モブな少女は天使と呼ばれる

「無理です。女の子を集団で襲うような人と結婚なんて嫌です。そもそも初対面ですよね」

 

 アイリスは兵士達を振って拒絶する。


「そ、そんな……」

「天使ちゃんに振られた……」

「人生終わった……」


 兵士達は地面に手をつき、深く落ち込んだ。


「天使? 冗談はやめてください。あたしはブザイクなのに……本物の天使様に失礼ですよ!」

「ブサイク……? いや、あなた美少女ですわよ! 閉じ込めてずっと鑑賞していたいほど……」

 

 金髪美少女がアイリスへ異議を申し立てた。危ない発言もあったが、アイリスは聞かなかったことにする。


「金髪さんもですか……そろそろ冗談は」

「ふざけるなっ!!」


 兵士の一人が突然叫んだ。そして立ち上がってアイリスを睨みつける。


「俺の物にならないなら……ここで死ねぇええー!」

「やめてくれ、兵士長!  俺の天使ちゃんを殺さないでくれぇええ!!」

「やめろぉおお!!」


 兵士長と呼ばれた男が剣で切り掛かってくる。凶器がアイリスへ近づく。怒り狂っている兵士長の殺気でアイリスの足は動かなかった。アイリスは諦めて目を瞑る。

 

 キィィン!!


 金属のぶつかる音がした。アイリスは一向に痛みが来ないので、目をゆっくりと開けることにした。


「白銀の天使様に手は出させませんわ!!」


 そこには金色の髪を伸ばし、燃える炎のような赤い瞳の少女が、アイリスの前に立って自身の剣で攻撃を防いでくれた。


「金髪の女! 邪魔すんな!」

「兵士長、俺も手伝うぜ……」

「俺も」


 アイリスに振られて落ち込んでいた一部の兵士達も、彼女を睨みつけて剣を取り、兵士長に加勢する。


(この人数……厳しいですわね)


 金髪美少女は焦燥感に駆られる。兵士の人数が多すぎる。さらにアイリスを庇いながら戦うので、金髪美少女は劣勢であった。



◆◆◆◆



「はぁはぁ……」


 アイリスを守りつつ、兵士を数人倒した金髪美少女の体力は限界を迎えていた。そして胸元が見える白いアーマーや赤いスカートはボロボロだ。


「金髪さん、あたしを置いて逃げて……!」

「それはできませんわ!」


 兵士はまだ数人残っている。このままでは2人とも殺されてしまう。


「へへっ、そろそろだな……お前ら! 邪魔する女の手足を抑えとけ」


 兵士長が部下の兵士達に命令をする。彼らは金髪美少女の手足を抑え始めた。


「は、離しなさい!」


 普段の彼女であれば、このような拘束を抜け出すことは容易だ。しかし、今は体力が少ないのでそれは困難であった。


「兵士長~! 今ここで犯してもいいすかぁ?」


 手足を抑えている兵士が、にやついた笑みを浮かべながら兵士長に尋ねる。


「あぁ、いいぞ」

「やったぜ」

「へへっ、一番は俺から行くぜ」

「こ、こら! やめなさい……!」


 兵士は息を荒くして、目を獣のようにギラギラと光らせ、全身を舐め回すように金髪美少女を見つめる。

 そして赤色のスカートを手に取り、それを下ろそうとした。


(誰か……助けて……!)


アイリス達はもう神に願うしかなかった。




「アイリス」


 アイリスはふと自分の名前を呼ばれたことに気付く。そして声のする方へ顔を向けた。すると黒い物体がアイリスの元へ転がってきた。


「黒猫?」

「アイリス! この宝石を掴め!!」

「猫が喋った!?」

「早く!」

「は、はい!」


 黒猫の首輪にある赤い宝石を掴む。アイリスの右目の瞳が紫から手に持つ宝石と同じ赤色に変わった。


「すごい……力が溢れてくる……!」

「天使の雰囲気が変わった……? 早く仕留めなければ……!」


 兵士長は危険を感じ取ったのか、アイリスへ向かって剣を突き刺そうとする。


火炎弾ファイヤーボール!」


 アイリスは、兵士が使用していた魔法の呪文を唱えた。


「そんな初級魔法、俺には効かないぜっ!」

 

 だが兵士が使用した火の魔法とは違い、大きな火の玉が出現する。


「は?」


 火の弾はそのまま兵士長に直撃した。


 ドォオオン!!


 街に大きな音が響く。そして兵士長は――


「あぢぃぃいいいいい!?  だずげてくれぇー!!」

「「へ、兵士長ぉぉおおおお!!!」」


 そこには黒焦げの兵士長が居た。


「な、何なんですの……!?」

「アイリスよ、今の内に逃げるぞ」


 騒ぎが拡大する前にアイリスと黒猫はその場から撤退した。


「お、お待ちくださいませ!」


 驚いている兵士達を蹴飛ばし、金髪美少女も後を追った。



◆◆◆◆



 アイリス達は自宅へ戻ってきた。


「黒猫さんは何者? この宝石は何? あの兵士達は何だったの!?」

「落ち着け、アイリス。まず一つ目の質問だが、俺は……お前の父だ」

「えっ、パパ!?」


 アイリスは驚愕した。自分の父親がこんな可愛い黒猫の姿になっていたからだ。


「……本当にパパなの?」

「そうだ。信じられないかもしれないが……あっ、小さい時にアイリスがおね」

「し、信じるから! それは言わないで!!」


 手で黒猫の口を塞ぐ。


「うぐっ」

「無事で本当によかった……」


 口を塞いでいた手を離し、黒猫を抱きしめる。


「あぁ……パパも安心したぞ。……それにハニーと似て、かなり美人になったな」

「え、あたしブサイクだよ?」

「いやいや、超絶美人だ! 世界中探してもアイリスよりかわいい女なんていない! 誰かに言われたのか……?」

「だって、テッドが……」


 アイリスはいじめられたことを話した。


「あのクソガキか……今度見かけたら絶対に許さん」


 黒猫姿の父は激怒する。実の娘をブサイクやデブと好き放題罵っているのだ。父親であれば当然である。


「あのー、感動の再会のところ申し訳ございませんが、これからどうしましょうか?」


 置いてけぼりの金髪美少女がアイリスと黒猫に尋ねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る