第15話
(※ローマン視点)
「頼む……、もう、許してくれ……」
僕は床に膝をつき、頭を下げて彼女に懇願した。
「僕が悪かったよ……。君にもう会えないと伝えて、それっきり関係を断ち切ってしまったことは、本当に悪いと思っている! すまなかった! でも……、仕方がなかったんだ……。そうしないと、クリスタに許してもらえなかったから……。だから僕は、ああするしかなかったんだ……。本当は、君のことを愛していた。君と別れるのは、胸が張り裂けそうなほどつらかった! でも、あの時の僕は、そうする以外に選択肢がなかったんだ! お金だって、きちんと払ったじゃないか……。だからもう、許してくれ……。これ以上僕を、苦しめないでくれ……。君の気持ちは痛いほどわかるけど──」
「ねえ、その長い話、まだ続くの? 私、聞く気なんてないわよ」
僕の言葉は、マリーの素っ気ない言葉で遮られた。
こちらが謝っても、彼女は許してくれる様子はない。
同情する様子など、微塵も感じられなかった。
これが、人間のすることか?
こんなに僕のことを苦しめて、どうしてそんなに平気でいられるんだ?
「言い訳なんて、聞きたくないわ。あとからなら、なんとでも言えるの。重要なのは、あの時あなたは、私を捨てたということよ。それがすべて。本当に私のことを愛していたのなら、ほかのことなんて放り出して、私の側にいればよかった……。でも、あなたはそうしなかった。……私ではなく、クリスタのことを選んだ。だから私は、あなたに復讐すると誓ったの」
彼女の冷たい視線が、こちらを見ていた。
もう、ダメだ……。
何を言っても、僕の言葉を彼女の心に届かない……。
僕はこのまま、一生彼女の奴隷になるしかなさそうだ……。
しかし、そんなことは御免だった。
言葉による説得は、できなかった。
だからもう、やるしかない……。
覚悟なんて、本当にしているのか、自分でもよく分からなかった。
一生彼女の奴隷になることが決定したことに絶望していると、体が勝手に動いた。
僕は、彼女に飛びつき、押し倒して馬乗りの姿勢になった。
「な……、何をするのよ! よくも……」
彼女は何か言おうとしていたが、僕が彼女の首を両手でつかんで力を加えると、言葉にならない声しかでなくなっていた。
両手に加わっている力は、段々と強くなっていく。
自分の意志で強くしているのか、勝手に強くなっているのか、自分でもよくわからない。
自分にここまでの力があったことに、少し驚いていた。
彼女は、ずっと暴れている。
僕の腕を払おうとしたり、殴られたり、引っかかれたりしているけれど、それで僕の力が弱まることはなかった。
いつの間にか、視界が霞んでいる。
僕の目から涙が流れていることに、遅れて気付いた。
それでも、両手の力が弱まることはなかった……。
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