結婚して下さい

とと

第1話

 カチッ、カチッ


 火打石の鳴る音が響く。


「ダニエルさんいってらっしゃい」


 切り火をして笑顔で送り出してくれる。


「アドリーヌさん行ってきます!」


 元気いっぱいに返事を返す。


 今日も看板娘アドリーヌさんは輝いていた。


 アドリーヌさんは常宿の看板娘だ。

 切り火のために近づくととてもいい香りがする。

 宿屋は体力仕事なのにアドリーヌさんから汗の匂いはしない。


 切り火はなんでも勇者が出立の際にするゲン担ぎで、アドリーヌさんがあやかって「冒険者の無事を」と始めたのだそうだ。

 もちろん送り出すのは俺だけじゃない。


 例え独りよがりでもアドリーヌさんが帰りを待ってくれてると思うと力が出る。

 いつより綺麗に見えたらからいい一日になりそう。

 もしかしたらレアドロップがあったりして。


 今日はなんとなくダンジョンよりもフィールドのほうがよさそうな気がした。


 常設クエストを思い出しながら薬果採取にしようかと街外の森へ向かう。


 ☆ ☆ ☆


 森に潜むゴブリンを数体倒した。

 1体切れ味の良いダガーを使っていて一瞬ヒヤリとしたけど無事に倒した。

 そのままドロップとして残った。


 恐らく付与があるんだろう。

 鑑定次第だけど付与ついてたら金貨確定だな。

 ダガーの品定めをしながらにやけてしまう。

 早めに帰れるならアドリーヌさんに何かプレゼントを買ってみようか?


 「今日は稼ぎが良かったから」


 って渡したら、


 「嬉しい」


 とか喜んでくれたりして!

 そのまま見つめ合って・・・。

 アドリーヌさんとイチャコラする姿を想像する。

 妄想だけでメシいけそう。


 気付けば結構な量の薬果を採取していた。

 休憩しながら辺りを見ると、綺麗な花が咲いている。

 縁起のいい花なのだろう祝い事の席でよく見た花だった。


 大きく白く綺麗な花はアドリーヌさんに似合いそうだなって、なんとなく採取する。

 フロートの魔石で即席の運搬具を作り薬果を積み一番上に花を置く。


 さらにゴブリンを何体か倒した後、薬果の匂いにつられた大型のマッドボアを倒した。

 今日はラッキーだ。


 マッドボアの巨体を吊るし血抜きをする。

 冒険者を始めたときは力が足りなくて吊るすのも一苦労だったなぁ。


 綺麗に倒せたしこの大きさなら金貨かな?

 ダガー、薬果、マッドボア、中々いい成果だ。

 今日は帰ろう。


 もう一つフロートの魔石を使ってマッドボアを運搬する。

 いい稼ぎになりそうだ。

 稼いで調子に乗った勢い、の体でアドリーヌさんにプレゼントもいいか?

 勢いで告っちゃおうか?


 アドリーヌさんを考えながら、何を買おうかウキウキ気分で妄想していた。

 アクセがいいかな?でも鍋が薄くなったらしいから鍋がいいか?

 森の花も持ってるしベタに花にしようか。

 プレゼントを渡したら、


「ダニエルさん嬉しい!抱いて!」


 なんて!ぐふふふ。

 妄想全開で楽しんでいたら、スライムを踏んづけた。


 すっ転んでケツを打った。

 いてて・・・危ない。

 ふと見るとスライムは倒していたようでクリスタルが落ちてる。


 !!


 マジか!レアドロップ!


「うぉぉぉぉ~~~~!」


 大興奮。

 スライムが落とすか?青色の・・・スキルクリスタル!

 朝の予感は間違ってなかった。


「ぐふふふふ」


 ニヤケが止まらない。

 ラッキー続きいい感じじゃね?

 むしろラッキーすぎだよ反動がくるか?


 この勢いで告白したら・・・?


 いやまずは使うか。

 スキルクリスタルを砕くと光の欠片になって胸に吸収される。

 なんのスキルかな?ステータス照会が楽しみだ。


 街までの帰り道、アドリーヌさんとの妄想が止まらなかった。

 妄想でもアドリーヌさんは綺麗だ。

 たおやかな笑顔。

 綺麗な声。

 怒ると怖いけど、天使な人だ。


 途中、グラスウルフの群れを倒し、素材を追加した。

 大量大量!


