白銀の天使、領主の正体を知る

 領主邸のとある部屋。そこには豪華な椅子に座っている一人の男と、机の下には複数の女性がいた。

 女性達は生まれたままの姿で、首には首輪があり、そこから伸びた鎖を男が掴んでいた。


「領主様! 失礼します」


 兵士が入室する。領主と呼ばれた男は、不機嫌そうに答える。


「なんだ? 執務中だぞ」

「き、緊急の用件でして……」

「はぁ、何だ?」

「白銀の天使と関わりのある姉弟を捕らえました!」

「なにっ!? それをはやく言え。準備は整っているな?」

「もちろんです! 白銀の天使を誘き出すための準備は整っています」

「そうか、執務が終わったらすぐにいく」


 兵士は退出する。領主は、一部真っ白に染まっている女性達を放置し、身だしなみを整え始めた。

 しかし、領主が部屋から出ることはなかった。突然ドアが破壊されたからだ。


「な、なんだ!?」


 壊されたドアから、黒いローブに身を包んだ二人の人影が見える。そして、その二人はフードを取った。


「こっちから来てやりましたわ」

「お、お邪魔しますっ!」


 指名手配されているアイリスとカレンの姿がそこにあった。


「一体、どうやって……!?」

「普通に玄関からお邪魔しましたわ」

「はぁ!? 兵士達は何をやっているんだ?……まぁいいか。探す手間が省けた」

「アイリス、やっちゃってくださいまし」

「はい! 領主様、指名手配を撤回してください」


 二人は領主の返事を待つ。だが、いつまで経っても返事がなかった。黙っている二人の様子を不思議に思った領主の口が開く。


「いや撤回はしないが?」

「あ、あれ……?」

「魅了が効いていませんの?」


 アイリスとカレンは驚いた。


「ふむ……どうやら状態異常耐性を持っているようだな」


 黒猫はこっそりと二人に耳打ちする。


「ど、どうすれば……」

 

 アイリスが悩んでいると、領主とは別の方から、ううっ……とうめき声がした。その声は机の下から聞こえてくる。そこから裸の女性達が出てきた。

 アイリスとカレンはその女性達の状態を見て、目を逸らしてしまった。女性達の身体には、あちこちに傷や痣があって、白く染まっていた。


「勝手に出てくんな」


 不機嫌になった領主は、ゲシゲシ、と女性達を蹴飛ばした。


「ひ、酷い……」

「クズですわ」

「はぁ、こいつらは奴隷だからいいんだよ。使えなくなったら、捨てるだけだ。新しい奴隷を買うか、その辺で攫えばいいし」

「女性を何だと……!」


 領主の言葉に、カレンは激怒する。


「性欲を発散させる使い捨ての……」


 領主が全てを言い切ることは無かった。

 ――アイリスが全力でルビーを握りしめた拳で、領主を殴り飛ばしたからだ。

 領主は壁を突き破り、外へ飛んで行った。



◆◆◆◆



「ん……?」


 領主が目を覚ますと、兵士と街の人々が集まっていた。


「領主様! 一体なにが!?」


 包帯グルグル巻きの兵士長が尋ねてくる。


「それは俺が聞きたい……ここは広場か?」

「はい! 天使を誘き出す姉弟もこちらに」


 両手足を縛られているプランとキッドが横たわっていた。


「そうだ……兵士からの報告で、準備を……そしたら、あいつらが……!」


 徐々に思い出してきた。


「あの小娘……よくも俺を……!」


 領主は激怒する。怒りと同時に、頭に角と身体に羽が生えた。


「ひぃっ! 領主様が魔族に!?」

「魔族が現れた!?」

「いやぁぁあああ!! 」


 人々は、突然現れた魔族に混乱し、恐怖する。


「ちっ、うるさいなぁ……」


 そして、領主は鬱憤晴らしに、集まってくる人々へ火の魔法を放つ。


「「うわぁあああああ!!!」」


 広場は火の地獄と化した。



◆◆◆◆



「広場までお願いします」

「俺に任せてください! 天使様!」


 近くにいた男に、魅了を使う。アイリスは、殴り飛ばした領主を追い、広場へ向かっていた。カレンや父とは別行動だ。カレンは回復魔法が使えるので、女性達の怪我の治療を。アイリスの父は、領主の悪事の証拠を集めるため、領主邸に残っている。


「ここが広場です!」

「広場が燃えている……あっ、案内ありがとうございました! もう大丈夫ですよ」

「いえいえ、最後まであなたと一緒に! この命が尽き……」


 男の言葉は最後まで聞こえなかった。

 ――突然、火の魔法が飛んできたからだ。


「待っていたぞ 、白銀の天使……!」


 魔族がアイリスに声を掛ける。しかしアイリスはじっーと、魔族を見るだけだった。


「どうした? 怖くて声も出せないのか?」

「えーと、どちら様ですか?」

「お前に殴り飛ばされた領主だよっ!!」


 アイリスに思い出させるため、領主の姿に戻る。


「え!? 魔族だったんですか!?」

「それだけじゃない……! 俺は、魔王軍四天王の一人……アイチだっ!」

火炎弾ファイヤーボール


 名乗った瞬間、アイチへ火の玉が直撃して、体は火で包まれた。


「パパの仇」

「あちち……不意打ちは卑怯だぞ!」

「うるさい! パパに呪いをかけて……! それにあの女性達にも……絶対に許さない!」

「パパ……? あぁ、元魔王のことか。ん? もしかして、あいつの子供なのか?  まさか白銀の天使様が、元魔王の娘だとはな……これは傑作だ。復讐は、あいつの前でお前を犯すとしよう!」


 アイチが気味の悪い顔を浮かべて笑った。


「白銀の天使様が、四天王と戦っている!」

「おぉ!!」

「天使様がんばれー!!」


 そして街の人々がアイリスを見るため、集まってきた。


「俺たちも加勢しないか?」

「そうだな。やるぞ!」


 街の人々はアイリスへ加勢しようとした。点数稼ぎをしたくて、必死の様子だ。


「こちらに来てはダメです。危ないですよ!」


 アイリスは魅了を使って人々を止める。そしてアイチに魔法で攻撃しようとした。


「ファイヤー……」

「おっと、このまま魔法を使っていいのかな? この姉弟がどうなっても知らないぞ。洗脳魔法とやらも使うなよ」

「アイリス……」

「アイリスさん……」

「くっ……」


 道具屋の店主プランと弟のキッドが人質になっているのに気付き、アイリスは魔法の詠唱を中断する。


「聞き分けのいい女は大好物だぞ……次は、そのローブを脱いで貰おうか」

「やだ……」

「あ? じゃあ殺すか」

「わ、分かりました! ローブ脱ぎますから、その人達を殺さないでぇ……!」


 涙目でローブを脱いでいくアイリス。

 そんな彼女を、街の人々は見ることしか出来なかった。

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