第2話 6月4日(逃亡生活二日目)

 信長は鳥の囀りで目を覚ました。


「あー久しぶりにこんなにゆっくり寝れたな」

 信長は、昨日の出来事が嘘だったかのように穏やかな日を迎えていた。


「昨日はそのまま寝てしまったし、ひとっ風呂浴びよう」

と、言うと信長はその場で立ち上がる。



 昨日の夜、信長と成利は馬に乗り本能寺を脱出した後、

休める場所を探し回った。 

 そして町から少し離れた場所にボロボロで草臥れた古民家を見つけ、

そこに身を寄せたのである。



「あれ?」

 風呂を焚くため釜に薪をくべようと外へ出た信長は気付く。

「薪がすでにくべられている。ああ、蘭ちゃんが用意してくれたのか……

さすがだね。気の利く家臣だ」


 すぐにでも風呂に入れそうだと家の中に戻った信長は、

風呂場の前で着衣を取り全裸になった信長は風呂場の扉を開けた。


「きゃあぁー!」

 女性の大きな叫び声が辺りに響き渡る。


「ご、ごめんなさーい!」

 風呂場では10代程の若い女性が、信長よりも先に入浴をしていたのである。

 その状況に驚き、慌てて風呂場の扉を閉めた信長はふと思う。


「蘭ちゃん?」

 どうしても気になる信長はまたも「ガラッ」と、風呂場の扉を開けた。


「蘭ちゃんなの?」

「きゃあああああああ」


「ああ、ごめんなさーい」




 そして半刻(30分)ほど経ち……



 部屋の真ん中にある囲炉裏を囲み二人は正座している。


「蘭ちゃん、女子おなごだったのね」


「はい、今まで隠してて申し訳ありませんでした」

 成利は『幼名』蘭丸の頃から女子のように美しい美少年だと

名高く、その噂は他の国にも知れ渡るほどであった。

 それもその筈、成利の性別は女性。父、森可成もりよしなりが自分の子供を武人として生きる事を強く望み、生まれてすぐに性別を偽り男として育てたのである。


「そうかー今まで大変だったね! 裸見てしまってゴメンね」

と、申し訳なさそうな信長に対し

「いえ、隠していた私が悪いので……申し訳ございませんでした」

と、逆に謝罪する成利。


 すると信長は少し考え「いや、それは良いとして俺はこの責任を取るよ」

と、言いだした。


「えっ、何をですか? 信長様」

 意味が分からず成利が聞き返すと信長は

「結婚しよう」と、まさかの婚姻を申し出た。


「えっ?」

 聞き返す成利に再度信長が言う。


「だから・・・夫婦になろう!」

「えっ、嫌です」

 成利は即答。


「えっ、なんでなんで?」

 尚も迫る信長に「だって殿、奥さん9人もいるでしょ?」

と、吐き捨てる様に成利は言う。


「えーお願い! 他の子とは別れるからさー。ねえねえ、いいでしょ?」

 なかなか引き下がらない信長に、成利はムッとし強い口調で言う。


「殿」


「ハイ」


わたくし、おっさんは嫌いでございます!」


「・・・」

 信長はぐうの音もでない。



 信長はこうしてあっさりと成利に振られたのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

注)史実上の成利は女性ではなく、れっきとした男です。

物語を面白くするため女性という設定にしてます。

 

 正室(現代で言う本妻) 濃姫(帰蝶)

 側室 1 吉乃 2 お鍋の方 3 坂氏 4 養観院

5 土方氏 6 慈徳院 7 原田直子 8春誉妙澄大姉


 正確に言うとあと一人名前不明の女性が側室にいました。

 また、生母不明の子供も数人います。

 戦国時代の女性は記述に残っている事が少なく謎な人が多いそうです。


 ちなみに信長は正室の濃姫よりも側室の吉乃の方がお気に入りだったと言う

噂もあります。

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