第6話(終)

 彼女を縛りつけているものを、仲間が見つけた。今度、それを除去するらしい。


 彼女。


 記憶は戻るだろうか。


 戻らないだろうな。


 まあ、それでもいい。


「ねえ。わたしのこと好きでしょ」


「初対面なのに?」


「うそ」


「うそですよ」


「うそなんだ。へぇ」


 そこにいればいいよ、べつに。覚えてなくてもいい。隣にいれば、それで。


「お」


「わたしだって、たまにはラーメンぐらい食べる」


 彼女。今日は、ハンバーグじゃない。

 もしかして、もう既に彼女を縛っている何かは、なくなったのかもしれない。


「じゃあ、これをどうぞ。お店の許可は取ってあります」


 店主も仲間だからな、俺たちの。


「なにこれ」


「ハンバーグです」


「うそ」


「いやいや」


 どう見てもハンバーグだろ。


 彼女が、手でひとつ掴んで。

 食べる。

 まるで。

 待ちきれなかったかのように。


「おいしい」


「うそですか?」


「うそじゃないって」


 食べている彼女。

 泣きはじめた。


 ハンバーグ。美味しかったからかな。泣きながら食ってる。手掴みで。


「うそばっかり」


「何がですか?」


「わたし。記憶ないよ」


「はあ」


「それでもいいの?」


 なんの話だよ。


「あなた、俺のこと好きでしょ?」


「わたしの台詞なんだけど」


 いまの彼女が、自分を気に入ってくれたなら。それでいい。


「うそばっかり」


 嘘か。

 もしかしたら、彼女の任務は、嘘に関するものだったのかもしれない。今となっては、たしかめる術もないけど。


 隣に、彼女がいる。これは、嘘じゃない。本当に、そこにいる。


「ねえ」


「はい」


「まだある?」


「ありますよ」


 そりゃあ、あなたのことだし。たくさん食べると思ってたから。

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lies. 春嵐 @aiot3110

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