私に隠れて幼馴染と会っているみたいですが、私があなたに警告したことを、もうお忘れになったのですか?
下柳
第1話
「もうあなたとは、婚約破棄よ! 浮気するなんて、最低だわ!」
「クリスタ、本当に、すまない! 僕は、こんなこと、するつもりはなかったんだ……」
子爵令嬢である私、クリスタ・キャンベルは、子爵令息である婚約者のローマン・ボラージュに土下座されていた。
事の発端は、ローマンがこそこそとしていることを、私が怪しんだからだ。
誰かと密かに会っているのではないか、そう思って、家の者に尾行をお願いした。
私が会食に出かけている時なら、ローマンも油断しているだろうから、その時に密会をすると踏んでいた。
そして、案の定、彼は女性と会っていた。
その女性というのが、彼の幼馴染であるマリー・バスティンである。
彼女は未婚で、最近この町に帰ってきた。
そして、それからローマンと会うようになったみたいだ。
彼女とローマンを尾行すると、キスをした後、二人で宿屋に入っていった。
その時の写真を撮ってもらっていたので、私はローマンにその写真を突きつけた。
そして現在、彼は私に許しを乞うため、土下座をしているというわけである。
「頭を上げて、ローマン」
私の言葉を聞いて、彼は頭を上げた。
不安な表情を浮かべて、彼はこちらを見ている。
さっきはつい怒って婚約破棄なんて言ったけれど、少し、感情的になり過ぎたかもしれない。
「もう、マリーとは会わないと、誓える?」
「ああ! もちろんだ! 誓うよ! もう、マリーとは会わない! 本当に、一時の気の迷いだったんだ! 僕が本当に愛しているのは、君だけだ!」
彼は必死な表情で、私に訴えかけた。
誰だって、過ちを犯すことはある。
たった一度の過ちなら、私も何とか、許すことができる。
私は彼の言葉と必死な態度に免じて、彼を許すことにした。
「ローマン、あなたを許します。ただ、言うまでもないことだけれど、次はないわよ」
「ああ、もちろんだ! ありがとう、クリスタ! 君は、なんて優しい人なんだ! そして、本当にすまなかった! これからは、心を入れ替えて、誠実な人間になるよ」
この時は、これで済んだ。
私もそれなりにショックは受けたけれど、一度の過ちで彼を見捨てるなんてことはできなかった。
ローマンも、マリーにもう会わないと伝えて、彼女とは会わないようになった。
私に対しても、いつも以上に優しくなった。
彼なりの、罪滅ぼしのつもりなのかもしれない。
そして、それから一年が経過した。
私たちは、結婚した。
結婚生活は、順調だった。
彼が浮気していたというのも、遠い過去の出来事だと感じるほどである。
*
(※ローマン視点)
僕たちの結婚生活は、順調だった。
クリスタには、本当に感謝している。
僕の過ちを許してくれるなんて、思ってもいなかった。
だからそれから僕は、考えを改め、今までよりもさらに彼女に尽くしてきた。
そんなある日のこと、僕は一人で町を歩いていると、偶然にも、マリーと出会った。
久しぶりに会った彼女は、以前よりもさらに美しくなっていた。
そんな彼女から、僕は誘いを受けた。
僕は、ごくりとつばを飲み込んだ。
いや、だめだ、何を考えているんだ、僕は……。
あの日、クリスタが言っていた言葉を思い出す。
次はないわよと、彼女はそう言っていた。
そうだ、僕はあの日誓ったはずだ。
だから、マリーの誘いを受けるわけには……。
「ねぇ、いいでしょう? どうせ、誰にもバレないわよ」
マリーが甘えた声を出しながら、僕の腕に体を寄せてきた。
さらに魅力的になった彼女からの誘いに、僕の心は揺れ動いていた。
しかし、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。
毅然とした態度で、彼女の誘いを断らなければ……。
クリスタが言っていたじゃないか。
次はないんだ、次は……、まあ、浮気しても、バレやしないか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます