5.雨
第43話 犬猿の仲?
「…………あなたみたいな素人には負けないから。かかってこいや、メンヘラ激重学年一位女」
「……言ったわね、拗らせおひとり様コース女」
バチバチとゲームのコントローラーを持って睨み合う智依と愛美。彼女らを横目に俺は嘆息する。
「…………どうしてこうなった」
時は戻り、数時間前のこと。
「——そういや、あのゲーム買ったんだよな」
「え? ほんとに? いいなー」
朝のホームルームが始まる前の時間。俺は智依と雑談をしていた。内容は他愛もない。昨日面白い動画を見たとか、最近話題のゲームとか、色々だ。そんな雑談を交わしていると愛美が登校してきた。愛美の姿を見て智依は早々言う。
「……うわ、来やがった」
「とても朝の挨拶とは思えないものね、智依」
「あなたに名前呼びされる筋合いなんてないから呼ばないでって言ったはずだけど? 川瀬? それとわざと言ってるにきまってるじゃない」
「そう。私もあなたが嫌がるからわざと名前呼びをしてるのだけれど?」
バチバチと視線が交錯する。……こんな二人だが、確実に関係性は以前と変わってきている。
「これくらいの嫌味は言わせてもらう権利はあると思うのだけれど。少し前まであなたが私や陽太君に迷惑をかけてたことに比べれば可愛いものじゃない? そこはどうなの、川瀬?」
「…………うっ。それを言われると弱いけど。……その節は本当にご迷惑をおかけしました。……でも、陽太はともかく、あなたは私のことなんてちっとも心配してなかったでしょ。関係ないじゃない」
「いーえ。関係ありますぅ〜。あんたを心配する陽太君が苦しんでいる姿を見てめちゃくちゃ心配でした〜!」
「それ、私じゃなくて陽太じゃない! あと、その話詳しく!」
決して仲の良い会話とは言えない。しかし喧嘩腰ではあるものの、以前はこんな風に会話をすることもなかった。互いに思うことがあったとしても無視をしていた。会話を諦めていた。拒んでいた。だが、今は違う。
「いやですぅ〜。お願いしますと頭を下げたら考えないこともないけれど」
「……ぐ、ぐぅ。…………お願いしま……す……!」
そして、こんな風に相手に感情をむき出しにすることも珍しい。愛美は相手に毒を吐くことは少ないし、智依はこんな風に誰かにムキになることは少ない。だから、互いにとっていい相手なのだろう。自分をさらけ出せる、いい相手。そして、以前はさん付けの名字呼びだったのに今は変わっている。……これが何より関係が変わったことを示している。
「ふっ。まあ、教えるわけないけどね。私の思い出は私だけのものだから」
「はあ!? 騙したわね!?」
「騙される方が悪い」
「ぐっ……ぐぅ……!」
今にも飛びつきそうなくらい睨む愛美。…………やっぱり、関係悪い…………?
「そう言えば陽太君。今日、家遊びに行っていい? 最新作のゲームやらせてよ」
「ああ、うん。別にいいけど」
「やった。陽太君の家だー。ゲームも楽しみー」
隣でガッツポーズする智依を横目に悔しそうに歯ぎしりする愛美。……うん。
「愛美も今日、家来るか?」
「え?」
いいの? と言いたげに上目遣いで見てくる愛美。まるで子犬だ。
「ああ。たしか今日お前部活休みだったろ? 愛美さえ良ければどうだ?」
「……うん、行く!」
目をキラキラと輝かせる愛美。……うん、やっぱり子犬にしか見えん。…………正直、可愛いと思う。
「……智依、良いか?」
「…………正直、川瀬と一緒なのは気に食わないけど、別にいいよ」
…………じゃあ、決まりだ。今日の放課後の予定が決まった。
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