第13話
(※ローマン視点)
「ローマン、浮気のことを報告されたくないのなら、私にお金を払いなさい。そうすれば、この件は、黙っておいてあげる」
「そんな……」
僕は彼女の言葉を聞いて、絶望していた。
この僕を、強請ろうというのか?
しかし、僕には彼女の言葉に従う以外に、選択肢はなかった。
なんてことだ……、まさか、こんなことになるなんて……。
「えっと、そうね……、あなたの資産の半分を私がもらうわ。あぁ、べつに、資産を偽ってもいいけれど、その場合は、覚悟するのね。もし私を騙していたら、どうなるかくらい、あなたにもわかるでしょう?」
彼女はゆがんだ笑みを浮かべていた。
僕は、資産を偽る気などなかった。
もしばれたら、彼女は間違いなくお父様に報告する。
資産を失うのはかなりの痛手だが、報告されるよりはまだマシだ。
金で済むのなら、彼女の言葉に従った方がいい。
嘘をついて、余計なリスクを背負うのは嫌だった。
「……わかったよ。必ず、お金は払う。だから、浮気していたことは、誰にも言わないでくれ」
そう言った僕の声は震えていた。
ただでさえ少ない資産を半分も失うなんて苦しい選択だが、秘密をばらされるよりはマシだ。
「いい返事ね。あぁ、あなたのその絶望した顔、最高だわ……」
彼女は声をあげて、狂ったように笑っている。
あぁ……、せっかくクリスタを脅して、浮気もし放題になったのに、まさか、こんなことになるなんて……。
*
(※クリスタ視点)
ローマンが帰ってきた。
浮気をしていた彼は、さぞかし気分が良いだろう。
私が報告できないことをわかっているから、彼はこれから、いつでも浮気のし放題だ。
彼のそんな浮かれた表情を見るのは、苦痛だった。
彼が、私のいるリビングに入ってきた。
しかし、彼の表情は、私の予想していたものとは違っていた。
明らかに、顔色が悪い。
家から出て行く前は、あんなに意気揚々としていたのに、どうして?
ただ私に対して冷たい態度をとっている、というわけではなさそうだ。
明らかに、彼は何かに怯えている。
その表情からは、不安や絶望が垣間見える。
「ねえ、ローマン、何か、あったの?」
私は無意識のうちに、彼に尋ねていた。
「うるさい! 僕に話しかけるな! 今僕は、忙しいんだ!」
彼は怒鳴り声をあげ、私の頬にビンタした。
私はその勢いで、床に倒れた。
どうして、こんなひどいことをするの?
私はただ、心配になって声を掛けただけなのに……。
あまりにも、酷すぎるわ……。
気付けば私は泣いていた。
頬も痛いし、胸も張り裂けそうだ。
どうして私が、こんな理不尽な目に遭わないといけないの……。
でも、彼のあの表情は、普通ではなかった。
……もしかして、浮気相手との間に、何かあったの?
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