2-10 エドナサイド (場面変更)

 あたしは、ロプ村で、怪我人の治癒をしているんだよ。


「これで最後なんだよ」

「おお、怪我人全員を治療するなんて。お嬢ちゃんは、神に派遣された、天子様じゃ」


 なんとか、怪我人全員の治癒は終わったんだよ。死人がいなくってよかったんだよ。本当に良かったんだよ。


 それにしても、大分、時間がたつんだけど、カチュアさん達大丈夫かな?


 ふっと、顔を上げると、村の入り口辺りに人影が見えたんだよ。あれは……。


「カチュアさん!? カチュアさんだ!」


 村に入ってきたにはカチュアさん、なんだよ。それに、ルナちゃんもいる。もう一人の男の人は、ルナちゃんのお兄さんかな?


「無事だったんですね!」

「何とかなったわ~」


 あたしはカチュアさんたちの方に、向かって走り出したんだよ。


 ズリッ!


「あ!」


 また足を滑らしちゃった。


「はわわわわわわわ!!!」


 ドーーーーーン!!!


 あたしはカチュアさんの胸元に突っ込んじゃったんだよ。それに、勢いよく突っ込んじゃったから、カチュアさんを押し倒しちゃったんだよ。


「うおおおおおおお、うらやましいいい」

「なんという、けしからん光景だーーーー」


 顔を上げると、なぜか村の人と兵士さん達が大声を上げているんだよ。


「はううう」

「……ちゃん」


 どこからか、唸り声が聞こえるんだよ。下の方を見ると、カチュアさんが、寝転がっていたんだよ。カチュアさんにぶつかった後、そのまま、下敷きにしてしまったんだよ。


「あ! ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」


 あたしは慌てて、カチュアさんの上から降りたんだよ。


「うん、だいじょぶよ」

「いや、カチュアのお嬢さんなら避けるか受け止められると思ったがな。立てるか?」


 ルナちゃんのお兄さんらしき人は笑いながら、倒れている、カチュアさんの手を掴み、引っ張ったら、カチュアさんは立ち上がったんだよ。


「あの~。もしかして、ルナちゃんのお兄さんですか?」

「ああ、アルヴスだ。君は?」

「エドナです」

「よろしくな」


 アルヴスさんは、何故か、右手を出した。あたしは握った手から、二本の指を立てたんだよ。


「あの~、じゃんけんですか?」

「いやいや、違うから」


 あれ? 違っていたの? なんか、クスクスと笑われているんだよ。


 ふっと、アルヴスさんの足元を見ると、顔の形が崩れた、ボロボロの恰好をした男の人がいたんだよ。


「あ! 怪我していますね。治します」

「いや、こいつはガイザックだ」

「そうなんですか? でも……顔が」

「確かに、こんな顔にされて可哀想だな。これから囚人になるけど。治したほうがいいな」

「よく『可哀想だな』って言えるわ」

「ルナちゃん?」

「この人……ルナの兄ね。顔面が潰れたガイザックを仰向けにした状態で、拘束術……あ! この鎖みたいな奴ね」


 ガイザックっていう人の、体と足首に、鎖みたいのが巻いてあたんだよ。


「巻きつけたガイザックを、ここまで地面に引きずって来たのよ、この人。もう酷いものよ」

「この人。こういう時に使うのがサドかな? 村長さんから聞いたことがあるんだよ。……でも、意味は分からないんだよ」

「間違っていませんよ、エドナさん。この人、サドですから」

「おいおい、失礼だな」


 あたしはガイザックって人に治癒術を使ったんだよ。ガイザックの顔が戻っていくんだよ。気絶したままなんだよ。


「これでよし」


 アルヴスさんの方を振り向くと、何故か、あたしに睨みつけていたんだよ。 


「君はいったい」

「え? エドナですよ」

「いや、まあ、そういうことじゃなくって、まあ、いいや」


 どうしたんだろう?


「それにしても君の治癒術は凄いな」

「そうなんですか?」


 ルナちゃんにも、同じことを言われた記憶はあるんだけど、そうなのかな?


「そうだな。見た感じルナよりかは年が下に見えるのに」


 でも、あたしは年の割には背が低いって、言われるんだよ。ルナちゃんはあたしよりも、背は若干高めだけど。


「ルナちゃんって、何歳だっけ?」

「十三ですよ」

「あたしは十五歳なんだよ」


  ルナちゃん、あたしよりも年下だったんだ。それに、年下なのに、あたしよりも、しっかりしているんだよ。


「ルナよりも年上だったのか。よかったな、背は勝って。胸は完全惨敗だが」

「兄さまー!!!」


 ルナちゃんはアルヴスさんに何度かお腹を殴っているんだよ。あまり痛いという声も出さなければ、表情も変わらないまま、笑っているんだよ。ルナちゃんのパンチが弱すぎるのかな?


「まあ、とにかく、一度、アヴァルの街に戻ったら、本当はタウロの街に行きたいがここからじゃ遠すぎる」

「兄様、なんで平然で話を進められるんですか?」

「仲良しですね」

「そうね~」


 二人の仲のいい光景を見ていたら。


「いや、あなたたちは、この光景を見てどこからそんな発言が出てくるのよ」

「あれ? ナギですか?」


 いつの間にか、カチュアさんの瞳が赤くなっていたんだよ。


「ん? ところでこの穴はなに?」


 村内の地面には十二か所の爆発で開けたような穴があった。あれは、恥ずかしいんだよ!


「まさか敵襲か?」

「いや~、それは……」

「あたしが開けたんです」

「この複数の穴がエドナさんの仕業? ……あああああ!!! まさか」


 ルナちゃんに気づかれちゃった見たいなんだよ。この穴は。


「これがお嬢ちゃんの仕業って、確か、皆の治療をしてくれたんだよな?」

「そうじゃよ。ただ、怪我人のところに向かうたび、娘さんが転んでしまって、そのたびに、こういった穴を開けておるんじゃ」

「はっはっは、ツッコミが追いつかん。どんだけ、転んでいるんだよ? てか、どんな転び方をすれば、こんな、爆発後みたいな穴が開くんだ?」


 おかしなことでもしたかな? アルヴスさんは笑いながら喋っているんだよ。


「エドナさん。よく転ぶんですよ。出会ってからここに来るまでにも転んで色々壊していますよ」

「もう、好きで転んでいるわけじゃないんだよ」

「兵器じゃないか。カチュア殿よりも、強いじゃないのか? もはや、転べば無双ができるんじゃないのか?」

「もー! そんなこと言われても、嬉しくないんだよー」


 あたしの怒鳴り声と、アルヴスさんの笑い声が、村全体を響かせたんだよ。



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