1-11 エドナサイド

「そんな……! 人が……、人が……」


 バッタと呼ばれていた、大きな男の人は、人の原型が全くない、動物? になったんだよ。でも、動物とは、思えない程、凶暴そうなんだよ。


 大きくって、凶暴そうな動物……、もしかして、これって、村長さんが言っていた、魔物なのかな? 見たことのない生き物? だから?


 でも、あの姿は、英雄譚とかでよく載っている、挿絵と同じ姿をしているんだよ。そう、まるで、二足で立つ巨大なトカゲ……いいえ、挿絵だけど、伝承によく記される、魔物の一種と言われている、ドラゴンに似ているんだよ。


 初めて、ドラゴンを見たんだけど、挿絵に描かれているドラゴンよりも、とても怖そうなんだよ。


「そんな! バッタ様が……」

「なんてことだ」

「これが、あの試作品の副作用ですか? こんなの聞いていないですよ!」


 ドラゴンは、カチュアさんによって、倒れていった、ヴァルダン兵の方へ、向かっていったんだよ。


「エドナちゃん! 見ちゃダメよ~!」

「え!?」


 カチュアさんが、急に、腕を伸ばして、その腕で、あたしの目を隠したんだよ。さっきも、同じように、カチュアさんは、あたしの目を隠したんだよ。その時は、ヴァルダン兵の、叫びが、聞こえたんだよ。


 もしかして、カチュアさんは何が起きるかは、分かっているのかな? だから、カチュアさんは、あたしの目を塞いだのかな?


 目を隠されているから、何が起きているかは見えないんだけど、声や音が聞こえるんだよ。


 聞こえてきたのは、ヴァルダンの人達の「やめて……!!」と声が聞こえるんだよ。そして、その後には「ぐわわわわわ!!」と叫び声が聞こえるんだよ。


 さらに、その後に、聞こえる音には、ショックを受けたんだよ。あたしは、目を隠されていて、何が起きているか見えないんだけど、叫び声の後には「くちゃくちゃ」と音がしたんだよ。そう、何かを食べる音と同じなんだよ。


「はうううう!!」


 これって、あのドラゴンが、ヴァルダンの人達を食べているってことなのかな?


 人が食われている……。はうう! そうだ! 今はドラゴンになっちゃったんだけど、あのドラゴンは元人間だったんだよ……。つまり、人が人を……食べているんだよ。


 はうう……。吐き気がしてきたんだよ。


「エドナちゃんは後ろに下がっていて~。少なくっても、後ろには、ヴァルダンの人達も、あのトカゲ見たいな生き物は、いないから、だいじょぶだと、思うわ〜。でも、一応、警戒はしておいてね~」

「分かったんだよ。……でも、気を付けてくださいね」

「分かったわ~」


 カチュアさんの手は退かされ、目を開けると、ドラゴンの辺りには、血が溢れ、落ちていたんだよ。


 あたしは、また、家の瓦礫で、隠れられところで、身を隠したんだよ。


 でも、あたしが隠れたら、カチュアさん、一人で、ドラゴンと戦うことになるんだよ。カチュアさん、大丈夫なんでしょうか? だからと言って、あたしは弓で援護することしか、できないんだよ。


 うんうん! あたしは、あたしで、出来ることをするんだよ。そう、この弓で、カチュアさんを援護するんだよ。


「ぐぉおおおおおおお!!!」


 ドラゴンはカチュアさん目掛けて、殴り掛かってきたんだよ。カチュアさんは、咄嗟に、ヴァルダンの人が使っていた剣を拾い、その剣で、ドラゴンの拳を受け止めたんだよ。受け止めた後、すぐに、後ろの方へ下がったんだよ。カチュアさんは無事だけど、剣の方は折れてしまったんだよ。


 再び、ドラゴンは、カチュアさん目掛けて殴り掛かってきたんだよ。それに対して、カチュアさんは、素手で、ドラゴンの腕を、受け止めたんだよ。


「いくわよ~」


 ドーーーン!!


 その状態から、カチュアさんはドラゴンのお顔に蹴りを入れたんだよ。あんなに、でかいドラゴンを蹴りで吹き飛ばしたんだよ。


 さらに、カチュアさんは、吹き飛んだドラゴンの元へ走り出したんだよ。


 ドーーーン!!


 カチュアさんは吹き飛ばしたドラゴンに追いつて、ドラゴンのお腹を殴りつけたんだよ。殴られた、ドラゴンは、さらに吹き飛んだんだよ。


 ドッカーーーーーン!!!


 吹き飛ばされたドラゴンは、地面に思い切り、叩きつけられたんだよ。


 倒したのかな?


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 はうう。ドラゴンが起き上がったんだよ。倒れていなかったんだね。しかも、お腹部分を見たら、ドラゴンになる前の、大男さんと、違って傷一つ付いていないんだよ。


 あれ? 気のせいかな? カチュアさんが殴った部分から、煙が出ているんだよ。特に、火なんて使ってもないのに。なんでかな?


 そんなことを考えている間にも、起き上がったばかりのドラゴンが、また、カチュアさんを襲うんだよ。だけど、カチュアさんは、ドラゴンの攻撃を、軽く躱していくんだよ。カチュアさんも主に殴る、蹴るで反撃するものの、ドラゴンには傷一つも付けられていないんだよ。


 はうう、きっと、ドラゴンの体は硬すぎるんだよ。だから、カチュアさんの攻撃を受け止められるんだよ。どうしたら……。


 こうなったら、あたしが、やるんだよ。普通の矢じゃ、効かないと思うから。


 あたしは魔術で風の矢を作り、タイミングを見計らって、あたしは弓を放ったんだよ。


 シューーーーーン!!!


