2-9 ルナサイド

 現在、カチュアさんと、お尋ね者のガイザックとの、戦いが繰り広げています。


 カチュアさんの実力は、ロプ村へ向かう途中でデッドウルフの群れと交戦の際に、把握していた、つもりでした。しかし。


「なんなんだ、あの嬢ちゃんは! なんで勇能力を持っているガイザックと戦えられるんだ?」


 兄様は呆然として、戦いを見ています。驚くのも、無理がありません。あの勇能力を持っていないカチュアさんが、持っている者を圧倒していますから。


 ルナが思っていた以上に高い戦闘力を誇っているようですね。カチュアさんは。


「え~と……、ここに来るまで、カチュアさんは凄く強い人だと、思ったんですけど、ここまでとは思いませんでした」


 カチュアさんの実力が、勇能力を持ってガイザックを押す切っているなんて! しかし、地面に突き刺さった剣を蹴り飛ばすのも、驚きました。


 ガイザックは地面に転がっていくが、体制を整えていました。


「くそがぁぁぁあ!!!」


 ガイザックから、強力な魔力を感じます。魔術を発動しようとしています。


「気を付けてください! カチュアさん」

 

 ガイザックは即刻、火の玉の攻撃を放った。無詠唱のため、発動が早い。


 しかし。


「なぜ、当たらない?」


 あっさり、火の玉の攻撃を躱すカチュアさん。

 

 ガイザックは連続で、火の玉を放つが、カチュアさんは軽々と躱していきます。


 カチュアさんは、次々と放たれる火の玉による、攻撃を躱わしながら、ガイザックに近づいていきます。


 ドーーーーーーーン!!


 いつの間にか、カチュアさんは、ガイザックの懐に入り、ガイザックの腹部に蹴りを入れました。


 ガイザックは「ぐおおお」と叫びながら勢いよく飛ばされていきます。


「放って!」


 ルナは、その隙をついて、ガイザックに向けて炎の大玉を放つ。

 

 ルナの攻撃はガイザックに命中しました。


「ぐう、なぜだー!?」


 自分で放った炎の大玉ですが、唖然としてしまいました。だって、ルナの魔術が通用したのですから。


 一方、ガイザックは、体に付いた、火を祓い去っています。


「どうゆうことだ!? 何故、ルナの魔術を通用したんだ?」 


 兄様が、驚いていた顔をしています。無理もないです。だって……。


「なんで奴は、障壁が貼られていない!? まさか! 発動できないのか!?」


 どうやら、ガイザックは、障壁を発動していないみたい。でも、何で? こういう時に使わないと命取りなのに?


「もしかして、今の奴は障壁を貼るための、障壁力がなくなっている! だが、俺はそこまで奴にダメージを与えていないはず。いや、傷一つも与えてすらない!」


 そうなると、ガイザックにダメージを与えた瞬間はありません。


「まさか! さっきのカチュアさんの蹴りで、ガイザックの障壁を破壊したの!? 一撃でそんな!? こんなことあるの!?」


 いいえ、あり得るかもしれない。カチュアさんはバカ力の持ち主。そのバカ力で障壁力を大幅に削れたのですね。……のかな?


「くそがー!! ふざけやがってー!!」


 ガイザック再びは無詠唱の魔術での火の玉を何発も放ちましたが、当然、カチュアさんは火の玉を華麗に躱わしたり、剣で火の玉を受け止めたりしました。もう何三十発以上も放っていますが、カチュアさんには、一発すら当たりすらしなかったです。


 しばらくすると攻撃が止まり、ガイザックは「ハアー、ハアー」と息を切らしました。無詠唱でも、何回も魔術を、使えば体力は消耗するんです。一方でカチュアは息を切らすどころか、のほほーんとした表情も崩れることはなかった。まあ、非常時でも、のほほーんとしていますけど……。


「くそー! くそー! くそぉぉぉぉぉ!!!」


 再び、剣でカチュアに、攻撃を仕掛けてきました。


 カキーーーン!! カキーーーン!! カキーーーン!!


「くそーーー!! 俺の攻撃を受け止めやがって!!」


 カチュアさんの剣がガイザックの剣を受け止めました。そのまま、カチュアさんはガイザックの武器を持っている右手の手首を掴み、ガイザックを投げ飛ばした。


 ガイザックは地面に叩きつけられ、転がっていった。


「ぐわーーーーー!! あつい! あつーーーーーい!!!」


 止まったらと思ったが、地面に寝そべっている、ガイザックは騒ぎながら右側方向に転がったり、左側方向に転がったりを繰り返しています。


 とういよりか、あの人、今、「あつい」って、言わなかった? 確かに、よく見ると、ガイザックの手首から煙が出ています。


 あれ? 煙が出ているところ。確か、あそこは、さつき、カチュアさんが掴んだところです。


 ということは、あのガイザックの火傷はカチュアさんの仕業ですか? でも、カチュアさんが火をつけた素振りはなかったです。じゃあ。魔術を? いいえ、使っていたら魔力を感じるはず。そもそも、カチュアさんは魔術が使えないって言っていたわ。じゃあ、あの煙は何?


