第3話 6月5日(逃亡生活三日目)
信長と成利は馬に乗り近江国(現滋賀県)を目指す。
と言うのも……
昨晩、夜遅くまで二人で作戦を練っていた。
「信長様、これからどうなされる予定ですか?」
「うーん、とりあえず明智ちゃんを追おうと思うんだよねー。
で、なんでやっちゃったの? って聞きたいんだよ」
「後を追うなど危険ですよ、まずは織田家に殿が生きている旨を
伝えるのが先ではないでございませんか?」
「いや、俺はね。明智ちゃんが裏切ったって信じたくないのよ。だからどうしても聞きたいんだー」
【覇王】と言われ冷酷非情で恐れられた信長であったが、畏怖される一方で、実は人情味があり低い身分の者でも親しく話したとの説もある。
「鳴かぬなら殺してしまえほととぎす」は信長の句とされているが、
実のところ徳川家康の方が短気で、その句は家康の方が相応しいのではないかと
一部の間では言われる事がある。
「では、信長様は何処を目指す予定でございますか?」
改めて成利は信長に聞いた。
「えとね、
「あそことは?」
「
それを聞いた成利は
「なるほど……明智は自分の居城である坂本城に戻る可能性が高いとお考えですね」
「いや、違う違う」
信長は手を振り否定した。
「違うのですか?」
「うん、たぶん明智ちゃんは安土城に行くよ!」
自信満々にそう答える信長に対し
「何故分かるのですか?」と、
聞き返す成利に対し信長はこう答えた。
「だって安土城って俺のお気に入りの城だったじゃん。だったらそこを落として、天下とったどー! って言いたいじゃん」
成利「――そんなもんでございましょうか?」
「うん、明智ちゃんなら絶対そうする。行こう安土城へ!」
「まあ、信長様がそうおっしゃるなら……」
と、成利は半信半疑ながらも信長に同意した。
「とりあえず近くで馬をもう一頭譲って貰える所を探そうよ。さすがに二人乗りはしんどいし、ちょっと目立つでしょ」
それには成利も「そうですね」と、快諾した。
二人は古民家を出て近くの村へ着くと馬を売ってくれそうな人を探す。
「おっちゃーん。馬ない?」
手当たり次第に聞いて歩く信長であったが
「馬? そんな高級な物ねえな。貧乏人のオラ達には買えないべ」
と、村人はみな口を揃えて言う。
「どうします? 信長様」
困り果てる成利。
戦国時代において馬は貴重とされていた。
農耕にも使え戦にも使える馬は重宝され高価な物であり、貧困な村で手に入れる事は難しかった。
それでも一軒一軒農家を訪れ尋ねる二人は、気さくな一人の農民と出会う。
「おっちゃーん、馬持ってない?」
「そんな、高価な物あるわけねえべな」
「じゃあアレ、売ってくれよ!」
信長は農民の男に金小判を一枚渡し頼みこむ。
「こ、こんなにくれるだか?」
「う、うん一枚じゃダメ?」
「いやいや、全然足りすぎだよ。ついでにこれさ持っていけ」
信長は小判一枚と引き換えに馬の代わりとして牛を手に入れ、おまけに大根を三本貰った。
「信長様、余分な荷物が増えたのではないですか? それに牛って……」
成利は心配そうに信長を見つめる。
「大丈夫さ、いざとなれば食べれるし……」
「た、食べる! 牛をですか?」
目を見開き信じられない様子で信長を見る成利。
「いやいや、美味しいよー牛は! 前にザビエル君がこっそりくれたもん」
「は……はあ」
軽蔑に近い目で見つめる成利に気まずくなった信長は話を変えた。
「まあまあ、蘭ちゃん。とりあえずは近江国を目指そう。行くぞ牛くん、それー!」
信長は牛の背に乗り、足でその牛の腹部を蹴る。
……
……
「モオォーーーウ」
……
「蘭ちゃん、この子進みませんけど・・・」
信長は呟いた。
「私に言わないでください!」
成利は信長を叱った。
「あ、ゴメン」
謝る信長。
「蘭ちゃん、やっぱり二人乗りで行こっか?」
「は、はあぁー」
成利は大きなため息をついた。
結局牛を農民へ返し、馬に二人乗りする信長と成利は
近江国を目指し走り出す。
もちろん小判はそのまま農民にあげた。
1582年6月5日、信長の予想通り明智光秀は占領した安土城に入城する。
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戦国時代の小判の相場は現代の価値で20~28万円以上と言われています(間違ってたらごめんなさい)
645年大化の改新の翌年から牛も馬も農耕や荷物の運搬用にと重宝され食べる事は禁忌とされていました。
フランシスコ・ザビエルが布教活動のため日本に訪れた際には、日本人に合わせ牛肉を口にしなかったとありますが、後のキリシタンは食用として牛を広めたようです。
ただそれも、豊臣秀吉により再度牛馬を食べる事は禁止されます。以降、正式に牛が食用として広まったのは明治頃と言われています。(これも間違ってたらごめんなさい)
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