1-9 ナギサイド

 —―弱い奴が死ぬのは当然だろうが。何、当たり前のことを聞くんだ?

 —―あんた、変わりましたね。いつから、そんな非道になったんだ。 


 あの悲惨な光景を見た後に、聞こえた声は一体何だったんだ? それは今は、どうでもいいか。




 さっきまで、のほほーんとした雰囲気で、狩りをしていたのに。まあ、私はしていないけど。


 それで、エドナの住む村に向かうことにしたが、着いたら、この惨劇。さらに、襲った奴らが戻ってくる。そして、これから戦うことになるか。


 目が覚めてからというものの、なんていうか……、急展開過ぎるわ!!! 記憶喪失にはキツ過ぎる展開だ!!


 でも、一番、辛いのは、エドナか。家族とも言える、村の人達が何者かに殺されて、突然の別れをしないと行けなかったから。そのうえ、村の人達を殺した者達と戦わないといけないなんて。辛い、辛過ぎるだろう。エドナが。


 カチュア達は戦いの準備を整え、村出入口近くの瓦礫に隠れ、様子をうかがう。そして……。


「見えたんだよ! 十何人かは、いるんだよ!」


 来たか。でも、私には見えないな。


「うん、わたしも見えるわ~」


 私には見えないが、カチュアとエドナは目がいいから、二人には遠くのものが見えるんだね。


 あれ? 森から出て、村まで着いた距離は約五百メートル位だったのような……その間は、平地。まだ見えていないということは、村を襲ったであろう連中は、現在、約五百メートル内には、まだいないということか。私視点、連中はまだ森の中か。と言うことは、この子ら、樹木が密集している森の中まで、見えているってことだよね? この二人、視力良過ぎないか?


「それじゃ~、わたしが前に出るね~。エドナちゃんはどこか隠れながら、弓で援護をお願いね~」

「大丈夫なんですか? お一人で?」

「こういうのは慣れているの~。だから、だいじょぶよ~」

「そうなんですね……、あたしは……、あたしは……」


 エドナの足が震えている。無理もない。誰でも怖くなるだろう。それに、平凡に生きてきた女の子には残酷すぎる現実だ。


「……怖いかしら〜?」

「え〜と……、その……」

「……急所を狙わらなくっていいのわよ〜」

「え?」

「下手したら、殺し合いになるのよ~。わたしたちは、戦うつもりはなくっても、相手は戦うつもりよ~。でも、エドナちゃんは、いきなりのことで、覚悟もまだできていなわよね~」

「う、うん」

「それでも、エドナちゃんは、エドナちゃん自身を守らないと~」

「! カチュアさん」

「覚悟はなくたって、いいわ〜。だけど、自分自身を守らなくっちゃいけないわ〜。だから、急所を狙わらなくっていいのから、戦わないと。村を襲った人達のために、エドナちゃんが犠牲になる必要なんて、ないわ~。自分の命を大切にしてね〜」

「うん」

 

 エドナを勇気づけるカチュアが逞しく見えてきた。のんびりとしたカチュアとのギャップ差が凄まじい。


 次第に、エドナの震えていた足が収まった。笑顔とは、言えないがエドナの表情は穏やかになった。


「ありがとうございます!」

「ん? あ〜! エドナちゃん離れて〜! 来たわよ〜」

「え!?」


 私の目でも、見えてきた。森の中から人が次々と姿を現せてきた。


 あれがヴァルダンとかいう、国から来た連中かな? 見た感じ王国の兵士と言うよりも民族衣装に近い格好。民族衣装って言われても説明できないけど、なんかこういった、ところで使うと、しっくりくるのよ。


 民族いや、この村を、壊滅させたのが奴らなら、民族というよりも、蛮族と呼ぶべきか。


 てか、多くない? 軽く二十人以上はいるだろう。その人数で、カチュアとエドナだけで、対処できるのか?


 エドナはカチュアの指示で、壊れた家の瓦礫の影へ、隠れていった。弓を扱う、エドナは後衛か。


 そして、カチュアは隠れもせず、ヴァルダン兵の前に堂々と姿を現した。


「村に戻ってくる輩がいると思ったが、娘か……」


 ヴァルダン兵が近づいてきた。そして、なぜか、徐々に、鼻息荒くなってきている。これは、あれですね。あれ。


「おい! 見ろよ! あれ!」

「おっ! おっぱいがでかい!!」

「それにも、関わらず、お腹周りや、腕に足が細ーーい!!」

「しかも、すげー美人だ!!」

「うひょー! 生きて捕らえましょう!」


 うわー、もの凄い、分かりやすく、興奮しているよ、この発情期猿たち。こんな発情期猿たちだが、この村を襲った奴らで間違いなさそうね。


「気持ちは、はあはあ! わからなくはないが、はあはあ! 我々はコルネリアに、はあはあ! 勝つための任務があることは、はあはあ! 忘れるな! はあはあ! 将軍殿は、はあはあ! もうすぐここに、はあはあ! 来られるぞ! はあはあ! 」