「くそーーーーー!! もう、女だからっていって、容赦しない!!!」


 立ち上がったガイザックは両手を上げ、その間から火の玉が出てきて。それもかなり大きい。だけど、なんか、魔力の流れが乱れているように感じる。


 ドカーーーーーン!!!


 え!?


「ぐわーーーーー!!?」


 突然、火の玉が爆発した。


 もう、何がなんだか。


「くそーーー!! 何でだよーーー!!?」


 ガイザックはまた、再び、剣を掴みカチュアに攻撃を仕掛ける。


 カチュアさんに目掛けて、突っ込んでくる。しかし、カチュアは動こうとせず、深呼吸をした。そして。


「もう、いいかげんにしないと、怒るわよ~~~!!」


 のんびり屋のカチュアさんでも、大きいな声が出せるんですね。というか、カチュアさんでも怒るんですね。その顔は、あまり、怖くないですけど。


 そうしている間にも、ガイザックはカチュアさんに近づいてきた。ガイザックはカチュアさん目掛けて、剣を振り下ろすが、カチュアさんは剣を振るい、ガイザックの剣に当てる。ガイザックの剣は真上に飛ばされていった。


「わたしは戦うのは好きじゃないのに~~~!! もう、わからずや~~~!!」


 バッコーーーーーン!!!


 カチュアさんは攻撃の手を止めず、ガイザックの顔面を殴りつける。


「ぐおぉぉぉぉぉ!!!」


 ガイザックは後ろの方に吹き飛ばされていく。


「おい! 顔面潰れているぞ!」

「殺さないよう、力をできるだけ弱めたつもりよ~」


 さっきまで声を出していたのに、元の優しそうな口調に戻っている。


「『殺さないように』って、これ、完全に両方失目しているぞ、これ。さらに鼻の骨が砕けているし、首の骨も折れているぞ。いや、それどころか、全身の骨が砕けている。生きているのが不思議なくらいだ……」


 一応、手加減はしているんだね。


「しかし、君は何者だ? 奴は力が弱い方ではあるが、勇能力の持ち主。それなのに障壁は一撃で壊すし、身体強化で高めていたのに遅れを取らない……、君は、見た感じ、勇能力を持っていないのに」

「さっきも言ったわよ~。カチュアよ~」

「カチュア、名前を聞いてるわけでは……、まあ、いいか」


 いいんですか? 兄様?


「今は置いておく。それよりもありがとう、助かった。しかし、改めて見ると伝説の女将軍の血縁かと思うほどだ」

「よく言われるわ~」

「あのー、ガイザックを倒しましたし、そろそろ戻りましよ。皆さん心配しています」

「そうだな。取り敢えず、ガイザックに拘束術を掛けておくから少し、活躍してくれたお嬢さんを休めといてくれ」

「わかりました」


 兄様はガイザックのところへ向かった。


 ガイザックの潰れた顔を見ると煙が出ている。さっき、カチュアさんがガイザックの腕を掴んだ時と同じですね。でも、なんで、カチュアさんに触れられたガイザックから、煙がでるんだろう? ルナが触れられても煙はでなかった。そう言えば、ギルドで揉めた男の人にも、振れていたけど、煙は出なかった。何か違いがあるのかな?


「それにしても、ヴァルダンとかいう国だっけ? その将といい。ガイザックといい。自分の力を否定されるとあんなに怒り狂うものかしら?」


 カチュアさんがぼそっと、何か言っていた。


「カチュアさん、どうしたんですか?」

「いや、ナギだ」


カチュアさんの瞳が赤くなっている。


「さっき、何か言っていました?」

「今のは、大きいな独り言よ。表に出るつもりはなかったがつい出てしまったようね」

「はあ~。そうですか。……ほんと、あなた方は何者ですか?」

「私達は互い何者かは知らない。でも、カチュアは気にしていない様だけど」

「も~、それはなんなのよー」


 瞳の色が元に戻っています。今の「も~」からカチュアさんが喋っているんですね。


「私からも聞いていい?」


 また、瞳の色が赤になっている。ということはナギさんね。なんか、忙しそうね。


「答えられる範囲なら」

「あなたは、私の存在に気づいていたようだけど、何で? 」

「カチュアさんから、魔道具を装備していないのに、魔力の流れを感じたからです」

「魔力?」

「魔術を使うためのエネルギー原です」

「その、魔力の流れっていうものは、誰でも感じることが出来るの?」

「いいえ、もう、生まれつきの特技と言ってもいいくらいです。兄様が言うには、億に一の確率でその特技を持てるそうです。今のところは、ルナしかいないそうです」

「その魔力の流れは魔道具からしか感じないのか?」

「正確には核になっている魔石です。後は勇能力を持って者から感じます。それと、魔術関連を使うと感じます。例えば自力で付けた火は感じないですけど、魔術で作った火には魔力を感じます」

「もしかして、私がカチュアの中にいるのは」


 そう、いくら、カチュアさんの中にいるからって、魔力を感じるなんて。魔力を感じることは魔術を使った痕跡があるから。


「カチュアさんの中にいるのは、魔術関連でしょ。それに心当たりがあるのです。確か……」

「あ! それはまた、後にしてくれないかしら。意識が無くなりそう」

「そうですか、わかりました」


 カチュアさんの瞳の色が蒼色に戻りました。

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