小悪魔な彼女に仕返ししようと攻めてみたらデレた
兵藤文月
1.小悪魔な理由
第1話 小悪魔な彼女に仕返ししてみた結果。デレた。
世の中には小悪魔と呼ばれる人種がいる。奴らは異性慣れしてない男子共を誘惑し、勘違いさせ、その無様な様を嘲笑う恐ろしい連中だ。何を隠そう、俺の隣人がその類だ。
「あれ~
そう隣の席の小悪魔がけたけた笑う。
「……ちげぇよ、
俺はため息をついて答える。
「あ、わかった。いち早く私と二人きりで話すため? うわ、谷口ってば独占欲つよーい」
「ちげえわ! つうか、お前とは教室でも隣の席だろーが。単に俺が選んだのはあいつらとは違う選択科目だったってことだよ」
川瀬はくすくすと笑う。こいつ……!
「てかめっちゃは早口じゃーん。必死すぎじゃん」
「誰のせいだと思ってんだ……!」
「そりゃ……谷口のせいじゃん?」
「は? 俺が?」
怪訝な顔をする俺に川瀬は顔をぐいと近づける。
「だって……私、本当は谷口のことが……」
「か、川瀬……さん?」
「私……自分に嘘は吐けない。谷口。いや、
ち、近い。後、俺の下の名前! ていうか、えっ? え? ええ? と次の瞬間、川瀬は吹き出す。
「ぷっ……あははははは! 冗談だよ~。やっぱ最高だね! 谷口は」
腹を抱えて笑い出す川瀬。俺は羞恥に顔を赤くする。そう、この女。清楚な見た目に反しその実態は逆。いわゆる小悪魔なのだ。今のように思春期のピュアな男子をもてあそぶ性悪女こそが川瀬愛美という女である。
「お、お前っ……!」
「ごめんごめん……あまりにも谷口の反応が面白いからついからかいたくなっちゃうんだよ~。で、私を独占するためじゃなければ、何故一人ここに?」
川瀬は若干まだ笑いつつも俺に訊いてくる。腹は立つが、その疑問にくらい答えてやってもいいだろう。俺の高校には選択科目というものがあり、これは入学してしばらく経つと希望の科目を訊かれる。で、科目は美術と音楽。そして俺が選んだ科目は美術で友人達はみんな音楽を選択した。ここまで聞けば事前にどの科目を選択するか友人と話し合えばよかったのでは? と思うだろう。しかし、それには理由がある。俺と友人達はどの選択科目を選ぶかという話を聞いた時、「一切話し合わず選択科目発表の時に初めて互いが選んだ科目を知るっておもろくね?」となり、それに乗った結果、こうなった。全く、今思えば何が面白かったのかわからない。にしても俺以外音楽だというのが意外だ。何なら一人圧倒的な音痴がいるのだが。……とまあ、俺は川瀬に話を聞かせてやった。
「あはははは! 何それ面白い! それで一人って! 運悪すぎじゃん!」
話を訊いた川瀬は机をバンバン叩きながら笑う。……笑いすぎだろ。
「はーい。それじゃあ、授業を始めますねぇ」
いつの間にか授業の時間になったようだ。俺と川瀬はやりとりを中断し、授業に励んだ。だが、これは一時的な休戦に過ぎない。これで終わらないのが川瀬愛美が小悪魔たる由縁なのだ。
その日の美術の授業はデッサン。俺は黙々と目の前のリンゴをデッサンしていた。
「……やっ」
消しゴムが落ちた。俺は自分の消しゴムを拾おうとその手を床に近づけるが、消しゴムの感触より先に人肌の感触を感じる。
「あっ……」
それは川瀬の手だった。俺は思わず彼女の顔を見る。何というか俺はその顔を見てドキッとする。だって彼女の顔はあまりにも赤く、一言でいえば可愛い。が、次の瞬間。彼女の表情にニヤッとした笑みが広がる。俺はそれで彼女の思い通りの反応を自分がしていたであろうことに気が付く。しまったと思うが後の祭り。川瀬は消しゴムを拾い、俺に渡してくる。
「はいどうぞ」
「あ、ありがとう……」
俺が消しゴムを受け取ろうとすると川瀬は俺の耳に誰にも聞こえない声で耳打ちしてくる。
「(そんなに私の顔を見たいなら言えばいいのに)」
~~こいつ!!!!
その後授業が終わると教室へ戻る。この後のホームルームが終われば後は帰宅だ。担任の連絡事項を聞きながら俺は隣の川瀬に視線をやる。何とかこいつに一杯食わせてやれないものか。と、考えている内にホームルームが終わる。そして、隣の川瀬がニヤッとした表情でこちらに顔を向け言ってくる。
「さっきから何見てんの~谷口。そんなに私に見惚れちゃうのかな?」
こいつ……! ああ、わかった。そこまで言うならやってやろう。たまにはこいつに仕返ししても罰は当たるまい。
「(そっちこそ俺にかまってほしいならそう言えばいいんだぞ)」
俺は美術の時間で川瀬がやったようにそっと耳打ちした。………………。……? いつまで経っても川瀬から反応が返ってこないので怪訝に思い俺は川瀬を見る。
「…………」
その表情は今までのような演技の表情ではなく、何というか……乙女のような表情だった。
「そういういきなりなの……ずるい」
「えっ?」
俺が聞き返すも顔を真っ赤にした川瀬は答えず教室を出て行ってしまう。
「まさかこれがデレたってやつ……?」
俺はぽつりと誰にも聞こえない声でつぶやいた。
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