1-8 エドナサイド

 あたしは、目を疑ったんだよ。夢であって欲しい、欲しかったんだよ!


「どうして……、どうして、こんなことに!?」


 カチュアさんが、ライム村に何か嫌なことが起きていることを察したらしいから、あたし達は急いで、ライム村へ向かったんだよ。


 そして、ようやくライム村に戻ってこれたんだよ。だけど、村から出ていく前の、光景じゃなかったんだよ。


 村が……、家……、全部、壊されていたんだよ! 何で……、何でこんなことに!?


 あ! そうなんだよ!


「みんなは!? 村の皆は無事なの!? 村長さん!! ドアさん!!」


 あたしは皆の無事を確認するために、何も考えずに、村の中へ走って入っていったんだよ。


「あ! エドナちゃん、待って~」


 後々、思い返せば、あたしは、どうかしていたんだよ。


 カチュアさんの声が耳には入いらず、あたしは走り出したんだよ。ただ、村の皆が無事なのかどうか心配だったんだよ。


 皆……、生きていて、なんだよ!


 走りながら、村を見渡すと、村の人達が横になって倒れていたんだよ。倒れている村人の生死を確認するも、殆どが手遅れだったんだよ。


 あたしの魔道具には、聖石が付いているから、治癒術という、対象者の治癒力を高めて、傷を治すことができる魔術の一種を扱うことが出来るんだよ。だけど、傷は治すことはできても、蘇生はできないんだよ。息が無ければ治癒術は使えないんだよ。

 

 皆の生死を確認するたび、目から涙が出てきたんだよ。だって、あたしは、未だに生存者を見つけることが、できていないから、なんだよ。でも、諦めないんだよ! きっと、まだ、生存者はいるはずなんだよ! あたしは、とにかく、生存者を探すんだよ。途中で転んだりしたけど、直ぐに立ち上がって、生存者を探すために走るんだよ!


 そして、そんな中、あたしは、いつの間にか、村長さんの家の前にいたんだよ。だけど、やはり、村長さんの家も壊されていたんだよ。


 はうう……。誰が、こんな酷いことを!?


「うう……」


 あれ? 瓦礫の中から、唸り声が聞こえたんだよ! もしかして、生きている人がいるの? 


「ドアさん!」


 家の前にはドアさんが倒れていたんだよ。生死を確認するも。


「そんな……」


 ……息はしていなかったんだよ。はうう……、涙が……、涙が止まらないんだよ。


「ぐぅ……、エドナか……」


 声が聞こえるだよ。この声は……村長さんだ。さっきの唸り声は、村長さんのだったんだ。よかったんだよ。生きていたんだよ!


「村長さん!」


 村長さんが、壊れた家の瓦礫の下敷きになっていたんだよ。早く助けないとなんだよ!


「お主は……、無事のようじゃな……、良かっ……た」

「待てください! 今、手当てを!」

「無駄じゃ……、自分の体だから……、もう……悟っている……、意識を……保つだけでも精一杯だ……」

「そんなことを言わないでください! 大丈夫です! あたしが治しますんだから!」


 あたしは村長さんに治癒術を掛けたんだよ。


「エドナよ、気を付けるんじゃ……、この村を襲ったのは、ヴァルダン王国の連中だ……、奴らが戻ってくる前に……、この村から……出るんじゃ……」

「村長さんも一緒に逃げましょ! だから……」


 あたしは必死に治癒術を掛けているから、傷は塞がっているんだよ。だけど、村長さんの体が冷たくなってきているんだよ。何で? 何でなの!?


「其方だけでも、無事でよかった……、エドナよ……、幸せに生きてくれ……」


  村長は動かなくなったんだよ。脈を確かめて見たんだよ。……涙が、……涙が。


「村長さん!? 村長さん!? 村長さん!? 噓でしょ!? う!! いっ、いやーーーーー!!! 村長さーーーーーーん!!!」

 

