第12話

 (※ローマン視点)


「あなたが私と浮気していたことを、あなたのお父様に話すわ」


「……は?」


 マリーの言葉を聞いて、私は震えた。

 そんなことをされたら、私はお終いだ。

 どんな処遇が下されても、決して甘いものでないことは確実だ。

 そんなの、嫌だ……。

 頼むから、報告しないでくれ……。

 そう思っていたが、僕はあることに気付いた。


「馬鹿か、君は! 僕が浮気をしていたなんて言う君の言葉を、お父様が信じるはずがないだろう!」


「馬鹿は、あなたよ。私がさっき、何をしたのか、もう忘れたの?」


「え、何をしたかって……、思い出の写真を撮ったくらいで……」


 僕は数分前の出来事を思い出していたが、彼女が特に何かをしていた覚えはない。


「あなた、本当に馬鹿ね。あれは、思い出の写真じゃなくて、証拠の写真よ。あなたが、浮気をしていたという証拠を、私は既に持っているの。あの写真を見せれば、あなたのお父様も私の話を信じるでしょうね」


 確かに、彼女の言う通りだった。

 あの写真を見せれば、誰だって彼女の話を信じるだろう。

 僕は騙されているとも知らずに、写真を撮られてしまった。

 とりあえず、あの写真を処分しなければ……。

 そう思って、あの写真を破り捨てようと思ったが、すぐにそれが無理なことに気付いた。


 そうだ、あの写真は、金庫の中に保管されている……。

 奪うことなど、不可能だった。


「頼む、マリー。なんでも言うことを聞くから、お父様に報告するのだけは、やめてくれ」


 僕は頭を下げて、必死に彼女に懇願した。

 なんて屈辱だ……。 

 この僕が、人に頭を下げるなんて……。


「へえ……、なんでも、言うことを聞くのね?」


 彼女は、その言葉を聞いて、笑みを浮かべていた。

 今までに見たことのない類の笑みだった。

 これが、彼女の本性というわけか……。

 このままで、いいのか?

 彼女にやられっぱなしで、本当にいいのか?

 何か、打開策があるはずだ。

 考えろ……、考えるんだ……。


「そうだ! お父様に写真を見せると言ったが、それだと、君もただじゃ済まないぞ! 僕は既婚者だ! クリスタも、クリスタの親も、黙っていないだろう! 慰謝料を請求されることは確実! つまり、僕を貶めることができるとしても、君もかなり大きな損害を被ることになる! そのリスクを、理解しているのか?」


「何を言い出すかと思えば、そんなこと……」


 彼女はそう呟いたあと、狂ったように笑い始めた。


「そんなこと、百も承知だわ! 私はね、あなたに復讐さえできれば、あとはどうでもいいの! 自分が傷ついても不利益を被っても、何も問題ないのよ! あなたに復讐さえできれば、それでいいのよ!」


「そんな……」


 僕は絶望していた。

 リスクを承知の上で、僕を貶めようとしているなんて……。

 もう、僕には打つ手がない。


「でも、報告は、待ってあげてもいいわ。私はできるだけ長く、あなたの絶望する顔が見たいから。さっき、何でも言うことを聞くと言ったわね」


 彼女は、ゆがんだ笑みを浮かべて、こちらを見ていた。

 そして、とんでもない要求を、彼女はしてくるのだった。

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