 ☆ ☆ ☆


 ギルドで薬果を卸しクエスト報酬を受取る。

 窓口を変えダガーの鑑定とマッドボア・グラスウルフの買い取りを依頼する。


 朝には想像もしていなかった高額の報酬になる。


 やっぱ勢いは大事にしてアドリーヌさんに面白可笑しく話してみよう。

 前振りでちょっと驚かそう!


 プレゼントは花束を買うことにした。

 森で採った花をあしらってくれというと、店員のお姉さんは「まあ」とニコニコになった。

 あれこれ相談した結果、森の花は一番目立つ位置に、そして巨大な花束になった。

 両手で抱えないと持てないようなサイズ。


 歩き始めてやっちゃった感が強くなった。

 前が見えにくいし、やたらに目立つ。

 子供には指さされるし、クスクス笑う人も多い。


 いやアドリーヌさんには花が似合う。

 花と並んでも花よりも綺麗なんだ。

 だからこれも必要なことなんだ!


 常宿に帰る。


「いらっしゃ・・・いませ?」


 花束で顔が見えずアドリーヌさんが戸惑っている。


「ただいま」


 花束をずらしアドリーヌさんの顔を見る。

 あぁ綺麗だ。

 自然と笑顔になる。


「ダニエルさんおかえりなさい。お花どうしたの?」


 今日はラッキーデイだから調子に乗ってみる。

 勢い勢い!


「結婚して下さい!」


 アドリーヌさんへ花束を突き出す。

 本気ではあるが、いきなりだから冗談にもできるかな?と気軽な気持ちでいた。

 巨大だし食堂にでも飾ってもらおう。


「・・・・」


 アドリーヌさんは固まっている。

 あれ?


「・・・・」


 アドリーヌさんは固まっている。

 焦ってきた。落ち着かない。


「・・・・」


 アドリーヌさんは固まっている。

 アドリーヌさんの瞳から涙がひとしずく。


「・・・・はい」


 アドリーヌさんは泣いている。


 え?ん?

 OK??え~~~!

 びっくり。


「ほっ、ほんとに?」


 やべ震えてきた。


「はい。よろしくお願いします」


 アドリーヌさんの満面の笑みに顔が熱くなる。


 俺たちは結婚することになった。



 ☆ ☆ ☆



 カチッ、カチッ


 火打石の鳴る音が響く。


「ダニーいってらっしゃい」


 切り火をしてもらう。

 アディは今日も綺麗だ。


 「アディ愛してる。いってきます」


 愛しのアディに軽くキスをしてギルドに向かう。


 今日も絶好調。

 うんダンジョンに行こう。

 ちょうど初級のパーティーが指導を募集していたので、一緒にダンジョンへ。


 攻略のポイントを解説、モンスターを倒しながら進んでいく。

 危ないところもあるが、筋のいいパーティー。

 慣れていったらランクアップも早そうだ。


「彼らはいかがでした?」


 受付嬢が評価を求めてくる。


「慎重だし、センスもいい。このままなら早く上がっていきそうです」


「指導無しでも大丈夫だと思います。あとは慣れた頃にもう一度あればってところかな」


「承知しました。ありがとうございました」


「ええではこれで」


 指導を完了し報酬を受け取る。


 あれから報酬が入ると花を買うのが習慣になっている。

 今日は何の花を買おうかな。


 実はあの時持ち帰った森の花、俺の育った地域では祝い事に使われる花なんだけど、この街では結婚には必ず使われる花なんだとか。

 この花を渡すだけもプロポーズの意味があるくらい。

 それを使ってくれって言われたもんだから花屋も目立つようにアレンジしたのだった。


「アディただいま」


「ダニーおかり」


 アディが飛び付いてくる。

 熱いキスを交わす。


「アディはとても綺麗だ。朝に会ったときよりも綺麗になったんじゃないか?それとこれ、今日はリリーが綺麗だったから買ってきたよ」


「ふふ。ありがとう」


 太陽のような笑顔で喜んでくれる。


 今は式を挙げるための準備中。

 まあ準備といっても俺がすることはほとんどなく、稼ぐことに尽きる。


 先日王都で注文したドレス待ちだ。

 仮縫いで見たけど、真っ白のドレスに包まれたアディは神々しいまでの美しさだった。

 見惚れてしまって動けなかった。


 色々思い出してはニヤニヤしてしまう。


 「また思い出してるの?」


 「ん?ああぁ女神さまかと思ったよ」


 「もう」


 少し頬を染めながら軽く小突かれる。

 可愛いなこんな素敵な女性が妻になる。


 頑張って稼がないとな。

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