1-10 ナギサイド

 ヴァルダン兵達が、カチュアに怯えながら、どんどん逃げて行く。それも、カチュアによって、深手を負わさらて歩くのも難しい仲間を、誰一人を担がずにだ。


 この村を壊滅された連中にも関わらず、カチュアは襲って来たヴァルダン連中の命を取ろうとしなかった。それどころか、逃げていくヴァルダン兵を追撃しようとしない。深手を負った仲間を担いで逃げることも可能なのに。


 連中には、仲間意識はないようだな。


「お前ら! 誰が退けといった? なぜ、勝手に逃げる!?」


 明らかに、この部隊の、隊長もしくは、将軍のような、威風を感じさせる、大男が逃げていくヴァルダン兵の目の前に立っていた。


「ひいいい!! バッタ様!!」


 てか、なんか名前が、凄く、ダッサ! 


 しかし、上の人間を前にした、ヴァルダン兵の怯え方が異質過ぎる気がする。いくら、任務が失敗して、チキンのように逃げて行ったとはいえ、何だ、あの怯え方は? 何だか、嫌な予感がしてきた。


「も! 申し訳ございません! しかし、我々の手には追えません!」

「そ! そうです! あの女は危険です! あの盾を持ったボイスさんを、瞬殺したしのです! こ、今回ばかりは引かなければ……」


 チキンのようになった、ヴァルダン兵達は、必死に、バッタに許しをこいている。


 余程、カチュアが恐ろしく見えたんだな。


「この弱者がぁぁぁ!!」


 怒り狂ったバッタが、怒鳴り声を上げる。


「エドナちゃん、見ちゃダメ~!」


 カチュアは、咄嗟にエドナの目を、手で隠した。


「はわわ! 急に、どうしたんですか?」


 いきなりのことだから、エドナは驚いているよ。


『いきなりどうした?』 

「ナギちゃんも見ない方がいいわよ~」

『え?』


 この時の、カチュアが、何を言っているのか、わからなかった。しかし、やはり、カチュアの勘は正しかった。嫌な方向性に。


「ぐわわわわわわわわ!!!」


 叫び声!? 一体何が起きているんだ!? 叫び声は、ヴァルダン将のバッタがいたところから、聞こえてきたような……。


『なっ! 何なんだ、あれは!?』


 その光景は、おぞましいものだった。


 逃げようとしていた、ヴァルダン兵らしき者の首がなくなっている。そして、バッタの武器である斧には血が付いている。


 ……まさか!


『あの男、自分の部下を殺したのか!?』

 

 恐らく、バッタは武器である斧で、ヴァルダン兵の首を斬り落としたんだ。アイツ! 自分の部下を殺すなんて。


 そっか、バッタを前にした、ヴァルダン兵が異質過ぎる怯え方をしていたのは、このことだったのか。このバッタは失敗や逃亡を許さず、失態をしでかせば、例え自分の部下でも、容赦なく殺してしまうからか。何という外道ぶりだ。


 それにしても、カチュアは未来予知ができるのか? こうなることがわかっていた。いや、あの男が何をするのか、わかっていたのか? それで、エドナに殺しの光景を見させないために、彼女の目を隠したってことか。


 ——殺す必要なんて、ないでしょ! 確かにこの人たちは悪事を働いていたけど。


 また、記憶が……。しかも、これは私の声? これはいったい。……いや、今はほって置こう。


 しかし、気になるのは……、バッタの武器である、あの大きな斧だ。なんなんだ、あのバッタが装備している斧は? 


 さっきの盾の人が装備していた、盾みたいに、鉄や鋼で、できている感じはしない。じっくりと、あの斧を見ているとなんか生き物の骨で、できているような斧だ。そうだ、今思えば、あの盾も、特殊な素材で、できているような感じはしていたが、今思えば、生き物の亡骸で、できている、感じがしたんだ。


「何が起きているんですか?」

「エドナちゃんは、このまま隠れて~」


 カチュアはエドナの目を隠していた手を、離す。


「一体何を……う!」


 見てしまったのね。ヴァルダン兵の死体が。すぐに目を背けた。


「エドナちゃん~」


 死体を見て、動揺している、エドナにカチュアの声で「はっ」と我に帰る。


「あっ! はい! 分かったんだよ!」


 エドナは、また瓦礫の影に隠れた。


 バッタは、倒れているボイスの前に立った。


「申し訳ございません、バッタ様」

「てめもー、情けを懸けられているんじゃねぇ!!!」


 バッタは容赦なく、倒れているボイス目掛けて、斧で叩きつけた。


「てめーらもだ!」

「やめてー!!!」


 カチュアの胸打ちで倒れていた兵にも、容赦なく斧を振り下ろす。なんて奴だ。


「やめなさい!!!」


 カチュアは地面に落ちてた、折れた剣の破片を拾い。バッタ目掛けて、投げつけた。それも力を振り絞って。


 パッキーーーン!!!


『な! 信じられない!』


 どういうことだ!? カチュアが投げた剣の破片は、当たりはしたが、バッタの体には、傷が付いていない。


 何でだ? 狩りをしていた時に獲た、カチュアが投げた石でギガンドベアの体に風穴を開けたのに、バッタには、同じように、剣の破片を投げて、当てたのに。


 こいつは、ヤバい相手かも、しれない。


「ふ! そんな攻撃効く、わけがないだろ!!」


 怒り狂ったバッタが斧を持ち上げながら、カチュアの元へ走り出した。


 バッタはカチュア目掛けて、斧で斬りつけようとする。カチュアはその攻撃を躱した。


 ドーーーーーーーン!!!


