第10話 視線は合わない
晴天の日。気温は暖かく、風は心地よい。現在、俺は川瀬達と共に新幹線に乗って県外のキャンプ場に向かっていた。数日前、川瀬に遊びに誘われのだが……あれやこれやとあっという間に話はまとまりゴールデンウィークはキャンプに行くこととなった。一泊二日という日程なので気分はちょっとした修学旅行。ちなみに小林兄弟も誘ったが、家の用事のため今回は不参加という経緯があったりする。
「おーい谷口。順番だよ」
「うん? ああすまん」
窓の外を眺めていた俺は川瀬の言葉に引き戻されみんなの方へ向く。新幹線でやることと言ったらババ抜きでしょ! という凜ちゃんの謎理論により俺たちが現在ババ抜きをしていた。
「そう言えば三人は幼馴染らしいけど、いつから友達なの?」
不意に川瀬が言う。……そう言えば、俺たちのことについて川瀬には話したことなかったっけ。
「ん、俺たちは幼稚園からの友達でさー家も近くてよく遊んでたんだよ」
武瑠が言う。隣に座っている凜ちゃんは頬を掻きながら苦笑して話を訊いていた。
「へーそうだったんだ。だからそんなに仲良かったんだ」
「いや……それは華凛のコミュ力が原因だ。こいつがいきなり、陽太から連絡先もらったよー久しぶりー、って連絡してきたからな。普通は異性の幼馴染みなんて関わらなくなったらそのまま繋がりなんて薄れていくからなー。連絡が来た時はうわ、こいつ全く変わってねえ。精神年齢止まってんのか? って思ったよ。4年ぶりなのに全く変わってねえ」
「武瑠ひどっ! 私はめっちゃ成長してますぅ。見よ、このオトナの身体を! バインバインやぞ!! 成績だって優秀! どや! 成長以外の何物でもないやん!」
武瑠の言葉に凜ちゃんは噛みつき自分の胸を持ち上げどうだ、と抗議する。目のやり場に困るからやめてほしい。
「おい、やめろや。はしたない。反応に困るだろ」
「お。何、武瑠。興奮してんの? いやーん。襲われるぅ~」
凛ちゃんは自分の身体を抱きしめてくねくねさせる。滅茶苦茶イラッとすんな……。そして武瑠の方を見ると目が合う。気持ちはわかるが俺にはどうしようもない。
「じゃあ、中学に上がるまではそれっきりだったんだ。たしか華凛は前に小学卒業と同時に引っ越してきたって言ってたしね」
川瀬の発言に俺は少し驚く。今の凜ちゃんを完全にスルー!? とか思ったからだ。そんな俺の疑問に気付いたのか川瀬は一瞬こちらを見て苦笑しながら頷いた。どうやらわざとみたいだ。川瀬さんマジリスペクトです。
「……ん。そやね。まあ家の事情ってやつや~そして愛しき愛美と出会い同じ高校へ。そして今に至るっちゅうわけやな」
「……」
川瀬は突っ込みもせず黙って凜ちゃんの言葉を聞いていた。自然に沈黙の空間となる。
「……え。何この空気」
凜ちゃんの空気を破る一言をきっかけに全員笑い出す。
「いや、でもたまにあるよな。それまで話してたと思ってたらいきなり沈黙になるやつ」
「で、誰かがなんか言うのを他が待ってるっていう」
「そうそ。あの謎のなんか知らんけど喋れない空気になる現象に名前を付けたい」
俺の発言に武瑠が同意し笑いながら言う。そして俺たちはトランプを再開し、到着までの時間を楽しんだ。最高の二日間がとうとう始まる。
◆
さてさて、とうとうこの日が来たわけですが。私、川瀬愛美の内心はというと。
とうとうきたあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
テンション爆上がりであった。でも仕方ないじゃない? 谷口と学校以外で会うなんて初めてだし学校以上に自由に話せる時間、機会も多い。加えて私服を見れる! 制服以外の谷口を見れるとかマジ最高。ありがとうございます。神様、仏様、ゴールデンウィーク様、キャンプ様、そして華凛様。情緒が崩壊してる? そりゃするわ! 外面は普通にしてるけど内面はもうね、無理! 興奮と幸せであふれまくりですわ。
とは言えやはり冷静にはならなければ。今回の目的は谷口との距離を縮めること。せっかく華凛が用意してくれたこの機会を浮かれているだけで終わらせてはいけない。
「……」
私はちらりと谷口の横顔を盗み見する。視線は合わない。……今は。けれど、このキャンプが終わる頃には視線が合うようにしてやる。私を意識させてやる。
「……ねえ谷口」
「うん? どうし――」
こちらに顔を向けようとする谷口。私の指先が谷口の頬にむにゅっと触れる。谷口は一瞬間の抜けた表情をするがすぐに自分のされたことに気が付く。
「騙されてやんの」
「……お前なあ」
ニヤッとした表情で言う私に谷口は呆れた表情を浮かべて言う。今はこういう形でしか視線を合わせられない。だけど、この二日間が終わった頃にはそれは変わっているだろう。いや、変えてやる。
「ふふん♪」
――最高の二日間がとうとう始まる。
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