第一部 戦 乱 編
第一章 雨下る (あめくだる)
第9話 頼朝、祈祷をすること
第一部 戦 乱 編
第一章 雨
一
激しい雨が
熱気は冷めるどころか、さらに暑い。
黒雲湧きたつ空の彼方で、低く、遠雷が轟いている。
山中の堂社では朝から
堂の内壁は灰に
息をするのさえ苦しい不快な
人の寿命をつかさどる神、
於政の父である
その背後に、かれのふたりの息子、三郎
この祈祷は、切実そのものであった。
なぜなら頼朝は明日、明後日には、生きているかどうかもわからない。
明朝には挙兵する。
もしこの度の決起に失敗すれば、命の
烏帽子のうちから次々と
繰り返される祝詞が、耳の底に鳴り響き、意識も次第に
いつしか魂は
◆
――頼朝はゆっくりと、やわらかな
長い祝詞が終わったようである。
頼朝は、見咎めた。
「どこへお行きか」
「どこへ? 屋敷へ戻ろうかと」
「これからお
「まだござるのか」
時政はうんざりした様子で問うた。
「今度はなんのお祓いでござるか?」
「日頃、垢のごとくにつもった
「一千度ッッ」
時政は、閉口した。
ふたたび長時間、この狭い堂内で地獄蒸しにされるのかと思うと、気が遠くなりかけた。
「いや、わしは
言葉尻を濁したところへ、於政がぴしゃりとたしなめた。
「父上は明日、
「そ、そうか、ならば……」
時政は不承不承、娘の言に従った。
人々が座に戻るや、神官はふたたび
壇上の火柱がいっそう高く燃えあがり、時政の顔になおいっそうの
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