 躱されたバッタの一振りは、地面を叩きつけた。そして、地面には、大きな穴が空いた。いや、どんだけパワーがあるんだよ!? これに当たったら、一溜りじゃない!!


「く、くそぉお!! 女如きがぁあああああ!!!」

「あなたが殺した人達は、あなたの仲間でしょ? なんで殺すの~?」

「ふん! 逃げたり、負けたりする弱い部下などいらんわ!」


 バッタが力ふ振り絞って斧を振り下ろす。カチュアはそれを、剣で向かい撃つ。しかし。


 バキーーーン!!


 カチュアの最後の剣も折れてしまう。


「くたばれ―――!」


 バッタは、カチュア目掛けて大斧を振り下ろす。


「カチュアさん!!!」


 このままでは、カチュアが殺されてしまう!


「なんだと!」


 正直、あの破壊攻撃は、男の筋力なのか、斧の性能かはわからない。だけど、地面をえぐるほどの破壊力を持っているのは確かだ。そんな力を降り出しているにも、関わらず、カチュアは、バッタの斧を持っている手首を、掴んで、バッタの一振りを止めた。


「くっそ! 離せ!! 離せ!!」

 

 バッタは振り払おうとするが、まったく動かない。


「今度は、わたしから行くわよ~」


 ドーーーーン!!


 カチュアはバッタの腕に、目掛けて蹴りを、入れる。


「ぐおおおおおおおおお!!!」


 カチュアの蹴りで、自分より大きな体を持ったバッタを吹き飛ばした。


 ヒューーーン!! ドーーーーーン!!


 吹き飛ばされた、バッタは、地面に強く叩きつけられた。そして、叩きつけられたにも関わらず、すぐさま、立ち上がった。


「くそがぁぁぁぁぁぁ!!!」


 頭に血が上ってきたのか? 結構、短気な性格の持ち主見たいだな。


起き上がったバッタは、凝りもせず、カチュア目掛けて大斧を振り下ろす。しかし。


「ぐわわわわ!!!」


 カチュアは足でバッタの腕を受け止めて、反対の足で、バッタの腕を、上の方に飛ばして。速攻にバッタの腹を拳で殴り飛ばす。


「げほ!」


 バッタは吐血をしたようだ。


「なぜだ……?」


 カチュアの手には血が付いている。 そして、バッタの腹部に大きな穴が空いていた。


 バッタに致命傷を負わせたのはいいのだが、何故、剣の破片を当てても、かすり傷すら、つけられなかった体なのに、拳だと、傷を負わせられたのか。


「女が……」


 バッタは、懲りもせず、カチュアに向かい、斧を連続で振り回す。


 しかし、カチュアは華麗に躱していく。


「この俺様が……村娘なんかに負けるなど、絶対にない……」


 さっきから「女」やら「弱者」と言いやがる。腹が立ってくる。


 ——俺よりも、力がないくせに、俺の手に入れなかったものを、手に入れやがって。


 まただ。これは私の記憶?


 ——なんで、お前は俺のものに、ならないんだよ! この世界を救ったのは俺なんだ!


「ふざけるな! 弱者、弱者って、何も抵抗がない人間に、手をかけて何が弱者って言っているのよ! 所詮、そうゆう人間でしか、相手にできないでしょ!? 現に見下している女に負けているでしょうがー! いい加減に現実見やがれーーー!」


 今まで、見ないカチュアの怒鳴り声が。


 あれ? これは、私が思っていたことのはず。それが何故カチュアの口から? カチュアが、私の思っていることを口にしている? てか、この喋り方、明らかにカチュアじゃない。私だ。どういうこと?


「この女がーーー!」


 バッタが叫ぶ。


 気のせいだろうか? バッタの体から、黒い靄みたいなのが、出始めている。


「バッタ殿! これ以上は危険です! それは、まだ試作品です!」

「だまりいやがれーーー!!!」


 バッタは斧で、手前にあった家の瓦礫を吹き飛ばして、静止しようとした部下にぶつけた。


「もう、いいかげんしないと、怒るわよ~」


 あの男の非道差を見てれば、誰でも怒るよな。カチュアの場合、怒ったような声じゃないけど。


「ぐおおお!! ぐおおお!!」


 何だかバッタの様子がおかしくなってきている。それに、あの黒い靄がどんどんと出始めていて、その黒い靄がバッタの体全身を包んでいっている。


「ぐお! ぐお! ぐおおおおおお!!!」


 カチュア目掛けて、乱暴に斧を振り下ろす。カチュアはそれを躱していく。


 バッタの様子がおかしい。なんか、人としての、理性がなくなってきている感じがする。


 後方に下がった、カチュアに目掛けて、走り出しながら、大斧を振り下ろそうとする。


 バキーーーーーン!!!


 なぜか、バッタの装備していた斧が突然、壊れた。一瞬だが、矢見たいのが見えた。後ろを見ると、射る構えをしたエドナの姿だった。あの矢は、狩りの時に、使った魔法見たいな矢だ。エドナが放った矢が、バッタの斧に命中したみたいだ。


「エドナちゃん、ありがと~!」

「うんうん、それよりも、あれ?」


 バッタの様子が。


「この……ぐわわわわわわわ!!!」


 バッタが苦しみ始めた。


 黒い靄がバッタを飲み込んだ。


「何が起きているんですか?」


エドナは体が震えている。


 正直、やな予感しかしない。


 バッタを包んでいた黒い靄が消えていった。しかし、嫌な予感は当たるものね。その黒い靄から、出てきたのは、人型ではなかった。

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