「最近のヒーロー」

「いくぞ!悪党!!」


 廃工場の中。

 一人の凛々しい青年が機械仕掛けのベルトのバックルを片手に、蜘蛛のマスクをした怪人に向かって叫んだ。


 彼の名は、広本昭雄ひろもと あきお。ヒーローである。


 ある秘密の組織が作った特殊なベルトを腹部に装着。

 ベルトにスマートフォンを差し込むことで、ベルトは広本の身体に合わせて強化スーツを作り出す。

 広本はその強化スーツを身にまとい、人間を超えた超人へと変身することが出来るのだ。


 スマートフォンを構える広本。


「変身!」


と叫び、スマートフォンをベルトに差し込む。

 すると、ベルトから音声が鳴り響いた。


「セットオン!!変身タイム!!ジャー、じゃがじゃじゃじゃじゃーん!!」


 廃工場内にベルトのサウンドが鳴り響く。


「くっ!」


 蜘蛛の怪人は広本を見つめる。


「じゃーじゃーん!!はー!じゃがじゃがきゃがじゃが!!!」


 ベルトからサウンドが鳴り続ける。



 ……。



 10分経った。


「だだっだあーーんん!!でーっででーん!!!」


 まだサウンドが鳴り続ける。

 広本はポーズしたまま、動かない。

 蜘蛛の怪人も動かない。



更に30分後。


「どんがらがっらったどんがらがった!!!」


 まだまだサウンドが鳴り続けている。

 広本はずっと同じポーズをしたまま、固まっているがプルプル震えている。

 蜘蛛の怪人は地面に体育すわりをしていた。


「なあ、まだ変身しないの?」


 蜘蛛の怪人の言葉に広本は、


「うるさい!!最近の変身ベルトは変身までのサウンドが長いんだよ!!」

「いや、長すぎるだろ!」

「うるさい!!」


 ベルトのサウンドが、廃工場内に鳴り響き続ける。



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