第2話

 (※ローマン視点)


 僕はマリーと宿屋の前で別れて、クリスタの待つ家に向かって歩いていた。


 あぁ、久しぶりに、マリーと触れ合えることができた。


 やはり、彼女は最高だ。

 クリスタとは、比べ物にならない。

 彼女とは、また会う約束をした。


 これからも、彼女に会うことができる。

 そのことが、嬉しかった。

 次に彼女に会える日が、本当に待ち遠しい。


 以前に浮気がバレた時、僕はクリスタに土下座して、誠心誠意謝った。

 あれは、嘘偽りのない、本心からの謝罪だった。

 彼女には、本当に申し訳ないことをしたと思っていた。

 だからそれからは、彼女に今までよりもさらに優しく接したし、誰とも浮気なんてしなかった。


 しかし、偶然にもマリーに会ってしまった。

 さらに魅力的になった彼女に誘われて、断ることなんて僕にはできなかった。

 それに、以前にあれだけ誠意を見せて謝ったのだ。

 その僕が、まさかまた浮気をするなんて、クリスタも思わないだろう。


 だから、この浮気は、絶対にバレるはずがない……。


     *


 私はローマンが帰ってくるのを待っていた。


 彼には、お遣いを頼んだのだけれど、少し帰りが遅い。

 調味料がないことに気付いて、私が買いに行こうとしたのだけれど、彼が行くと言ってくれたのでお願いした。

 簡単なお遣いだけれど、普段買い物なんてしないから、時間がかかっているのかしら……。


 私は、以前のことを思い出した。


 彼の浮気が発覚して、私が彼に婚約破棄を申し出たことを。

 あの時は、感情的になって婚約破棄なんて言ったけれど、私とローマンの婚約は、元々親同士が決めたことなので、私に決定権なんてなかった。

 そんなことも忘れるほど、私にとってはショックだったのだ。


 私たちが婚約することによって、両家の関係は強く結ばれた。

 具体的にいえば、お互いに支援をすることになった。

 ローマンの家は、金銭的問題を抱えていたので、私の家から金銭的支援をすることになった。

 そして、私の家は、優秀な人材が不足していたので、ローマンの家から人材を派遣してもらった。

 それらの支援は、現在も続いている。

 私たちは、そのための架け橋のような物だ。


 それでも、私たちの間には、愛があるのだと信じている。


 確かにきっかけは、政略結婚のための婚約だったけれど、同じ時間を共に過ごすことによって、私たちの間には、愛が芽生えていた。

 だからこそ、彼の浮気はショックだったし、彼が必死になって許しを乞う姿を見て、浮気の件は両親には報告せず、水に流した。

 

 そして現在、彼の帰りが遅いので、私の中には、ほんのわずかな疑念が生まれていた。


 でも、さすがにそれは疑い過ぎよね……。

 彼だって、あれだけ謝って、心から反省している様子だったし、今更誰かと浮気をするなんて思えなかった。


「ただいま」


 ローマンが帰ってきた。

 私は、彼を笑顔で出迎えた。


「おかえりなさい。少し、遅かったわね」


「え? あ、ああ……、偶然、友人とばったり会ったから、話し込んでいたんだ。すまない」


 彼はジャケットを脱ぎながら、ソファに座った。

 まだ火をつけていない煙草を口にくわえている。


「いえ、いいのよ。結婚してから、友人と会う機会が少なくなったんだし、積もる話もあったんでしょう。……あれ? 頼んでいた調味料は?」


「え? ああ! しまった! 忘れていた! 今すぐ買ってくるよ!」


 彼は慌ててソファから立ち上がり、煙草を一本持ったまま、家から出て行った。


「もう……、仕方のない人ね……」


 私は少し笑って、ため息をついた。

 ソファには、彼が脱いだままのジャケットが置いてあった。

 着るのを忘れるくらい、彼は慌てていたということだろう。

 まあ、財布はいつもズボンのポケットに入れているので、買い物はできる。

 私は彼のジャケットをハンガーにかけようと思って、持ち上げた。


 その時、何か、違和感を感じたような気がした……。

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