第2話 ステージ
ショッピングモールのステージ・・・
遂にこの日が来てしまった、女装をさせられた日から女の踊り方をミッチリ、教え込まれていた。
男の時は大きく力強く踊ることを意識していたが、今は艶かしく、そして元気よく踊るように言われている。
「ユウ、今日はお前にかかっている、センターで頼むぞ。」
「シンゾウさん、今日だけですからね、絶対に二度としませんよ。」
「・・・」
「ちょっと返事は!」
「大丈夫さ。」
「何が!ねぇ、今日だけだよ!今日だけだと言ってよ!」
シンゾウは目を逸し答えようとはしない。
「ほら、化粧が崩れるから暴れない。」
俺はミユキさんに止められ、再度化粧直しをする。
「うーーー、知り合いに見られたらどうしよう。」
「大丈夫よ、その姿のユウちゃんをユウキくんと思う人何てほとんどいないよ。」
「いやいや、バレるって、顔を隠しているわけじゃ無いし。」
「はいはい、そろそろ出番だからね、ほら切り替えて、ユウキくん、よさこいは楽しまなきゃダメだよ。」
ミユキさんに言われて俺は切り替える事にする。
よさこいを踊る事は大好きだ、不本意な格好とはいえ、久しぶりのステージ、楽しくしないともったいない。
俺は気持ちを切り替え、精一杯楽しむ事にした・・・それが間違いだとも知らずに。
「さあ、次はチーム楽和の皆さんによるよさこい踊りです。楽しんでまいりましょう。」
司会から紹介が行われ、ステージに立つ。
ステージの上に立つと興奮と楽しさから女装していることを忘れていた。
「おい、あの子凄く可愛くないか?」
「本当だ、凄く楽しそうに踊ってる。」
「笑顔がいいな、少し見ていくか。」
少しずつ足を止め見てくれる人が増えていく。
ステージの上からも増えて行く様子が見える。
やっぱりよさこいは楽しい♪
よさこいを知らない人達でも、足を止めて見てくれる。
みんなで作ったこのステージを楽しんでくれる。
俺は見てくれる人の期待に答えるように精一杯踊る。
「おい、あの子と目があったぞ。」
「凄い奇麗・・・」
踊りが終わる頃には人だかりが出来ており、歓声も大きくなっていた。
やはり、ステージは最高だ。
僕はその日、輝いていた。
そう、輝き過ぎていたんだ・・・
翌週の練習日。
「ユウキ、入会希望者が増えたぞ!」
練習に来るとシンゾウが俺に伝えてくる。
「やっぱりイベントの影響ってあるんですね。」
俺は嬉しくなる、自分たちの踊りが人の心を動かしたのだ。
「まあ、本格的にやってくれる人は多く無いだろうが、復活の第一歩だ!」
「やりましたね!」
俺とシンゾウは握手を交わす、ただシンゾウの手が力強過ぎる。
「シンゾウさん?握力が強いのは解りましたから離してもらえませんか?」
「いや、離すと逃げるだろ?」
シンゾウはニッコリ笑う、俺は嫌な予感しかしない。
「に、逃げるような話なのですか・・・?」
恐る恐る聞いてみる。
「チームとして必要な事だな、ユウキ引受けてくれるな。」
「は、話によるかな〜?」
「大丈夫だ、ユウキは何も考えずに踊ればいいだけだ。」
「人は考える生き物ですよね。」
「そんな哲学知らん、今必要なのはユウキのハイかイエスの返事だけだ。」
「それって答えが変わらない選択じゃないですか!」
「なぁに、じきに慣れる。」
シンゾウは手を握ったまま、奥にいたミユキの所に連れてくる。
そして、おもむろに化粧を始めるのだった。
「ちょ、ミユキさん、止めて!」
「ほら動かない、ズレちゃうでしょ。」
子供の頃から慕っていたミユキの言葉には逆らえない何かがある、俺は言われるまま動きを止めると・・・
「はい、完成、可愛いわよユウちゃん。」
ユウキ改め、ユウちゃんが完成していた・・・
「ちょ、女装は終わったんじゃ!」
「新たに来た子はユウちゃんを慕って来てるの、その子達が馴染むまではユウちゃんでいてね♪」
「いや、練習ぐらい化粧無しで!」
「お願いユウちゃん♡」
ミユキさんの頼みを断れず・・・
「わかりました、暫くだけですからね。」
「ありがとうユウちゃん、素直なユウちゃんは好きよ。」
俺は生涯ミユキさんには勝てない気がした瞬間だった・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます