「救世主」

「うわあああああ!!!」

「きゃあああああ!!!」


 ショッピングモール内。多くの人々の悲鳴が響き渡る。

 全身黒いタイツを着て覆面を被った男達が、次々とショッピングモール内に現れた。

 男達は奇声を挙げ、老若男女構わずに殴る、蹴るなどの暴力を振るう。


「うきー!!」


 黒タイツの男達は奇声をあげて暴虐の限りを尽くす。

 平穏だったショッピングモールは惨劇の場となった。


 あまりのショッキングな出来事に怯える少女がいた。

 少女は恐怖のあまり、動けず、泣き叫んでいた。

 タイツの男達の一人が、少女に目を付けた。

 タイツの男は、一歩、一歩と少女に近づく。


 そして、タイツの男の手が少女に触れようとした瞬間!


「待てーい!!!」

「うき!?」


 その力強い声に、タイツの男の手が止まった。

 タイツの男達は、その声が響いた方に顔を向けた。


 そこに立っていたのは、身長190センチ以上はあるであろう筋肉質な男の姿だった。

 男は黒い革のジャンパーとズボンを着こなし、手には黒い革のグローブがはめられていた。

 男の存在感、迫力に、タイツの男達の動きが止まる。

 その男の顔は、数々の修羅場をくぐり抜けてきた者のみが出来る険しい顔つきだった。

 力強く太い眉毛。

 刻まれた眉間のしわ。

 そして、なにより、右の頬に刻まれた深い傷。


 この男、ただ者ではない!


 この場に居た全員がそう思った。

 革ジャンの男は、タイツの男の一人に近づく。


「う、うきー!!」


 タイツの男は突進するかのように、男に殴りかかった。

 しかし、革ジャンの男は動じることなく、静かに、流れるように、タイツの男の拳をかわした。

 タイツの男の拳が空を切ると、革ジャンの男はすかさずタイツの男の腹部に膝蹴りを入れた。


「うぎぎぎー!!」


 タイツの男は胃液を吐き散らしながら、床に倒れ込んだ。

 革ジャンの男は何事もなかったかのように、乱れた髪を直す。

 タイツの男達に戦慄が走る。

 そして、暴力を振るわれていた人々の表情に安堵の笑顔が。


 さっきまで、泣き叫んでいた少女の涙は止まっていた。

 少女は革ジャンの男を見つめた。

 まるで、その革ジャンの男の姿は誰の目にも神々しく見えた。


 救世主が現れた……!


 誰もがそう思った。


 革ジャンの男は少女の前に歩み寄る。

 男は少女の前に立つと、膝を曲げて、少女と目線を合わせた。

 男と少女の目と目が合う。

 そして、男は静かに口を開いた。


「僕と結婚してください」


 男の言葉に、その場にいたすべての老若男女、タイツ姿の男達全員が固まった。


「嫌です」


 少女は、男に向けて中指を立てた。



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