実の息子に嫉妬してしまった…。私も姫様の立場ならジークフリートの言葉を信じてしまったでしょう…“アイツは魔族と通じているから才能があるのだ”と…。このような父親が側にいるから、アイツはこれ以上嫉妬されないように光魔法を使えることや本当の才能を隠していたに違いありません…。」


宰相の本音の言葉が、胸に染みるのが分かった。


(私…、アルに嫉妬してたんだわ。そして、アルはそれを理解していた…。)


「私は…罰としてアルの捜索に向かいます。アルを連れ帰るまで…帰りません。」


そう宣言すると、突然、背後から声が聞こえる。


―アハハハッ!―


『捜索なんてしなくて良いよ♪アルは、ここでは幸せにはなれないんだよ♪理由は、君たちがいるから♪アルの幸せを考えるんだったら、君たちはアルに一切近づかないのが一番だよ♪』


振り返ると、光の精霊が窓際に座っていた。


『美談にしようとしているけど、今まで君たちは、アルに相当酷いことしてきたよね♪そこの父親モドキは、アルの部屋を離れの物置小屋に移したり、部屋に勝手に侵入してアルの発明を奪ったりもしたよね♪そこのデブのオッサンは、学校の成績を落とそうと模擬戦の剣に細工をしたり、テストの問題をアルのだけ難しくしたりしたよね♪そこの髭ヅラは、アルに暗殺者を送り込んだよね♪そこの性格ブスは、アルを召し使いのように扱ったり、権力を笠に着て無理難題を押し付けたりしてたよね♪おぉッ!よくみると国王と通商大臣のオッサン以外、み~んなアルに嫌がらせしていた奴らじゃん♪スゴいね君たち♪自分達の切り札にホント何してんのさ♪想像してみてよ♪そんなところに連れ戻して、アルが本当に幸せになれると思ってる?思ってるとしたら、頭の中お花畑だよ♪』


光の精霊の言葉に胸がズキリと傷んだ。


部屋にいた他の人間もバツの悪そうに俯いていた。


『アルはね、本当はとっても可愛く笑うんだよ♪そして、とってもおしゃべりなんだ♪でも、下らない奴らのせいで、笑ったりおしゃべりしなくなったりするんだ…。もう分かったよね♪アルのことは忘れて、大人しく滅んでちょ♪』


(アルは皆からそんなに酷い仕打ちを受けていたの?アルが笑わないのは私達のせい?…でも、私には小さい頃から一緒に過ごしてきた思い出があるわッ!私は、幼馴染みで婚約者なんだからッ!今度からは、心を入れ替えてアルを大切にするわ。アルが今まで不幸だった分、幸せにしてあげるんだからッ!)


「これからは、アルのことを大切にするわ。だから、光の精霊もアルがここに戻って来るのを手伝ってくれない?」


光の精霊は心底嫌な表情で答える。


『嫌だよ。気持ち悪い。これだけ分かりやすく説明してあげてるのに、自分の都合の良いことしか信じないなんて、本当に頭の中がお花畑なんだね。…じゃあ、説明の仕方を変えるね。アルに付きまとうのをヤメろ!これは、命令だ。命令を聞かない場合は、精霊の総力をあげてこの国を積極的な方法で滅ぼす。まず、雨を一切降らせなくする。そのあと、大地のエネルギーをこの国ににだけ行き渡らないようにする。そうすれば、水不足と大飢饉で1年くらいでこの国はダメになる。まぁ、精霊の祝福が無くなったから、この国は緩やかに滅亡するけどね。さぁ、どうする?』


(なんなの?精霊なんて人間に使役されるだけの存在じゃないの?雨を降らせなくすることなんて本当にできるの?)


光の精霊の言葉に皆が息を呑んだ。


そして、焦燥しきった様子の国王が光の精霊に問い掛ける。


「我が国が助かる方法は無いのですか?」


『そんなもん、自分で考えなよ。この国は腐り過ぎて、とにかく気持ち悪いから近づきたくない。そして、歴史を学んでいない。精霊を敵にしたら、どうなるのかなんて歴史を学べば簡単にわかるし、光魔法の素質を持つ者をぞんざいに扱うとどうなるのかも簡単にわかる。いくら羨ましい妬ましいからって、よって集って、苛めるなんて愚の骨頂だよね。それを放置した統治者の責任は何よりも重いよね♪ということで、根っこが腐っているから、”出来るだけヒトに迷惑をかけないように静かに滅んで”としか言えないな♪』


光の精霊の辛辣な言葉に一同が絶句した。

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