 村長さんが息を引き取ったんだよ。あたしは、もう、とにかく泣き叫んだんだよ。


「エドナちゃん!!!」


 そんな泣き叫んでいた、あたしを、カチュアさんが抱いてくれたんだよ。


「カチュアさん!」

「あなたは絶対守るは……、だから……、死んでいった村の人たちの分まで、あなたは生きて」

「カチュアさん……、カチュアさん……、うっ!! うわわわわわわわわわ!!!」


 そのまま、カチュアさんの胸元で泣き叫けんだんだよ。あたしが泣き止むまで。




「落ち着いたかしら~?」

「……うん。もう、大丈夫なんだよ……」

「……あのね。わたしも、村全体を回って見たんだけど……、その……、せい……、違う、いいえ……」


 あたしは悟ったんだよ。この後に、カチュアさんの言いたいことは、わかっていたんだよ……。必死に事実を隠そうとしているんだよ。だけど……。


「生存者は……、いないのですね。気を使わなくっていいのですよ。分かって、いるんです。分かっ……て、いるんです」

「エドナちゃん……、ごめんなさい」

「謝らないでください! カチュアさんが悪いわけじゃないんですから!!」


 目から零れ落ちた涙を拭いたんだよ。カチュアさんに気を遣わせちゃったんだよ。


「それと、こんな時に申し訳ないんだけど~。この村に目掛けて、なんだかは分からないけど、何かが、向かってくるわ〜。音からして足音……多分、この足音からして人よ〜。もしかしたら~、わたし達が、村に向かってことを悟られたかもしれないわ〜」


 あたしには聞こえないけど、カチュアさんには聞こえるだね。


「もしかして、村を襲った人達かな? 村長さんが言うには、村を襲ってたのが、ヴァルダン王国だと言っていたんだよ」

「ヴァルダン? それって……どこ~? 王国の名前かしら~?」

「ヴァルダン王国は、このコルネリア帝国の隣にある国です。それぐらいしか知らないんだよ」

「……エドナちゃん、こんなことが、あってからでは、平常には、いられないと思うんだけど~、この村に向かって来ている、そのヴァルダンの人達を、どうにかしないといけないわ〜。それに、厄介なのは……、この村を囲むように向かってくるのよ〜。逃げるのは難しいわ~」

「ということは、戦わないといけないのかな?」

「少なくとも、生き残りたいなら」


 あたしは戦うのは嫌だけど、カチュアさんの言う通りなんだよ。


「……うん。あの人達をどうにかしないとなんだよ!」

「そーと決まれば、取り敢えず、武器ね~。……なんか、ないかしら〜? さすがに素手だけじゃ、不安だわ~……」


 武器といえば。


「知り合いの武器商人が、よく狩り用の武器を売りに来るんです。確か……、マイクさんの家で管理しています」

「案内して~」

「うん、こっち!」


 あたしはカチュアさんを連れてマイクさんの家まで案内したんだよ。




 やっぱり、マイクスさんの家も壊されているんだよ。近くにはシーツが置いてあったんだよ。そのシーツで何かを被せている見たいで、そこから、膨らみがあるんだよ。その中身は、もう、わかっていたんだよ。このシーツは、カチュアさんが被せたのかな?


 後で、皆の埋葬をしないとなんだよ! それよりも今は、村を襲った、ヴァルダン王国の方々を退けないとなんだよ。


 カチュアさんは、家の瓦礫から武器を探しているんだよ。


「うーん、わたしが使える剣はなさそうね~」

「カチュアが扱う武器は剣でしたよね?」

「剣じゃなくっても、槍でもだいじょぶよ~」

「あ! 剣ありました! この剣じゃ、だめですか?」


 大体、七十センチ位の剣を手に取り、カチュアさんに見せる。


「わたしの場合は、大きめの剣じゃないと、簡単に壊れちゃうわ~」

「この村にある武器は、狩りのための武器しかないのです」

「仕方がないわ~。何本かの剣で補うしかないわ〜」


 カチュアさんは、十本くらいの剣が収められている鞘をベルトで、一つに纏めたんだよ。


 あたしも戦う準備しないとなんだよ。ハルトさんが矢を多く置いてきてくれるから、問題ないんだよ。そう言えば、狩りに出かける前にハルトさんが……。


「そうだ! 確かハルトさんが、いい弓を置いてくれていたはずなんだよ」


 探していると、張り紙が貼ってある木箱が、見つかったんだよ。その張り紙には「ちっこい嬢ちゃんに渡してくる』」と書かれていたんだよ。


「……これね」


 開けると、あたしが使っていた弓よりも立派な弓が入っていたんだよ。


「これは……凄いんだよ! ハルトさんには感謝なんだよ!」


 急にカチュアさんは「ふっ」と顔を見上げたんだよ。


「もう、近くまで来たるわ〜!」


 そう言うとカチュアさんは村入り口まで走り出したんだよ。


「村長さん、皆さん……あたしに力を……」


 ハルトさんから貰った弓を抱きながら。あたしもカチュアさんに続いて、あたしも走り出したんだよ。


 エドナは村の皆の分まで頑張ります。

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