 真面目に喝をいれているようだが、スケベ心、丸出しだな。息が荒々しくって、会話の途中、途中に、荒い息を吐くから、こいつの言っていることが、全然聞き取れないんだが。


「あなた達が、この村を襲ったのかしら~?」


 このスケベらに堂々と問い出すカチュア。


「ああ、そうだ。はあはあ! 痛い目に会いたくなければ、はあはあ! できれば、はあはあ! メリオダスが、はあはあ! 残した禁書が、はあはあ! いいのだが、はあはあ! そう簡単にはないか。はあはあ! それ以外に、はあはあ! 我々の力を、はあはあ! 増幅できるものであれば、はあはあ! 何でもいい、はあはあ! それを、はあはあ! 渡してもらおうか、はあはあ!」


 だから、会話の途中、途中に、荒い息を吐くなよ! 聞き取りずれえよ!!


 そんな奴の口から、何とか、聞き取れたことは、メリオダスの禁書を求めているようだ。つまり、その禁書っていうのが、それが奴らの目的ってことか? いや、『力を増幅できるもの』って言っていたけど。世は戦力強化が目的ってことかな?


 —―俺の力があれば、厄災なんて。


 ふっと、男の人の声が頭に浮かんだ。こんな時に何をしているんだろう?


「う~ん……、ないわよ〜」

「嘘をつくなよ~、はあはあ!」


 いや、嘘は付いていないよ。そもそも、カチュアはこの村の住人じゃないから。エドナなら知っているのかな?

 

「……そもそも、『きんしょ』って、なに~?」


 あ~、まずは、そこからか。私もわからないわ。意味は知ってけど、どんなのかは知らない。まあ、奴らの目的は、力に関するものらしいから、それ関連だろうね。


「仕方がない、はあはあ! お主を捕らえる、までだ! はあはあ!」


 なんか、すごーく、シリアスな場面なのに、カチュアのデカ過ぎる胸に興奮して、獣の顔になっているよ。こんな奴らに村を壊滅させられるなんて、村の人達がかわいそうだな。いや、誰が相手でも、人殺しは良くないが。


「引いた方がいいわよ、あなた達。死んじゃう前にね~」


 この戦力差に、何、強者のように振舞わっているんだ?


「おいおい! はあはあ! 強がるなよ! はあはあ! この戦力差で勝てると思うなんて、はあはあ! 随分と世間知らずのお嬢ちゃんだね。はあはあ! それに、こちらも、はあはあ! 引くっていう選択肢はないんだよ。はあはあ!」


 やばい。段々と息が荒くなってきている。今にでも、カチュアに襲い掛かりそうだ。


「……引かないのね? 来るなら、仕方がないわ~。手加減しないわよ〜。」


 カチュアは、束になっている鞘から、一本の剣を抜いた。


「なるべく綺麗な肌を傷つけるなよ。はあはあ!」


 ヴァルダン兵は一斉に襲い掛かってきた。でも、やはり、変態獣の顔なのね。


 それよりも。


『カチュア! 一人で平気なのか?』

「だいじょぶよ〜。わたし、負けないわよ〜」

『どこに、その自信があるんだが……』


 カチュアは、剣の先端を地面に付けながら、左側から右側へと薙ぎ払った。


 シューーーーーン!!! ドドドドドドドドドドドドドッ!!!


「うわわわわ!!」と叫びながら、ヴァルダン兵達は、吹き飛ばされていた。


 一瞬何が起きたが分からなかった。


 どうやら、さっき地面を薙ぎ払った時、衝撃波を起こしたようだ。その衝撃波で、迎え来るヴァルダン兵を吹き飛ばしたってことか。


『てっ! 衝撃波起こせるって! どんだけ、力を振り絞れば、起こせるんだよ!』


 しかし、こんな力を出したから、カチュアの、持っていた剣は、というと。


「やっぱり、地面に着けるのは、だめ見たいだわ〜」


 カチュアの剣が折れてしまう。カチュアは折れた剣を捨て、別の鞘に納めている剣を抜き出す。。


「なんだ、今のは?」

「気を付けろ! ただのデカパイ女ではないぞ!」

「これって、不味い奴を敵に回したのでは!!」


 滅茶苦茶、動揺しているな。ヴァルダンの方々は。


 獣の顔から、きっちりとした顔になった。さすがに、あれを見たら、命の方が大事と思うよね。


「手加減したら、俺らが死ぬぞ! 勿体ないが、あの女を殺すぞ!!」


 ヴァルダン兵が、また一斉に、カチュアを襲い掛かってきた。奴らが武器をしっかりと構えている限り、カチュアはもう排除対象になってしまった見たいだ。


『次々と来るよ!!』

「だいじょぶよ~」


 いつの間にか、ヴァルダン兵に囲まれてしまったカチュア。これ本当に、大丈夫なのか?


「貰ったぁぁぁ!!!」


 しまった! カチュアの背後から、カチュア目掛けて武器を振り下ろそうとしているヴァルダン兵が!


 シュン! ドーーーーン!


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 カチュアに不意を突こうとしたヴァルダン兵が、逆にカチュアに蹴り飛ばされてしまった。


 実は、ヴァルダン兵の背後からの攻撃を、後ろを振り向かずに躱しつつ、そのヴァルダン兵の背後に、素早く周り、蹴り飛ばしたんだ。


「掛かれ! 掛かれ!」


 どんどんと、ヴァルダン兵達が、カチュアに攻撃を仕掛けてきた。しかし、まるで、未来が見えているかのように、華麗に躱していく。そして、攻撃を躱しながら、相手を剣で斬りつけていく。とはいうが、カチュアの戦い方は、命を奪うためではない。斬りつける、というが、急遽は狙わず、敵の動きを封じられる、ぐらいの、深手を追わせる。そういった中で、カチュアの剣も六、七本も壊れてしまう。


 あの胸から、そんなに身軽に動けるものが? 大きな胸はハンデにはならない。


「なんだよ!? あの女は!? 化け物か!?」

「どうするんだよ!?」


 兵達はオロオロし始める。獣の顔から、絶望の顔へ大変身って、ところか。ここで引いてくれたらいいのに。


「怯むでない。君達! ここは、この私、ボイス様が相手になろう」


 そんなに甘くはないか。なんか、イキイキした男が来たよ。一見、悪い人には見えないんだよな。でも、この惨劇に加担しているんだよね?


「例え、彼女が強敵でも、我が軍の試作品である、この盾に前では、歯が立たないであろう」


 盾自慢かよ。確かに、見る限り、鉄で、できている感じがしない。特別制なのは確かね。


 すると、ヴァルダン兵が近づき。耳元でこっそり、話しているみたいだ。私には聞こえないんだが。


「え~と~、なになに……武器は一般のものなので、そこの、ところは注意して下さいって、聞こえるわよ~」


 そう言えば、カチュアは耳がいいんだった。あの小声でも聞こえるんだな。いや、そんなことよりも。


 あいつ、武器は普通かよ!? 盾だけ立派って、中途半端だな!!


「いざ!!」

 

 ボイスとかいったかな? その男は鞘から剣を抜く。確かに、武器の方は普通の鉄で、できていそうだ。盾と比べると……、うん、普通ね。予算不足? 軍資金が足りなかったのか? 


 ボイスは、カチュア目掛けて、剣を振り下ろすが。その攻撃をカチュアは、軽々しく受け止める。その後は軽く、男を後方に押して、その隙をついてカチュアは居合切りをする。相手は素早く盾で構える。


 パッキーーーン!!!


 カチュアの剣は盾に当たって、しまったため、剣が折れてしまう。


 やはり、あの盾は固いわね。一筋ながらには、いかないか。


「この盾がある限り、其方の攻撃は通用しない!」


 確かに攻撃が通用しなければ。


「じゃあ~。こっちの方がいいかな〜?」


 カチュアは奴の盾の上部分を握る。そして、その手を後ろの方へ引く。


 バキーーーン!!!


『えーーーーー!!!』


 剣を通さなかった盾が、簡単に割れてしまった。


「!! 馬鹿な!」


 驚いている隙に、ボイスの腹部分に拳を入れる。殴られると同時に、ボイスは吐血をした。そして、ボイスは腹を押さえながら、倒れていった。


「嘘だろ!? あの盾を壊しただと!?」

「逃げよう!! 俺達には敵わない!!」


 ヴァルダン兵は引いていく。


「あ! こら、待って! そんなことしたら、処刑されてしまう!!」


 逃げていく兵を、必死に止めに入る者がいるが、何人かは逃げていった。


 それにしても、処刑って?


「終わりましたね」


 隠れていたエドナが出てきた。


「……まだよ~」

「え?」

「十本ぐらいあった剣が使えなくなっちゃったわ~。あと二本しかなわ~」


 敵の半数が逃げ、残りも、戦う気力がなくなったにもかかわらず、カチュアは戦いの警戒を解かなかった。


 カチュアの勘は正しい。まだ戦いは終わらなかった。


 正直、その勘は当たって欲しくはなかった。



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