1個目のスキル

「あ、金髪さん! 先程は助けてくれてありがとうございます」

「金髪ちゃん、娘を守ってくれてありがとな!」


 恩人の存在を思い出した親子は感謝の言葉を述べる。


「金髪じゃなくて、カレンですわ! それに助けられたのはこちらです……あのままだったら……」


 アイリスの放った魔法がなかったら、いまごろ女性の尊厳をズタズタにされ、最後には殺されていただろう。

 

「そういえば、あの火炎弾ファイヤーボールは何なんですの!? 大きさも威力も火の初級魔法とは違いますわ」

「あたしもびっくりしました……赤い石を掴んだら、力が漲ってきて……」

「それは伝説の宝石ルビーの力だ。所持者に身体強化と強力な火属性魔法を与える」

「初級魔法であの威力……チートすぎますわね」

「伝説って……本にもなっているあの宝石伝説ですか!?」


 この世界には、五つの宝石ーーダイヤモンド、エメラルド、ルビー、サファイア、アメジストが存在し、所持者には強力な力を与える。ダイヤモンドは光属性魔法、エメラルドは風属性魔法、サファイアは水属性魔法、最後にアメジストは闇属性魔法だ。

 たたでさえ一つ一つの宝石に強力な力が秘められているのに、伝説の続きはまだあった。

 それはーー

 

『五つの宝石を全て集めると、どんな願いでも一つだけ叶う』


 アイリスは本棚から宝石伝説の本を持ってきて、父に見せる。


「わたくしも聞いたことがありますわ」

「あぁ、その伝説だ。俺は体を戻してもらうため、宝石を集めていた」

「パパはどうして黒猫に?」

「情けない話だが……元部下であるの呪いのせいで、この姿にされてしまった……」

「アイリスを巻き込みたくなくて、俺は1人で宝石を集めに行った。5年でようやく1個だけどな……そして王都で宝石の情報を収集している時、この街の黒い噂をいくつか聞いてな。俺は嫌な予感がして、この街に戻ってきたわけだ」


 アイリスは涙目で黒猫となった父を抱きしめる。その横で、カレンは驚きを隠せない表情をしていた。


「あのー、天使様のお父様って……魔王ですの?」

「そうだが……あ、やべ」


 アイリスの父親は娘にも隠していた秘密を漏らしてしまった。


「「えぇぇえええええ!?」」

 

 二人の絶叫が響いた。




「あたし、魔王の娘だったの……?」

「今まで秘密にしていて、すまんな……」


 アイリスはどこにでもいるごく普通のモブな少女だと思っていた。しかし正体は魔王の娘だったのだ。元だが。


「頭が追いつきませんわ……しかし、どうしてこの街に魔王が?」

「話せば長くなるのだが……魔王はもうやめた」

「「えっ」」

「ハニーと駆け落ちして、この街に越してきたのだ」

「「駆け落ち!?」」

「それよりも、この街についてなんだが……俺の調べによると半年前に領主が変わって、そこから犯罪が増加して街の様子はおかしくなったらしい。アイリスは何か気付かなかったか?」


 アイリスの父親はこれ以上話をしたくないのか、別の話題に切りかえた。


「ママとの駆け込ちは……」

「それはまた今度で」

「えー……聞きたかったなぁ……今度絶対に教えてね! それで街の様子は……あまり外出していなかったから……あ、道具屋の店主さんからは気を付けて、と言われたよ」

「そうか……何もなくて安心したよ。ちゃんとアイリスのスキルの封印も解けてるみたいだし」

「そういえば脳内で声が響いて……確か……」


 兵士達がアイリスの容姿を見た時、スキルの封印が解除されたのだ。


「あぁ、アイリスのスキルは魅了だ」

「魅了ですって!?」

「このスキル強力だが、逆に危険も伴う」


 アイリスとカレンには心当たりがあった。


「兵士達の告白を断った天使様を親の敵のように睨んでいましたね」

「そうだ、愛と憎しみは紙一重。一歩間違えれば憎しみに変わり、自身を滅ぼす」

「ひ、ひぃぃぃ……!」

「ステータスの鑑定をした時は驚いたぞ……産まれたばかりの娘が魅了を持っていたからな。危ないと思った俺とハニーは、14歳ぐらいになったら封印が解けるように仕掛けをしたのだ」

「仕掛け……ステータスにそのようなことができるなんて」

「あまり魅了を使ってほしくはないが……使う時は気を付けてな」


 うん、とアイリスは頷き、告白されたときは言葉に気を付けようと心に決めた。


「さて夜も遅いし、そろそろ就寝にするか。これからのことは明日話そう。あ、その前に二人はお風呂入りなさい」


 アイリスとカレンは兵士達との戦闘で疲れが溜まっていた。特にカレンは、ほぼ全員と戦っていたので、疲労がかなり溜まっている。


「お風呂ありますの!?」

「風呂を知っているのか?」

「えぇ、大好きですわ!」


 カレンは入浴できることに大喜びしていた。


「カレンさん、お先にどうぞ」

「お言葉に甘えましてお先にいただきますわ」


 その場でカレンはゆっくりと装備を脱ぎ、浴室へ向かった。


「ここで脱ぐなっ!」

「パパ、注意するの遅いよ……」


パシッと、父の頭を叩く。


「すみませんでした」


 アイリスの父は娘に土下座をした。

 ーー鼻血を垂らしながら。






→あとがき


次回、お風呂に入ります。

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