ex.番外編

【クリスマス特別編】if 愛美のクリスマスデート

 ※本編は番外編です。タイトル通り、もしも谷口陽太と川瀬愛美が恋人同士だったら…? というイフストーリーです。





 私はとても弱い人間だ。幼い頃から私にとっての絶対は母親だと思い込み、母に認められるためなら全てを犠牲にしてもいいと思い込み、他を顧みず走ってきた。それが私、川瀬愛美という人間だ。今、思うと何て幼稚で周りが見えていないんだろう。けれど、そんな私を救ってくれた人がいた。私を認めてくれた人がいた。彼——谷口陽太が、私をどん底からすくい上げてくれた。私は彼に恋をした。きっと、本当の意味で私が守りたいと思った関係。

 

 そして、やがて私たちは結ばれ恋人となった。

 

 ◆

 

「ごめん! 待った?」

「ううん、今来たところ」

 

 はぁはぁと苦しそうに肩で大きく息を吸う彼。そんな陽太を見て私はクスリと笑う。何だか、こういうの恋人っぽい。まあ、ぽいも何も実際に恋人なわけだけれど。私は周囲を見渡す。心無しかカップルが多い。それもそうか。だって、今日はクリスマスなのだから。

 

「それじゃ……行く?」

「そうだな……愛美」

「何?」

「今日の服……似合っているよ。可愛い」

「……ありがとう」

 

 私が言うと照れくさそうに陽太は頬をかきながら目を逸らす。何回もやってるやり取りなのに未だに慣れてないようだ。そして陽太はゴホンと咳払いをして私の手を取る。

 

「じゃ……行こっか」

「……うん」

 

そう言って二人、歩き出す。私も……やっぱり慣れないな。もう付き合って一年になると言うのにこうやって手を繋いでるだけでも未だにドキドキしている。……でも、まぁ……いいか。こういうのは自分たちのペースで進めていくべきだ。一般を考えて行動するものじゃない。少なくとも、私はそう思う。


「……どうした?」

「ううん、何でもない。行こ」

 

 私たちが向かったのは映画館。最近、話題の恋愛モノだ。


「——」

 

 あっという間に映画が終わった。見終わって正直、私はこの映画に関してめちゃくちゃ良いとかそんな感想は抱かなかった。けれど、意味の無い時間とも思わなかった。……結局のところ、こういうのは誰と観るかということだろう。

 

「……映画、どうだった?」

 

 昼食時、陽太が映画の感想を求めてくる。

 

「……正直な話、あまり好みじゃなかったのよね。なんか、ありきたりな感じで」

「わかる。あと、お涙ちょうだいみたいな面が強く出過ぎててちょっと冷めたかな……」

「なんだ、陽太も同じようなこと思ってたんだね」

 

 思わず笑ってしまう。わざわざ映画まで見て話すことが面白かったね、とか感動したね、の感想じゃなく映画の愚痴だなんて。でも、こういうのもありか。

 

 そして、この後なんだかんだで話は盛り上がり、時間もいいところ、その場を後にしたのだった。


「おーゲームセンター!」

 

 ゲームセンターに寄り、私が興奮気味に言うと横から生暖かい視線を感じた。

 

「な、何よ……」

「別に? 子供みたいで可愛いなーって」

「何よそれ」

「だって、めっちゃ目キラキラさせてるんだもの」

「うるさい、べつにいいでしょ!」

 

 私が拗ねたようにすると陽太は笑いながらごめんごめん、と謝る。ったく、馬鹿にして……。

 

「……もう! いいから、まわろ!」

「わかったよ……で、何から行く?」

「うーん、そうだなー」

 

 まずは——

 

「というわけでクレーンゲームからだね!」

「めっちゃドヤ顔ー」


 陽太が棒読み声と冷ややかな目を向けてくる。


「ふふん、見てなさい!」 

 

 私は意気揚々、コインを投入する。そしてレバーを操作する。

 

「何取るの?」

「奥にあるクマの人形! あれ、とるんだ」

「へー頑張れー」

 

 アームが目標の頭上へと。よし、良い位置だ! そして、アームが開き人形を掴む。


「よし、行っけぇ!」

 

 一瞬、人形を掴みあえなくアームから落ちた。

 

「…………」

 

 恐る恐る、陽太の顔を見る。彼はなんとも言えない表情で

 

「…………まあ、そんな簡単に取れるものでもないから」

 

 と優しくフォローしてきた。が、そんなにフォローは今の私にはむしろ逆効果。

 

「次こそはいけるから見ててなさい!」

「なんだろう。昔似たような流れを体験した気がする」

 

 言いたい放題言って! よし、次こそ。次こそ、次こそぉー!

 

 ◆

 

「…………」

「…………」

 

 …………結局、最後まで取れなかった。しかも熱中してクレーンゲームしかやってない。

 

「愛美って昔からゲーム系苦手なのにずっと挑戦するよな。この間もカーレース系ずっとやってそれで時間潰れてさ」

「……はい、本当にすみません。いつもこんなので……しかもクリスマスにも関わらず、いつもと同じことやって」

「まあ、いいんじゃない。こういうのが俺たちらしくてさ」

 

 ははは、と良い笑顔で陽太は笑う。……本当に陽太は良い彼氏だ。昔から私を助けてくれる。まるで白馬に乗った王子様だ。

 

「ふふふ」

「な、何だよ」

「何でもない。……ねぇ、陽太」

「ん、何」

「私、あなたと出会えて良かった。あなたと会えて色んなものが見えた。色んなことが出来た。たくさん楽しいことがあった。——今、とってもとっても幸せだよ!」

 

 私は笑顔で彼に感謝を伝える。

 

「っ!」

 

 陽太が照れたように目を逸らす。

 

「あれ、照れてるの陽太〜?」

「う、うるせぇ……」

「昔からそういうところは変わらないねぇ〜」

 

 私はニヤニヤしながら言う。やっぱり、陽太は陽太だ。

 

「……あんまりナメんなよ」

「え?」

 

 ぐいっと陽太が顔を近づけてくる。

 

「ちょ!? ち、近い——」

「……たまには俺からだって攻めることもあるんだからな」

 

 そういうと私の唇を——ちょっとそんないきなりキスなんて! キスなんて、キスなんて——

 

 ◆

 

「——ダメー!」

 

 がばり、と自分の身体を起こす。…………。

 

「夢、か……」

 

 顔が赤くなる。と、同時に幸せな夢だったとも思う。……いつか、ああやって恋人となって陽太とクリスマスデートできる日が来るのかなぁ……。

 

 ——少し、妄想に耽りつつ私は起き上がる。今日も学校で彼に会うために。



お読みいただきありがとうございます!そしてメリークリスマス!

来年は智依とかいろんなキャラで書きたいなぁ…。

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