第21話 よし、後は……
「やりやがったなお前ら?」
はぐれていた柴山と長谷山に合流できた俺の開口一番はそれだった。新垣とゲーセンを楽しみつつ周囲を見渡していたところマ〇オカートに興じる二人を発見。俺と新垣が接近しても気が付かない程度にはレースを楽しんでおり、どこで覚えたのかわからない専門用語を叫びまくっていた。ちなみに長谷川がハンドルを握っており、柴山は背後で応援していた。
『よし、ここで打開しろ!』
『甘いね柴山。アーケード版でそれはあんまり強くないんだぞ!』
『そうなのか? っておい、NPCにショトカ決められてんぞ!』
『よーし、こっちはインコースを攻めまくるぜぇ!』
『お前ら、何やってんの?』
『『……あ』』
そんなこんなで楽しんでいる二人を発見しゲーセンの端っこで四人揃って佇んでいた。この二人が「やっちまった~」みたいな表情をしているのが絶妙にムカつくし、それと同時にニヤニヤしてるのでつい手がワナワナと震えてしまう。
「マジで結構探したんだぞ。仕方ないから二人で楽しんでたけど、どうして俺たちを隔離してハンドルを握ってんだよ長谷川」
「いやぁ、その……サプライズ的な?」
「意味が分からないし絶対使い方間違えてんだろ……柴山は? なんで長谷川の背後霊になってたんだよ」
「ああ、よくよく考えたら俺、この前ゲーム買って小遣い使い果たして金もってねぇ」
「お前よく俺のことをゲーセンに誘えたな」
一文無しの状態でどうやってゲームセンターを満喫するつもりだろうか。さすがに俺にたかるということは柴山に限ってないだろうが、せめて自分の小遣いくらい管理できるようになっててくれよ。
「まあまあ、お互いそれなりに楽しめてたじゃん。ほら、凛ってばそんな良いぬいぐるみを取ってもらって」
「もう小鳩、茶化さないの!」
「い、いはいよ凛」
軽口を叩いて新垣にほっぺたをつねられムニムニとされる長谷川。まあ新垣も自分を誘ったはずのもう一人の女子がいなくなって寂しかったのだろう。再会できたからか頬が少し赤くなっているし。
(あれ、というか……)
今の長谷川の言葉。もしかしてこいつら……
「お前ら、そのぬいぐるみを取ってたとこ遠くから眺めてただろ」
「「ぎくっ」」
「やっぱりかよ」
今の長谷川の言い方は俺がぬいぐるみを取ったところを見ていないとできないような断定した言い方だった。つまりこいつらは俺たちのことを遠くから肉眼でモニタリングしていた……と。うん、マジで何してくれてんだよ!
「あのなぁ、お前ら……」
「ほら、それより長谷川がさっきいい提案をしてくれたんだ。あっち行こうぜ!」
「……話を逸らしたな」
そう言って俺たちのことを先導する柴山と長谷川。あいつらなりに反省はしているようだが、せめてもう少し自重をしてほしいものだ。そして俺と新垣は二人に促されるままゲーセンの奥地へと歩を進めてゆく。そして辿り着いたのは……
「ねぇ小鳩、これって?」
「プリだよプリ。せっかくだし、みんなで撮ろ!」
意外にも二人が連れてきたのはプリクラの筐体が並ぶ一角だった。男子だけでは非常に行きにくい場所であるためこのゲーセンに通っている俺もこのエリアに入ったのは初めてだ。
「なんか意外だな。柴山がこういうのに興味持つって」
「あ? 俺は意外と好奇心旺盛だぜ?」
「だからいつも変なことに巻き込まれるんだよお前は」
「細かいことは気にしてても仕方ないだろ。ほら、置いてかれるぞ」
そう言って柴山は俺の肩に手を回してプリクラの中へと入り込んだ。先に入っていた新垣と長谷川は慣れたように画面を操作していた。どうやら二人でもたまにプリクラを撮りに来ることがあるらしい。本当、どうして女子は自撮りとかをするのが好きなのだろう?
そう思っていた時、投入口に書かれていた金額が目に入る。へぇ、四百円……四百円!?
「って、これ四百円もするのかよ!?」
「それくらいで驚いてちゃこの業界じゃ持ちませんぜお兄さん?」
「小鳩、そのキャラ何?」
プリクラなんて高くて二百円くらいだと思っていたのだが、まさかここでそんな事実を知ることになるとは。最近の女子高生はもしかしたらお金持ちなのかもしれない。
「あ、これ割り勘だから。柴山は明日百円持ってきてねー。それかジュース奢って」
「それくらいならいいぜ。楽、立て替えといてくれ」
「結局俺かよ」
「ほら、この前ポテト奢ってやっただろ?」
「……払います」
そういえばこの前ポテトを奢ってもらっていたのだがすっかりお金を返すのを忘れていた。ちなみにその値段はおよそ二百円とプリクラ割り勘分のおよそ二倍。思い出される前に素直に支払っておこう。
「それじゃ二人とも、もう少しこっちによって。あ、柴山は一番端っこね」
「わーってるよ」
そうして俺は柴山に押されるようにプリクラの真ん中部分へと押される。そして同じく端っこになった長谷川に押される新垣が俺の隣へと立った。
「ちょっと二人とも、もう少し詰めてくれなーい? それじゃ私と柴山が切れちゃうよ」
「ちょ、だからってそんなに押すな!?」
俺と新垣は肩や腕が触れ合うほど接近する。頑張って平然を装おうとするが、目の前のディスプレイにはすっかり顔が赤くなった俺と新垣が映り込んでいる。新垣に関しては耳まで赤くなっており先ほど俺が取ってやったぬいぐるみの顔が崩壊するほど強く抱き込んでいた。
「ほら二人とも、顔が赤いぞ。制限時間とかあるんだからスマイルスマイル」
「そ、そんなこと言われても……」
「思い出作り見たなもんなんだから、最後まで楽しめ~」
「なんてお気楽な……」
そう言って俺たちが離れないようにがっちり横で押さえつける柴山と長谷川。どうやらこのまま撮影するしかなさそうだ。そのままスピーカーから長々と説明が流れ、とうとうその時がやってくる。
『それじゃあ画面を見てね! 5・4・3……』
俺はできる限りの笑顔を作った。少し不自然かもしれないがそれは初めてということで許してほしい。柴山もある意味似たようなものだ。だが女子二人は慣れているのか完全に笑顔を決めており、不覚にも滅茶苦茶かわいいと思ってしまった。いや、二人とも女子力のレベルは高かったな。
『2・1……パシャ!』
そうしてその後も何回かに分けて撮影が行われた。さすがに俺も回数が進むにつれ慣れて来てピースをし始めたり、長谷川も奥の方で目元でピースをするなど思い思いに楽しんだ。そして最後の一回。
「それじゃ最後の一回は小鳥遊君と凛の二人きりで撮ってもらおうか!」
「え、なんでだよ!?」
「いいからいいから!」
そうして長谷川は奥の方から器用に扉の方に抜け、柴山を連れてカーテンを閉めてしまった。というか柴山も抵抗なく連れていかれたあたりこうなることを読んでいたのではないだろうか?
「ど、どうしよっか小鳥遊君?」
「まあ、とりあえず撮ろうか」
「そ、そうだね!」
そうして俺と新垣の二人きりのプリクラが始まる。だが
「なぁ新垣、あの二人がいなくなってスペースが開いたんだからこんなに密着しなくても」
「せ、せっかくだから。ほら、始まるよ!」
そうして先ほどと変わらない距離感でシャッター音が切られ、プリクラでの撮影は幕を終えた。その後は二人も仲に戻ってきて落書きなどで遊び始める。
「プププ、凛ってばピースの指が曲がってる」
「しょ、しょうがないでしょ! 小鳩が押してくるんだもん」
「最後の二人は揃って顔が真っ赤だし、こりゃ落書きのしがいがあるねぇ」
そうして女子は女子で盛り上がる。ちなみに柴山は落書きには参加せず俺たち三人のことを一歩後ろから眺めており保護者のような立ち位置になっていた。
(今のうちに柴山の顔に落書きしまくるか)
そうして俺もペンをとり柴山の顔を異常なほど加工していく。二人も空気を読んで黙っていてくれて笑いをこらえながらどんどんデコっていった。そうして外の印刷口に出来上がった写真が出てくる。
「おお……って誰だよ俺の顔面に流行りのタコを上塗りした奴!?」
「まあまあ、俺たちにも原罪があるってことで……」
「楽、お前だな?」
そう言ってわーわー騒ぎ出す俺たち男子。新垣たちはその写真を大事にクリアファイルへとしまい、嬉しそうな表情をしていた。その様子に気が付いた長谷川はこそっと新垣に尋ねる。
「凛、嬉しそうだね」
「そ、そう?」
「よし、後は告るだけだ」
「そうだね、告……こくぅ!?」
新垣が大きな声を出していたので俺はその方向を見てどうしたんだと長谷川に尋ねるが気にしないでと追い返された。とりあえず俺は柴山と写真を見て笑い合うことにしておくが、女子二人の会話はヒソヒソと続く。
「ちょっと、どういう意味!?」
「あ、ごめん。凛は告る側じゃなくて告られる側が良かったね」
「いやそういう問題じゃなくて!」
「なんで、脈はありそうなのに?」
「い、いきなりすぎるよ!」
「割ともう十分じゃない? 凛が小鳥遊君の事意識してるの、見る人が見ればバレバレだよ?」
「そ、そんなことないもん」
「アタックしないと、他の女の子にとられちゃうぞ?」
「う、ううっ」
そうしてしばらく話し込んだ後、二人は俺たちと一緒にゲーセンを後にした。久しぶりに来たけど結構楽しむことができた。途中で色々とあったが、まあ終わりよければすべて良しということにしておこう。
プリクラの話や俺たちが放置されていた時に柴山たちは何をしていたのかなどで話は盛り上がり、すっかり日が暮れてしまった。楽しい時ほどすぐに時間が過ぎていくのは何故なのだろうか。
「じゃあ二人とも、またね~」
「それじゃあ、また明日ね」
「俺もあっちだから。それじゃあな」
「ああ、また明日な」
そういって新垣は長谷川と一緒に帰り、俺と柴山はその場で別れる。今日は楽しい一日を過ごす子ができた。これで明日が休日とかなら言うことなしなのだが、まあ贅沢は言うまい。とりあえずいい息抜きになった。
「ま、気が向いたらまた誘ってみるか」
今度は自分から誘ってみよう。案外また一緒に行ってくれるかもしれない。俺はプリクラの写真に写る新垣たちを眺めながらこれからのことに想いを馳せるのだった。
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