第22話 理不尽だわ
ゲームセンターに行った次の日の放課後。昨日と違うのは今日が部活動の活動日だということだろう。そして俺にとってこれまでと違うのは、一緒についてきてくれる仮部員ができたということだろうか。
「それで小鳥遊君、今日は何するの?」
「さあな」
「さあなって……何も聞いてないの?」
「むしろ今まで計画的にやった活動が何一つとしてないからな」
「それは部活動として成立しているの?」
十数人規模の部活動だったらさすがにアウトだが、俺と柚姉二人で活動していたからこそこのような暴挙が成り立っていたのだ。最近まともに行った活動は小学生向けの資料作りくらいで、それ以外にはあまり活発に活動しているとは言えない。
「新垣は天文部でこれがしたいとかあるのか?」
「あっ、えーっと、そこまで深くは考えてないんだよね。その、なにか活動をしたかった的な?」
「なんか漠然としてるな」
まあどのような動機であれ部員が増えるというのは純粋に嬉しい。この前は柴山と長谷川が同伴していたためまともな活動にならなかったが、新垣が加わることであのやる気のない柚姉にも新たな変化が現れるかもしれない。
「まあうちの部も割とテキトーなとこあるから、大丈夫だ。とりあえず柚姉と睨み合ったりするなよ」
「睨み合うって、そんなことしないよ」
「……(信用ならない目)」
「そ、その、何で目を細めているのかな?」
その辺は新垣の臨機応変な頭脳や柚姉の年上としての心の余裕に期待するしかないか。この前俺の家に来た時も何か知らないがピリピリしてたし。今回はそうならないことを願うばかりだ。
「しっかし、あいつらも昨日から何なんだ」
俺は話題を切り替えるという意味も含めて、今日俺たちのことを送り出した柴山と長谷川の話をする。新垣もなぜか苦笑いをしており、色々と思うところがあるらしい。
それはつい先ほどの事。
『楽、お前今日部活だろ? 新垣さん連れていくのかよ?』
『まあ一応仮部員だし、本人が希望するならそうなるな』
『あーあ、ついてないぜ。家の用事さえなければなー』
『いや、何で外野のお前が行くこと前提になってんだよ』
『だって面白そうじゃん』
『天文には興味ねぇだろ』
『違うと言ったらウソになるな!』
もう本当ヤダこいつ。ふと新垣の方を見れば今の俺たちと同じようなやり取りを長谷川と繰り広げているようだった。こいつら、昼休みも狙って一緒に昼食をとらせようとして来たからな。まあ俺が学食で済ませているのと新垣がお弁当を持ってきているため実現はしなかったのだが、二人が揃ってうざったらしいことには変わりなかった。
「もう、小鳩ったら」
お互いに僅かな苦笑いをして過ごした後、新垣が小さな声でそう呟いた。この二人ってお互いに対して意外と容赦しないからな。この前長谷川が新垣のモノマネをしていた時、新垣がニコニコしながら長谷川の襟首をつかみ廊下へと出て行っていた。その後何があったのかは聞いても答えてくれなかったが、長谷川は新垣の隣で一時間くらいプルプル子猫のように震えていたのでロクなことではないのは確かだ。
(藪蛇ってやつだな)
最近距離感が近くなってきた俺と新垣だが、あれを見て俺も新垣の扱いを雑にしないと心に誓った。だって、あんな目に遭うのは……場合によってはアリ寄りのアリなのでは?
そんな馬鹿なことを考えていると、あっという間に部室が見えるところまでやってきた。俺は新垣にそろそろ着くと言おうとしたのだが、それより先に新垣が指をさしていた。
「あ、小鳥遊君、あそこだよね」
「ああ。さすがにちゃんと覚えてるな」
「……私、さすがにニワトリよりは記憶力いいけど?」
おっと、褒めてみたのだがお気に召せなかったようだ。とりあえず肩をすくめて誤魔化しながら、俺は特にノックをするでもなく部室の扉をおもいっきり開けた。中には相変わらずやる気がなさそうに机に突っ伏しながらスマホゲームをしている我らが部長こと柚姉。だが今日はいつもより姿勢がいい気がする。新入部員が来るから見てくれだけでも整えようとしているのだろうか。
「来たか、仮部員」
「仮部員じゃなくて、新垣です!」
「ふぅ、生意気な小娘ね。またゲームでわからせてあげよっか?」
「それだけはご勘弁をっ!」
どうやら先日行われた柚姉の無双ムーブが軽くトラウマになっているらしい新垣。まああの戦いで柚姉に誰も勝てなかったからな。しかも何を思ったのか柚姉は新垣を執拗に狙って倒してたし。ちなみにあの時の新垣は若干半泣きだった。
「それより楽、肩揉んで」
「俺は召使いか」
「似たようなものです。さあ、お姉ちゃんの肩を揉みなさい。それとも、楽が揉みたいのはム……」
「馬鹿なこと言ってないで、今日は何かあるの?」
話がまたややこしい方向に拗れそうなので俺は柚姉にそう切り出す。ちなみに「今日は何かやることはあるか?」というのは俺がこの部室に来て毎回使うフレーズだ。どうしてそんなことをって? それは察してほしい。
「期待してたなら悪いけど、ない……こともない」
「やっぱそうだよな。悪い新が……今なんて?」
「だから、ないことはないって言ったの」
「へぇ、珍しいじゃん」
そう言って柚姉は部室の棚に乱雑に置かれている本を引っ張り出してきた。その本はかなり新しく、俺も一年以上活動してきて見たことがない柄をしていた。柚姉が最近買ってきたのだろうか。
「二人のどっちかに、この本に書かれてること覚えてほしいの」
「これって……星占い?」
柚姉が天文部の棚から持ってきたのは星に関する論文や本でもなく占いについて書かれた本だった。ご丁寧に全ページフルカラーで書かれており、教科書くらいの厚みがある。ちなみに値段は二千円。絶妙に高い。
「なんでこんなもんを」
「私たちって、他の部活みたいに見せられる活動が何もないでしょ? だから先生と話し合ったんだけど、星に関することなら何でもいいんじゃないかって。その結果が星占い」
「神頼みかよ」
「神じゃない。古代ギリシャの人たちが考えた星座を誕生日とか月日をあれこれして……」
「言い回し変えただけだろ。毎朝ニュースでやってんぞ」
「もう、ロマンがないなぁ楽は。それを私たちがやるだけ」
柚姉の話はどこか要領を得ない。この人って話を脱線させるのが本当に得意なのだ。そして脱線を楽しみ切った後に本題を切り出すから性格が悪い。本題を出してくるころには集中力が切れてるっつーのに。
「ようするに、自分たちで星座占いをやって、ポスターとかにまとめて掲示板に貼らせてもらおうってわけ。そうすれば多少は活動してる風に見えるでしょ?」
「へぇ……いいかもなそれ」
「ついでに私たちが占いを覚えて、ポスターで占ってほしい人を募集するの。もちろん時間とかは限定する予定だけどね」
これは、かなりいい提案かもしれない。占いなんてどうするのかと思ったがそういう使い方があったのか。掲示板に貼らせてもらうことができたら教職員含め多くの人の目に留まることになる。そしてそれが当たり前になれば、天文部の存続も多少は明るい?
俺は一年後の自分の姿を想像する。
※ ※ ※ (楽の妄想) ※ ※ ※
未来の一年生『小鳥遊部長。お疲れ様です!』
一年後の自分『ああ、お疲れ。それじゃ今日も部活を始めようか』
未来の一年生『そういえば、入部希望者が殺到しているそうですよ!』
一年後の自分『そうか、随時対応しておこう(キリッ✧)』
未来の一年生『さすが先輩、頼りになるし格好いい!』
一年後の自分『( •̀ .̫ •́ )✧』
※ ※ ※ (妄想終了) ※ ※ ※
(あれ、なんか俺気持ち悪い)
だがこんな未来になってくれるほど天文部が盛り上がって欲しいものだ。仮に新垣が入ってくれなかったら天文部は俺一人になってしまうし、そうなれば天文部が廃部になってもおかしくはない。願わくば、多くの人が凄いと言ってくれるような活動にしたいものだ。
「じゃあ仮部員、これ全部読んで明後日までに覚えてきて」
「明後日まで!?」
「私はもう覚えた。最初は楽に覚えてもらおうかと思ったけど、何ならこれを入部のテストにしようって昨日家でアイス食べて寝っ転がってたら思いついたの」
「り、理不尽な……」
「あっれぇ、何か辛辣ぅ~」
「うう、このノリウザい」
最初は年上のため敬語を使っていた新垣も徐々に言葉の節々が雑になってきた。さすが新垣、柚姉との接し方をだんだんわかってきたな。
「ポスターはパソコンで作るから、早いうちに行動したいの。わかったら、明後日までに全部覚えてきて。コレ、部長命令。アナタ仮部員。どぅーゆーあんだーすたん?」
「わ、わかりましたよ」
「明後日簡単にテストするから、そのつもりで。まあ中途半端な点数を取るもんなら、天文部は今後とも私と楽の愛の巣に……」
「ま、負けません!」
そう言って新垣初の部活動は波乱の幕開けとなってしまった。果たして二日ほどでどこまで教科書くらいの厚みがある本を読み込んでくることができるのだろうか。
ちなみにこの傍ら、俺は図書室や天文部の本棚を漁り様々な星座の説明文を書くことになるのだが、ポスターに納得のいかない柚姉の作業も手伝うことになってしまったので結局のところ一番の負担が掛かるのは俺になってしまった。そしてそれを、笑顔と苦笑いで応援する部長と新入部員……
うん、やっぱこの部活理不尽だわ!
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