アイリス

「指名手配だと!?」


 アイリスは父とカレンに手配書を見せる。そこには、アイリスとカレンの顔写真と文字が載っていた。


『白銀の天使と金髪の女。容疑は殺人。2人を捕らえた者には、金貨30枚』


「これじゃあ、外に出られませんわ……」

「パパどうしよ……」

「……俺にいい案がある」

「流石、元魔王ですわ」


 アイリスとカレンは元魔王の案に期待した。


「それは――領主をシメに行く」


 ――元魔王は脳筋だった。



◆◆◆◆



 とある住宅街。

 そこでは黒いローブを纏い、フードを被っている二人組と黒猫が走っていた。それは、領主邸を目指しているアイリスとカレン、そして黒猫の元魔王であった。


「アイリスの魅了を領主に使って、指名手配の撤回をして貰いますわ」


 カレンの案で決まったが、領主に会うためには、結局乗り込むしか方法が思いつかなかった。昼間も夜間もたくさんの兵士達が厳重に見回りをしているのだ。


「アイリスにあまり魅了を使わせたくないが、今回は仕方ない。頼むぞ、アイリス……あれ?」

「アイリスがいないですわ!?」


 いつの間にかアイリスの姿が消えていた。


「しまった! アイリスは重度の方向音痴だったんだ!!」

「それを早く言ってくださいましー!」


 アイリスは基本的に外を出ない。テッドに虐められるので、必要最低限の外出しかしなくなった。ちなみに道具屋まで迷わないのは、店主プランがしばらく案内してくれていたからだ。


「ここどこー!? パパー! カレンー!」


 アイリスは迷子になっていたが、彼女には秘策があった。


「そうだ! 兵士さんに道を聞こう」


 忙しそうにしている近くの兵士に声を掛けた。


「あのー、お忙しいところすみません。領主邸の場所ってどこですか?」

「あん? そんな怪しい格好の奴に教えることなんて……」


 兵士はアイリスをまじまじと見る。


(女……だよな? 可愛かったら、一発ヤらせてもらおうかなw)

「あの」

「ちょっとフードを取ってみろ」

「……? いいですけど」


 兵士に言われてフードを取る。しかし父の言葉を思い出し、「あっ」と漏らして、また被る。


「白銀の天使様じゃないですか!!」

「ちょ」


 兵士が大声で叫ぶ。近くにいる人々に伝わる声量だ。


「えっ!?」

「どこだ!?」


 当然騒ぎとなってしまった。


「あわわ、逃げなきゃ!」


 慌ててその場から離れる。しかし、兵士や街の人々が追いかけてきた。

 

「ど、どうしよ〜……あっ! 命令すればいいのか」


 父親から言われていた能力の使い方を思い出し、実行する。


「みんな、静かに!」


 アイリスはフードを再び取る。


「はい」

「分かりました、天使様」


 アイリスの一言で、その場は静かになる。


「助かった……はやく合流しないと」


 アイリスは近くの兵士から、領主邸の道を改めて聞こうとした。


「おいアイリス!!」


 すると、目の前にテッドが現れた。顔には憤激の色が漲っている。


「テッド……」

「お前、よくも裏切ったな……!」

「は?」


 いきなり、訳のわからないことを言われて困惑した。


「俺以外に顔を見せただろ!!」


 顔が見る見る怒りで赤くなっていく。昔から受けている暴言を思い出して怖くなり、アイリスの身体が震える。


「このブタが! 友達0人のブサイクは、俺の言うことを聞いていればいいんだよ……!」


 友達0人……その言葉にアイリスは、以前の自分とは違うことを思い出す。


(あたしにはパパがいる。道具屋の姉弟、そして――カレンというかわいい友達がいる……! もうテッドなんて怖くない!)


 右手に持っているルビーを握りしめる。


「こっちに来い。これからお前を分からせてやる! 身体でなw」


 ぐへへ、と気色悪い顔を浮かべる。

 力無き少々を、自分の手で汚して、喘がせる未来がテッドには見えていた。

 その未来へ期待してアイリスの腕を掴もうとする。


「いる」

「え?」

「友達ならいるもん!」

「嘘つけ。まぁ居たとしても、同じブサイク仲間か?……あぁ、同じブタか」


 その瞬間、アイリスは握りしめた手で、テッドの顔を殴り飛ばした。


「へぶっ!?」


 テッドは家の壁に突き刺さった。


「あたしなら何を言われてもいい。でも、友達を馬鹿にする人は許さない」


 今の騒ぎでまた兵士や街の人々が集まってきた。


「おい、こいつ天使様のことを罵倒していたぞ」

「はぁ? 許せんな」

「オラッ!」


 アイリスに惚れている一人が、テッドを壁から引き抜き、地面へ思いっきり叩きつける。「がふっ」とテッドは唸る。


「アイリス、ここに居たか!」

「探しましたわよ!」


 すると、カレンと父親が来てくれた。


「ごめん、迷っちゃった。二人ともどうしてここが?」

「探していたら、白銀の天使、と声が聞こえてな。騒ぎのある場所に行けば会えると思ったのだ……ん? アイリス、少し雰囲気変わったか?」

「ふふ、そうかな?」

「あちらは、一体なにが?」

「気にしないで、行こう」


 アイリス達は目的地へ向けて走る。

 

 一方、テッドは街の人々に殴られたり、蹴られたりして、ボロ雑巾のようになっていた。


(絶対に許さねぇ……覚えてろよ、アイリス……!)

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