第41話 試験。そして結果

「…………どう? 明日は大丈夫そう?」

「やれることは十分にやった。あとは最後の追い込みをするだけだ」

「そう、無理はしないでね」

「ああ。お前もあまり遅くまでやるなよ。……じゃ、おやすみ智依」

「うん。おやすみ陽太君」

 

 陽太君からの通話が切れる。……とうとう明日から試験が始まる。この二週間、陽太君は頑張った。彼の言う通り、あとは出し切るだけだ。……にしても陽太君にここまでさせるあの女……川瀬さん相変わらずムカつく。

 

「…………だからなんだよね」

 

 今まで川瀬さんのことがなんで気に食わなかったかわからなかったけど、最近の川瀬さんを見てようやくわかった。要するに同族嫌悪だ。前までの明るく誰にも優しくする川瀬さんはまるで昔の私。そして今の川瀬さんは全てを信じられない、周りを拒んでいる。……まるで今の私。いや、正確には少し前までの私か。

 

「…………そりゃ合わないのも当然だよね。だって、過去の姿を見せられているようだもの。……苦い過去を」

 

 今の川瀬さんは……正直、受け入れられる。だって、見ててイライラしない。けれど……見てて悲しくなる。何より、彼が今の川瀬さんを受け入れていない。悲しんでいる。……だから。早く元の川瀬さんに戻って。そう、私は心の中で呟いた。

 

「…………頑張って。陽太君」

 

 ◆

 

「おはよう。川瀬」

「…………………………おはよう」

 

 川瀬はこちらを見ずに言う。

 

「…………」

 

 …………今日から試験日だ。俺も最後の復習をするとしよう。そう思い、机に向かう。その時。

 

「…………ねぇ」


 川瀬の方から話しかけてきた。俺は少し驚きつつも、何、と返す。

 

「…………本当にやれるの?」

「…………ああ。やれることはやった。見ていろ」

「…………そう」

 

 それっきり会話は途切れる。これ以上の会話も必要ない。……あとは結果で示すだけだ。

 

「——試験開始」

 

 とうとう試験が始まった。あとは出し切るだけ。そして、問題を解いていく。

 

「…………」

 

 時間は刻々と過ぎてゆく。最初の試験が終わる。そして次の試験。一日目の試験が終わる。そして次の日の試験。そして終わる。また次の日……。…………そしてとうとう最後の試験が終わる。翌週になる。そして行われるテスト返し。…………あっという間に全てが終わった。淡々と日々が過ぎ去っていった。あっという間の一週間。テストが返却され、あとは順位発表を待つのみ。そして、その日は訪れる。

 

「………………よし」

 

 俺は一人で張り出された順位表の元へと急ぐ。……智依は既に自分の順位を見てきたらしい。たどり着くと真っ先に一人の女子の姿が目に入る。

 

「…………川瀬」

「…………谷口」


 彼女は一瞬だけ、こちらに視線を寄越すがすぐに順位へと戻す。顔は無表情に見えるが、どこか安堵しているように見える。俺は上の順位を見る。……あった。

 

 一位 川瀬愛美

 

 どうやら川瀬は一位を取り戻すことが出来たようだ。

 

「……良かったじゃん。川瀬」

「…………」

 

 ……ここからは俺の番だ。川瀬の順位が戻ったとしても彼女の心は変わらない。……さて、俺の番だ。……大丈夫。あんなにやった。智依、華凛、兄貴。色んな人に助けてもらった。寝る間も惜しんで、誘惑を断ち切って俺は頑張った。なら、大丈夫。俺は——

 

「…………え?」

 

 六十三位 谷口陽太

 

 俺の目標は……達成されていなかった。川瀬との約束は守れなかった。

 

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