第16話 サルヴァ・ライトン

 村を出て暫く経ったけれど、バンシィの消息は聞いていない。今度故郷に帰る事があったら家でも覗いてみようかと思ったが、仮にまだあの村にいたとしても家になんて入れてくれないだろう。


 俺はバンシィに酷い事をしてしまった。幼馴染で、約束までしていたのに、一緒に冒険に出ることが出来なかった。


 結局、俺は最初に意気投合した三人とパーティを組む事になった。


 剣士系のスキルを貰ったのに自分は前に出たくないと男らしくない事を言って弓使いに転向したキヤ、治癒系のスキルを貰ってはいるが誰も怪我をしないので出番のない双子の妹ベルシュ。


 一番厄介だったのは、《魔物使い》のスキルを貰ったのに戦闘系じゃないと捨てられると思い「魔……使い」と誤魔化して魔法使いと勘違いさせていた双子の姉ザーラ。


 最初はがむしゃらだったし、村の外を知らない俺にとっては仲間がいるというだけで心強かった。


 だが、四人一組として名声が高まっていくたび、本当に均等な扱いを受ける事が適当なのか疑問もわいてくる。


「サルヴァ! 頼んだぞ!」


「サルヴァ、後はよろしくぅ!」


 キヤとベルシュの声で我に返る。今日の討伐対象は獰猛なドラゴン。背丈は人間の五倍くらい。少し距離はあるが、それでもかなりの威圧感だ。


 キヤはそんなデカい的にも関わらず適当に当てる気もない矢を放ち、ベルシュはどこも怪我をしていない俺に回復魔法を使って仕事をしたアピールをすると、荷車と一緒に待機しているザーラの元へ走って戻って行く。


 ザーラに至っては魔物使いであることがバレて以降、戦闘になっても荷車から出てこない。出来る事は少ないし、荷車を魔物に牽引させることがメインの仕事なので筋は通っているのだが、俺の思い描いていた姿とは程遠いパーティになった。


 皆で協力して、苦戦しながらも汗を流す。そんな姿に憧れていたのだ。


 そんな事をぼやいても目の前にいるドラゴンは消えてくれない。


 腰の両側にある双剣を抜き、ドラゴンに向かって一直線に走る。


 周囲にいる敵は俺しかいないとドラゴン側も認識したようで、天を仰ぐと一気に首を振り下ろしながら火を噴いてきた。


 予測も出来ていたし、大した攻撃ではないのでスっと右に避けて、更にドラゴンとの距離を詰める。


 そのまま二本の剣を胴体に突き立て、一気にドラゴンの顔に向かって首を切開していく。


 ドラゴンの呻き声による振動と血液を全身で感じながら一気に顔まで切り裂く。


 地面に着地すると同時に、ドラゴンが地面に倒れ込む音がした。


 遠巻きに見ていた近隣の村の住民が一斉に歓喜の声を上げる。これで畑を荒らされることも命の危険もなくなったのだから当然の声だろう。


 ドラゴンの死体の処理は自警団に任せ、荷車に戻る。


「勇者様の凱旋だ! 本当にありがとう!」


 こそばゆくなる呼び方だが、足を止めて笑顔で礼を返す。勇者なんておこがましいけれど、俺は自分の力を過小評価もしていない。それなりの名声は得て当然だと思う。


 ドアを開くと、キヤの両脇をベルシュとザーラが固めるように座っていた。


 三人の視線が一斉に俺に向く。


「おう。お疲れ」


 キヤはニッコリと笑って血を拭うための布を投げてくる。


 顔につけると、直前まで誰かのケツに敷いていたのか生暖かさを感じた。


 ケツに敷かれていた布で全身の血を拭って、三人と向かい合うように座る。


「サルヴァ、今日もかっこよかったね!」


「えぇ、本当に。いつもありがとうございます」


 双子の姉妹も俺に感謝を述べてくれる。


 三人とも俺を除け者にしてこないし、かといって過剰に媚びてくるわけでもない。だから、別に居心地が悪い訳ではない。


 それでも、今の状態はなんだか不満だ。


 キヤが双子姉妹とよろしくやっていることへの嫉妬もあるのかもしれない。男女比が二対ニならうまいこと分散して欲しいものだが、偏ることの何が悪いと言いたげに俺の目の前で三人でイチャイチャしている。


 名声についてもそうだ。現場を見た人はサルヴァこそ勇者だと言ってくれるが、噂が広がる過程で四人の勇者という形になっていく。


 こいつらは何もしていないのに。


「ねぇねぇ、キヤぁ。私、新しい服がほしいなぁ」


「お、いいな。プリムの街なんていいんじゃないか? 腕のいい職人も多いって話だしな!」


「エッチな下着屋さんもありそうですね。フフフ」


「あー! ザーラ! そうやって抜け駆けしないでよぉ。そういうのは三人一緒って決めたじゃんか!」


「おいおい、喧嘩するなって。サルヴァ、次はプリムの街を目指していくのはどうだ?」


 キヤが「どうだ?」とお伺いをたててくれるのは有り難いが、既に三対一で結論は出ている。


 プリムの街は故郷の村の近くだしついでに両親に合うこともできそうだ。


 風のうわさだと、プリムの街に向かう荷馬車の護衛の仕事を受けた新しいギルドがトチったらしい。


 現地の有名な商人はカンカン。後釜になる腕のいい護衛を探していて、今は冒険者側の需要がうなぎのぼりなんだとか。


「そうだな。そっち側に行ってみようか。俺の故郷があるんだよ」


「やったぁ! ねぇねぇ、キヤぁ、どんな服がいい? やっぱりフリフリ系だよね?」


「キヤは大人系が好きですよね? 張り切って選びますよ!」


「ハハ! そうだな! 二人分選ぶから時間がかかりそうだよ!」


 俺のことに興味はないらしい。


 三人でワチャワチャと盛り上がりながら、荷車はプリムの街に向けて動き始めた。

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