ふところ島のご隠居・第一部・戦乱編
KAJUN
序章 春の夢
第1話 景義、伊豆山を訪れること
序章 春の夢
明るく東に広がる海はやわらかに湾曲し、緑あふれる山々に抱かれている。
海岸からたちまちに、急峻な
ふもとには濃密な白煙とともに熱湯が湧きい出でて、湯の川となり、勢いよく海にそそぎこんでいる。
古代の人は、これを一種の神秘と感じた。
それでいつの頃からか、
膝がふるえるほどの急斜面に、長い長い一直線の参道が通されている。
その坂を登り切った高みに、伊豆山権現は、鎮座ましましている。
◆
権現の社殿を抜けると、奥に広がる山々のふところは、さらに深い。
今、この山道の急坂に、ひとりの老人が挑んでいる。
頭にはゆるやかな
左右に張り出た太い鷲鼻、高く突き出た頬骨、よく日に焼けた肌、こめかみには汗もしとど。
真っ青な海に背をむけて、中身のぎっしりつまった
名を、
景義が難儀なのは、なにも山道のせいだけではない。
この人は脚に
左脚を引きずって、えっちらおっちら、太い杖にすがって、舟を漕ぐように進んでいる。
――大昔、
国家
仙人は神通力をつかって空を飛行し、夜な夜なこの山に修行にやって来たという。
山腹の
脚の病に悩める者や、足腰弱き者が祠に祈れば、強足を得られるのだという。
もちろん景義も伊豆山を訪れるたび、熱心に役行者に祈りを捧げてきた。
できることなら今こそ仙人のように、風を翼に、
できることはといえば、杖を使ってでも歩けることに感謝して、ただただ祠にむかって強足を祈るのみである。
はたしてそのご
溌剌とした笑顔で、元気に胸を弾ませている。
「四十の賀」を迎えるのがやっとの世のなかで、この人は
両手で太杖を握りこみ、体の重みこそ命の
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