第25話 それ、あなた達に関係あります?
やあ、みんな! 私よ! 川瀬愛美です! いや〜ここ最近谷口へ一方的にダメージを与えられてて草。谷口からの反撃もなく私の優勢。ホント、絶好調! 少し前までは谷口からの反撃でダメージを受けることもあった私ですが、今では一方的に谷口の顔を赤く染めてやっているのです! ふっふっふ、谷口を惚れさせるのもゴールインするのも時間の問題ね! というわけで今日も一日頑張っていこう!
「谷口おは——」
意気揚々と教室に入ろうとした私に飛び込んできた光景は私の茹だった頭を冷やすのに充分なものだった。
「え、このゲーム出たの?」
「うん。テスト終わったら私は買うつもり。その方がモチベーションになるし」
「なるほどなぁ。俺もそうするか。にしても昨日から試験勉強始めたけど全く頭に入ってこないんだよなぁ……どうすればいいんだろ?」
私はそっと教室のドアを閉じた。……え。どういうこと? なんか谷口が柴田さんとものすごく仲良さそうに話してたんですケド。何で? いやいや勘違いでしょ。そもそもあの二人が談笑するような仲なわけないでしょ。もう一度見てみよう。しっかりと。ちゃんと。きちんと。正確に!
「…………よし!」
私は意を決してドアを開ける。ほら、見ろ。やっぱり見間違いだ——
「もしかしたら勉強法が合ってないのかも」
「あー……言われたらそうかもな。でもどうすればいいんだ?」
私はぴしゃりと教室のドアを閉じた。……えーと。絶好調? 谷口を惚れさせるのもゴールインするのも時間の問題?
「…………」
私はすーっと息を吸う。
「………………そう思っていた時期が私にもありました」
「教室の前で何やってんの? 愛美?」
「うにゃ!?」
突然の声にビクッする。振り返ると華凛が怪訝な顔でこちらを見ていた。
「か、華凛……」
「どうしたの? 入らないの?」
「いや、その……」
「うーん?」
華凛は察したのかそっと教室のドアを開けそっと閉じた。
「…………おう」
「…………」
「なんつーか……ドンマイ」
「どうしよ!? 華凛! 谷口が! 谷口がぁ〜!」
「落ち着いて愛美! そもそも付き合ってると決まったわけでもないでしょ」
涙目で華凛の肩を掴む私を引き剥がし、華凛は諭すように言う。
「それはそうだけど……」
その時、チャイムが鳴る。……もう教室に入らなくては。
「……とりあえず今日は一緒にお昼食べよ。その時に話そっか」
「う、うん……」
私の返事に華凛は頷き自分の教室へと向かって行く。……私も教室に入ろう。
「川瀬おはよう。珍しいな。時間ギリギリに来るなんて」
「う、うん。少し家出るの遅くなっちゃって」
自分の席に座ると谷口が話しかけてくる。……いつもの谷口だ。やっぱりさっきのは幻だったのではと思えてくる。チラリと柴田さんの席を見る。彼女はいつもの無表情で本を読んでいた。
「…………」
結局午前中はモヤモヤした気分で授業を受けることになった。
◆
午前中の授業が終わり昼食の時間になる。……珍しく今日は一度も川瀬に絡まれていない。時折川瀬からの突き刺すような視線が飛んできた気がするが……。
「あれは理由を訊いたらいけない気がした……」
当の本人は既に教室を出て行っている。
「……そういや今日は武瑠も小林達も委員会だったな」
そうなると今日は一人で昼食を摂ることになるが……仕方ない。一人で学食でも食うか。
「どうしたの、陽太君。ご飯食べないの? いつも一緒にいる人達は?」
いつの間にか目の前にやってきていた智依が怪訝そうに訊いてくる。
「あ、いや……今日はみんな委員会でな。一人なんだよ」
「あ、そうなんだ。私、今から学食行くけど……一緒に食べる?」
「そうだな。そうするか」
智依は嬉しそうに微笑む。
「じゃ、行こっか」
「おう」
食堂に着き、二人で昼食を摂る。俺は定食を頼み、智依はうどんを頼んだ。ちなみに学食のうどんは美味いと評判だ。が、智依は無表情で黙々と食べていたので訊く。
「美味いか?」
智依はフッと笑いメガネをクイッとさせて言う。
「美味しい」
「お、おう……」
ちょっとドヤ顔だ。実はお気に召していたらしい。
「ふぅ、食べた食べた」
昼食を終え、俺たちは教室へと戻っていた。
「……美味しかった。また食べたい」
どうやら智依は食堂のうどんがお気に召したらしい。俺も今度食べてみるか。
「そういや次の授業なんだったっけ?」
「現文。今日、漢字の小テストあるよ。勉強してきた?」
「う……忘れてた。教室に戻ったら勉強するか……」
範囲も狭いし数分あれば大丈夫だろう。
「……陽太君、範囲狭いから大丈夫とか思ってない?」
「……そんなことないぞ?」
「…………」
智依の視線が痛い。小言言われるより何も言われない方が辛いんだが。
「——あれ、陽ちゃん?」
「ん? ……小谷、川瀬」
教室の前で二人に声をかけられる。……が、何だか川瀬が不機嫌だ。いや、表情こそ普通なのだが……どういうわけか不思議と川瀬は不機嫌だと思ってしまう。
「えーと隣の子は……」
「………………」
凛ちゃんが智依に視線を注ぐが名乗らない。智依は無表情になっており、いつもの近寄り難い雰囲気を醸し出す。見方によっては冷たい印象すらある。何も言わない智依に凛ちゃんは少し困った表情を見せる。……仕方ない。
「えーとクラスメイトの柴田智依だ。智依、彼女は小谷華凛。俺の幼馴染みだ。川瀬は……クラスメイトだし知ってるか」
「柴田さんね、よろしくー」
「………………」
智依は返事をすることはしなかったが、ちらりと凛ちゃんの方を一瞥し、ぺこりと軽く頭を下げる。
「で、二人とも何してたの?」
「何って……こんな時間だから飯に決まってるだろ。学食行ってたんだよ」
「ふーん。ってか二人って付き合ってんの?」
ニヤニヤしながら凛ちゃんは訊いてくる。川瀬もいるのにその質問はやめてほしい。……けど、そうか。傍から見たらそういう関係と思われても仕方ない。特に智依は基本一人でいるし、彼女のことを知ってる人からしたら余計そういう関係に見られる可能性も高いだろう。まあ、普通にそれは勘違いなんだがな。
「いや、違うよ。普通にただの友達」
「えーほんとかなー?」
ニヤニヤしながら凛ちゃんは言う。多分、こいつ楽しんでやがるな。
「……でも二人ってそんな接点ないように思うんだけど。いつの間に仲良くなったの?」
今まで無言だった川瀬が突如言う。……まあ、確かにもっともな疑問だよな。今まで俺と智依に接点はなかった。席が近いわけでもなし、係や部活が同じなわけでもなし。全くと言って接点がなかったのだ。疑問に思うのは当然か。
「……それは——」
「——そんなこと、何であなた達に言わなきゃいけないんですか?」
今まで沈黙を貫いていた智依が俺の言葉を遮ってピシャリと言う。それは二人を拒絶する冷たい声だった。
「それ、あなた達に関係あります?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます