5-3 ナギサイド

「ようやく見えたわ~。あれね~」


 目の前には人が沢山いた。何かの軍かな? ルナやソフィアが特に警戒していないから、ヴァルダンの軍ではなさそうだ。


 団体を見たルナが。


「シグマ様!? もしかして、シグマ様!?」


 シグマって、確か、アルヴスとロゼッタの主だっけ? そっか、この人が例のシグマか。同じ、八騎将でも、悪人ヅラのゲブンと違い、第一印象だが将としての威厳を感じる。


「ルナではないか! 何故、ここに? と言うか、何で息切れしているんだ?」


 ルナが「はあ……、はあ……」と発しながら、息をしている。それは運動神経が悪い彼女が、目的地も分からない状態で走ったからね。


「あれ? あなたは……ユミル様!?  何であなた様がコルネリアに!?」


 他国のお姫様がいたら、それは驚くよね。


「お久しぶりですわ、シグマ様」


 驚いたシグマを無視して、挨拶しているよ、このお姫様。


「わたくし達は、ついさっきまではアヴァルの街にいたのですが、こちらのカチュア大勢の人の足音が聞こえるからって言うので、ここまで駆けつけてたのですわ」

「いや、待て。ここから、アヴァルの街まで歩いて、三十分くらいあるよ。どんだけ、耳がいいんだ?」


 そうなんだよ。カチュアが聞こえた、足音はシグマ率いる軍勢だったんだか、そこまで、たどり着くまで、かなり、距離があった。ルナのペースに合わせて、走って、二十分ぐらいは掛かった。

 

 途中、カチュアがおぶってあげることは言っていたが、当然ルナは拒否した。


 というか、知っていたが、改めて思ったが、カチュアはどんだけ、耳がいいんだが。もう、人間レベルじゃないだろう。


「ところで、そちらの方々は? 比較的、背の高い女性の方はソフィア殿だとして、残りの二人は?」


 カチュアとエドナのことか。


「カチュアよ~」

「エドナです」


 うん。何の疑いもなく名乗っているよ。


「ああ、アルヴスに聞いた。確か、女将軍のような蒼い髪と瞳を持った力強い女性と治癒に優れた小さな女の子の話を」

「小さいな女の子って、あたしのことですか!? もう、アルヴスさん!」


 頬を膨らませて怒っているよ。逆に可愛いが。


「それで何かあったんですか」

「いや~、話ていいのか……」


そう聞くと、深刻な問題が発生したと感じるんだが。まあ、こういう、台詞が出ると、下手に話すと混乱が起きる可能性があるパターンだよね。要するに只事じゃない。それは話したくないよね。


「あら~。でも、もの凄く悪いことが起きていることは、あなたを見ればわかるわ~。のちに、分かることを隠しているのを放って置くのは訳にはいかないから、話したほうがいいわよ~」

「あー、すいません、話します」


 何だろ、特に巧みな話術ではなく、いつもののんびりとした喋り方なのに、将軍であるシグマの口を割らせている。カチュアの放った空気が、そう従わなければならない状況にさせている。


「ヴァルダンが侵攻してきたんだ。それで、もう帝国領土まで入ってきたんだ」

「え?」


 ヴァルダンって、現在、ここコルネリア帝国に侵略行為をしている隣国だっけ? エドナの村を壊滅させた連中。


「でも、確か、ガロン……様が討伐に出たのでは?」


 気のせいか? ルナは「様」付けを躊躇ったような。


「ああ、ヴァルダン軍を向かい撃つところだったんだが、そのヴァルダン軍は揺動で、別のヴァルダン軍に侵入を許してしまった」


 かなりの失態だな。てか、国境の防衛はどうしていたんだ? まさか! 配置していなかったのか? 一度、侵略していたのに? 


 本当に大丈夫なのか? この国の将軍は? 


「そんなー」

「こうなることは軍師とか入れば、予測はできていたのでは? 仮に、侵入を許しても、迅速な対応ができるはずですよ」


 確かに、ソフィアの言う通りだ。基本、そういう人達は必要だよね。こんな失態は起こさないよな。


「あー、ガロンの部隊に軍師はいないんですよ。策を立てて行動するのが嫌いな人で」


 うわ〜。呆れた話だ。


 よく、将軍なれたよね。戦う力があっても、頭が空っぽじゃ、本当に意味がないよ。


「それで、今、動ける私の隊でヴァルダン軍本体が街や村を襲われる前に、我々で人々を避難させないと」

「そっか~、じゃあ~、わたし、手伝うよ~」


 あれ、カチュアって確か……。


「ちょっと! カチュアさん!?」

『カチュア! あなた確か、戦いに参加するのは拒否していたんじゃ』

「村が襲われたら大変よ~、助けないと~」


 戦闘力は高いくせに争いは嫌いなんだよね、この子。「戦いに参加したくない」と言っていたぐらいだし。だけど、目の前で人が亡くなるかもしれないのに掘って置かないのね。


「ありがたいが、それはできない。一般人が戦闘に入るなんて……」


 カチュアを一般人として、見るのは無理があるのでは?


「そうも言ってられないわ~。村が襲われそうなのに、あなたは私達に村が滅ぼされちゃうかもしれない状況を見ていてというわけなの~」


 まただ。何なの? カチュアが放っつ、この威圧感というべきか。あまり、怖くはなく、普段のカチュアのおっとりとした、雰囲気だが。何処か、威圧みたいなものを放っている。


「あ~……すいません。お願いします」


 いや、もう少し頑張れよ。将軍。


 やはり、従わなければならない状況にさせているのかな。


「そうと決まれば、行きましょう~」


 強引だな。


「もう、この際、付き合いますよ。カチュアさん。……で、カチュアさん、どこに行けばいいか分かりますか?」

「ん? ん~、エドナちゃんわかる?」

「え? ん~、分かんないんだよ⁉︎!」

『なんで、村から出たことがなかったエドナに聞くんだよ!』

「ん~、あ! そっか!」


 この子、あのハ……あ! やばい! ……ゲじゃなかった! ハルトだ! そのハルト並に物忘れの激しさだな。あ! ハルトの場合は名前忘れか。


「じゃあ、私が道案内を」

「ソフィアさん、道知っているんですか?」

「代々はです、けど」

「じゃあ、ルナちゃんはわたしの背中に」

「いいえ! 着いていった。ところでルナは戦闘に参加できなくなります。先に行っていてください」

「そーなの~? 遠慮しなくっていいのに~」

『いや、遠慮はしていないと思うよ』


 てか、カチュアにおぶってもらって、何度か吐きそうになっていたから。ルナはもうトラウマレベルになっているんじゃないかな。


「じゃあ、行きましょうか」


 カチュアとエドナはソフィアに続いて走り出した。ユミルは翼を広げて、三人の跡を追う。


「そういえば、兄様は?」

「前回の怪我で不参加にしてもらった。あいつも無茶ばっかりするからな」

「すいません兄が」

「いや、それよりも驚いたな」

「何が」

「あいつの笑った顔何なんて、初めて見たかもな。以前も笑っていたが、不気味だったから」

「……そうですね」

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