第2話 【王女視点】

「アルフレッド・フェリクスッ!貴方との婚約を破棄させていただきますわッ!」


王立学園中等部の卒業パーティーが行われているホールに私の声が響き渡った。


そして、婚約破棄を言い渡されている顔だけの男が、この国の宰相の息子であるアルフレッド・フェリクス。


3才の時に行われる魔法能力検査で、光魔法の素質と膨大な魔力を持っているとされながらも光魔法が全く使えない期待はずれの男。


そのくせ、何の教科でも首位を取り続ける気味の悪さは学園内でも有名な話だ。


(どんな教科でも毎回首位を取り続けるなんて、不正をしているに違いありませんわッ!)


幼い頃から妙に達観していて、この私をイラつかせる幼馴染みの婚約者。


(でも、ジークフリート様の調査でようやく点と点が繋がりましたわッ!アイツは、魔族と内通していて学園を裏から侵食していったんですわッ!)


事態が飲み込めず、混乱しているアルの様子を眺めていると、勢いよく扉を開ける音がした。


バタンッ!


カッ…カッ…カッ…


隣国の王子ジークフリート様が勇ましく扉を開けると、堂々とした足取りでアルに近づくと、いきなり剣を抜き、背後からアルに斬りかかった。


(…えッ!)


…カキンッ!…


ジークフリート様の斬撃は、アルの魔法障壁によって完全に防がれていた。


(な、なんですのッ?突然斬りかかるなんて、台本に無かったわッ!そうかッ!この舞台を盛り上げるための演出ねッ!でも、どうしてジークフリート様は驚いた表情をしているのかしら?)


ジークフリート様は元の凛々しい表情を取り戻すと、人差し指と鋭い眼光をアルに向けて、声を張り上げる。


「逆賊、アルフレッド・フェリクスよッ!魔族と内通して、この国を滅ぼそうと企てたことは我々の調査で明らかになっているッ!大人しく縛に就くが良いッ!」


ジークフリート様の言葉と同時に騎士団がぞろぞろと突入してくる。


(ようやく、台本通りの流れに戻って来ましたわね。)


悲しそうな表情をつくりながら、ジークフリート様の隣に駆け寄りと腕を組んで高らかに宣言する。


「アルフレッド・フェリクスッ!この一件は、貴方のお父上からの告発のおかげで明るみに出すことができましたッ!証拠も揃っていますッ!もう言い逃れはできませんッ!今回の罪は、私が何とか最前線での兵役で許されるように取り計らいましたわッ!だから、どうか、大人しく罪を償ってくださいッ!」


(幼馴染みとしてのよしみで、処刑はせずに戦場で華々しく散らせてあげますわッ!)


アルは、状況を飲み込んできたらしく、次第に表情が明るくなってきた。


(アルのあんな表情初めて見たわ…。)


そして、光輝く魔法陣を展開し始めた。


(あ、あの荘厳な魔法陣は、…まさか!?光魔法ッ!?使えるようになっていたの?)


アルは、美しい光のオーラを身に纏いながら光の翼を造り出した。


(き、綺麗…。アルの綺麗な黒髪が光のオーラによって、より一層引き立っている。)


神秘的な光の翼に、周りの人間達の様子が騒然となった。


…ザワ…あれって、光魔法?…ザワ…ザワ…光魔法使いが内通者?…ザワ…ザワ…光魔法使いがいなくちゃ魔王は倒せないんじゃ…ザワ…我が国は光魔法使いが敵に回ったのか…ザワ……ザワ……ザワ…


(き、聞いていないわ。本当の光魔法の勇者はジークフリート様のはず…。アルなんて、いつも“仕方ない”って表情で私の言うことをきく犬でしかないはずなのにッ!…でも、魔法陣の偽装はできないはず…。もしかしたら、私はジークフリートに騙されていた!?…もしそうだとしたら…なんてことを……ッ!………ダメッ!……今は光魔法使いを確保することが優先よッ!なんとかしなくてはッ!)


「アルッ!貴方、素質を持っていただけじゃなかったの?光魔法が使えるんだったら、話は別よッ!内通者の罪も無かったことにしてあげるッ!アハハッ!今のはぜ~んぶ冗談なのよッ!」


アルは、私に目を向けることなく、光の翼を使い空中に飛び出すとホール中央の天井に向けて魔法陣を展開し始めた。


(う、うそ!?アルが私の言うことを聞かない!?何だかんだ言って、いつも私の言うことをなんでも聞いてくれたアルが…。)


アルの展開した魔法陣からまばゆい光線が放出され、天井に穴が空き、キレイな満月が顔を覗かせた。


「な、何をしている騎士団ッ!あの逆賊を捕らえよッ!」


ジークフリートが騎士団に命令を出す。


隣国の王子の命令を受けて、騎士団は上空に向けて魔法攻撃を開始し始める。


…ウインドボール(風魔法)…

…ウインドランス(風魔法)…

…ウインドカッター(風魔法)…

… …… …… …… …… ……


(凄い…。騎士団の魔法攻撃を全て防いでいる。)


騎士団の風魔法による総攻撃は、アルの魔法障壁を突破することが出来なかった。


(騎士団は何故、隣国の王子であるジークフリートの命令を聞いたの?…アルの光魔法と魔法障壁の強度といい、何かがおかしい…。)


アルは、首にかけているペンダントから何かのアイテムを取り出すと、アイテムから召喚魔法陣が浮かび上がった。


(あ、あのペンダントは王城の地下にあるダンジョン踏破者に渡されるという伝説の収納マジックアイテム…。踏破者本人にしか使えないはず…。)


『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃ~ん♪光の精霊だよ~ん♪アルゥゥ♪どうしたの?』


王冠を頭にのせた金髪の子供が現れた。


(あ、あれは以前私が捕まえた精霊ッ!?逃げた筈では…。)


「あの人間達が俺の後をついてこれないようにしてもらえる?」


光の精霊は、アルの言葉に嬉しそうに頷き、両手を前に出すと複雑な魔法陣をいくつも展開し始めた。


『アハハッ!ついにアルからも愛想を尽かされたの~♪バカな人間達♪精霊からも光の勇者からも愛想を尽かされてどうやって魔族と闘うの?アルが居るから少しだけ力を貸してあげてたけど、アルが居ないんじゃもうお仕舞い♪この国は、あと少しで滅びるね♪滅びの記念に立派な建物はぜ~んぶ壊してあげるッ!この国には本当にお世話になったよ。王女様、精霊狩りの時は背中の羽根をむしって無理やり檻の中に閉じ込めてくれてありがとう。アルが助けてくれなかったら、今でもあんたの部屋で観賞用ペットとして暮らしているところだったよ♪精霊達、み~んな、この国と隣の国が大嫌いだよッ!アハハッ!』


(せ、精霊が自我を持っているの…。隷属魔法で捕獲した後の姿しか見たことがないから分からなかった…。てっきり、エネルギーを生み出す虫程度にしか考えてなかった…。精霊が自我を持っていて、この国に敵意を持っているとすると大損害だわッ!)


光の精霊は、笑い声を上げながら光の砲弾を打ちまくっていく。


光の砲弾は、建物の壁や床を悉く粉砕していった。


(こ、これが精霊の力?こんな力と我が国は、これから本格的に敵対していくの?)


『アハハッ!王女様♪精霊を無理やり捕まえて、言うことを聞かせるなんて、とんでもないことをよく思い付いたね♪アルが隷属魔法の解き方を教えてくれなかったら、本当に危なかったよ♪』


(アルが隷属魔法の解除法を知っている…?)


悲鳴をあげて避難する人間達を尻目に、光の翼をはためかせながら、アルは飛び去って行った。


アルが去った後も破壊活動が続き、光の精霊は一通り学園を破壊すると、まだ満足できないのか、今度は王城に向けて砲撃を開始した。


(…王城までも破壊されていく。)


私は、呆然と見つめることしかできないでいた。



『はぁあ♪スッキリした~♪もう疲れたから、アルの所に帰ろっと♪人間達ぃぃぃぃッ!今日はこれくらいにしておいてあげるッ!じゃあ!まったね~♪今度は、友達も連れてくるから楽しみに待っててね~♪ああッ!くれぐれもアルは追わないでね~♪アルがこっち側に居てくれないと僕たちも本気出せないからッ!』


そう言うと、光の精霊は飛び去って行った。


(な、なにが起こったというの?)

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