~思い出をありがとう、栗木くん~

団子おもち

「エロ本の買い方」

「キミ、歳いくつ?」


 レジに立つ本屋の店員が僕にそう聞いてきた。

 この店員、20後半ぐらいの男性だろうか。

 店員は手に持った「超マニアック!エロエロ地獄!!~今夜は地獄車~」というエロ本と、僕を交互に見ながら、もう一度同じことを言った。


「キミ、歳いくつ?」


 店員の目が、まるでナイフのように鋭く光った。


……。


 僕は、エロ本が欲しかった。

 人間。男として生まれ、中学2年にもなれば、それはエロ本の一つや二つ、欲しくはなるだろう。


 自宅近くのコンビニで買うことはできない。

 よく利用しているからだ。

 ここで買ってしまえば、今後このコンビニには行きにくくなる。

 自宅から遠い場所にあるコンビニに行くことも考えた。

 しかし、距離が遠ければ遠いほど、移動費がかかる。


 電車を利用する金があるなら、その分、エロ本に回した方が良いだろう?


 それに、距離が遠いと、仮にエロ本を購入した後、知り合いか誰かに出会ってしまう可能性がある。

 その時に、何故ここに居る?なにしに来た?とか聞かれ、「エロ本を買いに来た」と答えるわけないだろう。

 買ったエロ本をカバンかなにかで隠せても、エロ本を買ったという事実を隠せる自信が僕にはない。


 自分で言うのもなんだが、僕は正直者で嘘をつくのが下手だ。

 すぐに顔に出てしまう。

 きっと、エロ本買ったということが顔に出てしまうに違いない。



 こうなると、本屋だ。

 そもそも、本は本屋で買うのが当たり前だ。

 だが、大手レンタルビデオ屋チェーンの本屋は種類が少ない。

 チラッと見てきたが、僕を満足させるエロ本は見当たらない。



 続いて、有名チェーンの本屋に行ってきたが、ダメだ、人が多い。

 こんなに客が多い状態でエロ本を買う勇気が僕にはない。



 ならば、個人で経営している本屋だ。

 ここなら、客も少ない。店員も一人。

 そして、個人で経営してる本屋だと、エロ本の種類が充実している。


 エロ本を買うなら、個人店の本屋しかない。



 僕はリサーチにリサーチを重ねた結果。

 自宅から近くもなく、遠くもない場所にあり、なおかつ、客足も少なく、エロ本の種類が充実している店を見つけた。

 ここだ。

 ここでなら、僕はエロ本を買える。



 学校が終わり、制服から黒いパーカーに着替えた僕は歩いて、その本屋に向かった。

 自転車に乗ることも考えたが、途中で事故に遭う可能性がないとは言い切れないので徒歩で行った。


 30分ぐらい歩くと、その本屋に着いた。

 少し年季の入った昔ながらの本屋という感じだ。

 この本屋に着くまでの30分間が、まるで3時間ぐらいに感じられた。




 店内に入る。

 本の匂いが鼻の中に入ってきた。


「らっしゃせー」


 店員の声がした。男の声だ。

 レジには、若い男がだるそうに椅子に座っていた。

 この店の店員のようだ。

 僕は周囲を見渡す。他に客は居ないか、念入りに見渡した。

 どうやら、他に誰も居ないようだ。

 今、この店に居るのは、僕とこの店員だけだ。


 店内の奥にあるエロ本コーナーを見つけた僕は、真っすぐに歩みを進めた。


 おお、なんてことだ。

 エロ本が充実している。

 あんなものから、こんなものまで。

 興奮と好奇心が抑えられない。

 どれだ?一体、どれが僕を満足させてくれるエロ本なんだ?


 ある一冊のエロ本に目が行った。


「超マニアック!エロエロ地獄!!~今夜は地獄車~」


 なんだ、このタイトルは?

 物凄いパワーを感じる。

 思わず、このエロ本を手に取った。

 触れた瞬間、自分の心の中で声が響いた。


「これが、お前の運命のエロ本だ」


 これだ。

 これが、僕が求めていたエロ本だ。

 僕はエロ本を持って、レジに向かった。

 そして、僕はレジに「超マニアック!エロエロ地獄!!~今夜は地獄車~」を置いた。

 つばを飲み込む。

 そして、財布を構え、僕は声を発した。


「これください……」


 椅子に座っていた店員が僕に目を向けた。

 店員はやる気がなさそうに立ち上がり、カウンターに置かれたエロ本を手に取った。

 ようし、あとは金を出すだけだ。

 僕は財布から千円札を何枚か出すと……。

 店員の口が開いた。


「キミ、歳いくつ?」

「え?」


 心臓が凍り付くような感覚に襲われた。

 店員はエロ本を手に持ち、僕を見つめてもう一度同じことを言った。


「キミ、歳いくつ?」


 店員が僕を射抜くように見つめる。


 しまった!!


 エロ本は18歳未満では買えなかった……!!


 迂闊だ!なんて、迂闊なんだ!!

 僕はこんな単純なことを忘れていたなんて!

 18歳未満の僕が、18歳以上じゃないと買えないエロ本を買うことは出来ない!!


 僕は根本的な問題を見落としていた。

 その事実に、身体中から一気に血の気が引いていく。


 若い男の店員がまた口を開いた。


「ねぇ?キミ、歳いくつ?」


 僕は千円札を持ったまま、固まっていた。

 一体、これから僕はどうなってしまうんだ?


「ねぇ、だから、キミ、歳いくつ?」


 店員は「超マニアック!エロエロ地獄!!~今夜は地獄車~」を持ったまま、何度も僕の年齢を聞いていた。




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