第14話

 (※ローマン視点)


 僕はマリーに渡す金を持って、彼女の元へ向かっていた。


 どうして、こんなことに……。

 せっかく、持ち前の運で、逆境を乗り越えてきたのに……。

 浮気し放題の人生を、謳歌するつもりだったのに……。

 まさか、マリーが僕に復讐するなんて、思ってもいなかった。


 僕の運は、とうとう尽きてしまったようだ……。


 もう、どうすることもできない。

 僕は彼女に従うしか、残された手段がない。

 でも、これで、浮気のことは報告しないでもらえる。

 それだけが、不幸中の幸いだった。

 

 マリーにこの金を渡せば、それで彼女との関係は終わりだ。

 彼女は浮気のことを黙っておいてくれるし、もう僕と関わることもないだろう。


 マリーの家に着いた。


 僕は彼女に招かれ、家の中に入った。

 彼女と会う時は、毎回浮かれた気分になっていたが、今回はかなり気分が沈んでいた。

 

「約束のものは、持ってきてくれた?」


「ああ……、持ってきた。確認してくれ」


 僕は彼女に金を渡した。

 全財産の半分が、僕の手を離れた。

 とんでもなく大きな喪失感が、僕を襲った。

 まさかマリーが、こんなとんでもない本性を隠していたなんて……。

 そのことに、気付いてさえいれば……。


「ふーん、長い間、遊んで暮らせるくらいの額はあるわね。こんなにくれるなんて、優しいのね」


 彼女は笑っていた。

 僕は、悔しさや怒り、いろいろな負の感情に包まれていた。


 彼女の本性を知ってからは、後悔するばかりだ。

 しかし、後悔しても、時は戻らない。

 どうしようもなく、手遅れだ。

 しかし、これで、秘密は守られる。


 僕たちの間に、既に愛はない。

 もう、彼女と会うことも、二度とないだろう。

 そう思っていたのだが……。


「とりあえず、これで黙っておいてあげるわ。次もまた、何かお願いするから、その時はよろしくね」


「……は? ちょっと待て……、どういうことだ!? 金はきちんと渡しただろう!? これで、僕たちの縁もここまでだ。そして、君はその金と引き換えに、秘密を守る。そうじゃないのか?」


 僕は彼女に聞いた。

 不安に襲われ、声は震えていた。


「何を言っているの? 一回で終わりだなんて、そんなこと、一言も言っていないわよ? あなたはもう、私の奴隷なの。嫌なら、逆らってもいいのよ? その場合は、あなたの秘密が漏れるだけよ」

 

 彼女は笑っていた。

 そんな、馬鹿なことがあるか……。

 金はきちんと払ったのに、これだけでは足りないというのか?

 僕を奴隷扱いするなんて……。

 でも、逆らえば、秘密を漏らされる。


 このまま一生、僕は彼女の言いなりなのか?

 そんなの、耐えられない。

 苦痛以外の、何ものでもなかった。

 しかし、僕には彼女に従う以外に、選択肢はない。


 ……いや、本当にそうか?


 あるんじゃないのか?

 彼女から、秘密を漏らさない方法が……。

 しかし、そんなことをすれば……、そんなことをしたとバレたら、僕は……。

 いや、でも、やらなければ、このまま一生、彼女の奴隷だ。


 この負の連鎖を断ち切るには、今ここで、やるしかない……。

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