 命中して、ドラゴンは吹き飛ばすことはできたんだよ。だけど、ドラゴンは起き上がり、矢が命中したところには傷一つ付いていないんだよ。


「そんな……」


 カチュアさんの拳と、あたしの風の矢で、ドラゴン自体、吹き飛ばすことはできるんだよ。だけど、肝心の体に傷を負わせられないんだよ。


 本当に、どうしたら……。


「エドナちゃん! いつでも、魔術で作った矢を、放てるよう構えて~」

「え!? でも……」

「だいじょぶよ~。わたし達は負けないから~」


 あたしは、カチュアさんの指示通り、風の矢を作ったんだよ。


 体制を整えた、ドラゴンは、カチュアさん目掛けて、自身の持つ爪で切りつけようとするんだよ。カチュアさんは、その攻撃を、しゃがんで、躱わしたんだよ。


「そこよ~」


 ドーーーーン!!!


 カチュアさんは、真上に通ているドラゴンの腕を、その真下から蹴りを入れたんだよ。


 グサッリ!!!


「グオオオオオオオオ!!!」


 ドラゴンの腕は、カチュアさんの蹴りによる衝撃で、軌道が変わったんだよ。そのまま、自身のお腹へ向かっていったんだよ。そして、それによって、ドラゴンは、自身の爪で、自身の、お腹を突き刺さしたんだよ。


 ようやく、傷を負わせることが出来たんだよ。


「グググ……」


 あれ? ドラゴンは、まだ、生きている見たいなんだよ! お腹が刺さっているのに? なんで?


 ドラゴンは、すぐに自身のお腹を刺している、自身の腕を引っこ抜こうとするんだよ。


「エドナちゃん、今よ! さらに押して!」

「え!? え……」


 急にカチュアさんが指示を出したんだよ! でも、「さらに押して」って、どういうこと何だろう?


「ん!? そっか! そういうことなんだよ!」


 やっと、カチュアさんの意図が、分かったんだよ。


 あたしは、ドラゴンのお腹を突き刺さしている腕の肘辺りに風の矢を放ったんだよ。


 シューーーーーン!!! グサッリ!!!


 風の矢はドラゴンの腕に命中したんだよ。つまり、お腹を刺している腕の手首部分に、風の矢が当てれば、その衝撃で、押すように爪がお腹を、さらに突き刺さるんだよ。ドラゴンの背中から、自身の爪が出てきたんだよ。


「グオオオオオオオオ!!!」


 ドッカーーーン!!!


 怪物は倒れたんだよ。


「もう、敵の気配はないわ~」


 辺りを見渡しても生存している人はいないんだよ。カチュアさんが、殺さずに生かした、ヴァルダンの兵達も、あの大男さんに殺されてちゃったんだよ。今、生きている人は、あたしとカチュアさんだけに、なっていたんだよ。


「終わったんですね……」


 これは安心したため、かな? 膝を曲げ、地面へ座り込んじゃったんだよ。




 戦いから数時間後。


 あたし達の、目の前にはお墓が。そうなんだよ、これは、村の皆のお墓。あれから、カチュアと協力して皆の埋葬を行ったんだよ。勿論、ヴァルダンの兵達もなんだよ。


 ここまでしてくれて、カチュアさん、大丈夫かな? 一見、元気そうだけど、足がふらついっているんだよ。あの戦いの後だから、疲れているはずなのに。


「あの……ありがとう、ございます。村の皆の、埋葬を手伝ってくれて」

「いいのよ~。それよりも、エドナちゃんこそ、だいじょぶ? 辛くないかしら〜?」


 カチュアさんは、そうあたしに聞くと、あたしはカチュアに笑顔で。


「今でも、大泣きしたいんだよ。でも、あたしは、元気が取り柄なんだよ。皆のためにも、元気でいないと、いけないんだよ」


 元気よく、ガッツポーズを取ると、カチュアさんは笑顔を見せたんだよ。


 だけど、笑顔だったカチュアさんの顔が、再びに笑顔が崩れたんだよ。


「どうしたんですか?」

「……何かこっちに向かってくるわ~」

「え!? もしかして、まだ兵が?」

「わからないわ~。この足音の大きさだと、大軍だと思うわ~」


 そうなると、村に長くいるのは危険なんだよ。それ以前に、ライム村は壊滅して、とても住めるところではないんだよ。……となると。


「あのー、カチュアさんと、一緒にいて、いいですか? あたし帰るところがなくなっちゃったから……」

「七年間、今まで一人旅だったから、仲間が増えて嬉しいわよ~」

「取り敢えず、近くの街まで行きませんか? あ! 街までの道分からないんだよ」

「それなんだけど……」


 カチュアさんは一枚の紙きれを出した。


「さっき、村の皆さんの遺体を運ぶ途中で、地図を見つけたわ~。ナギちゃんに言われて拾ったのよ~」

「この近くにあるのは……、このアウルというところだよ」

「よーし、そうと決まれば……、あ! いけない~、街まで行く準備しないと~」

「え? いいのですか?」

「旅に準備は必須よ~。なるべく急いで~、わたしは村の出入口で待っているから~」

「うん」


 あたしは、すぐに自分の家まで、走って向かったんだよ。




 旅の準備が出来ると、村の出入り口まで走ったんだよ。出入り口前にはカチュアさんが待っていたんだよ。


「もう、いいのかしら~?」

「はい」

「じゃあ、行きましょーか~」


 カチュアさんは、大丈夫なのかな? あの戦いの後だから、きっと。


「あの~、大丈夫ですか?」

「何が?」

「カチュアさん、あまり、休んでいないから」

「今は、ここから離れましょう~。後のことは、それから、だわ~」

「あ! はい、なんだよ! あ! カチュアさん、これから、よろしく、お願いします」


 あたしは、お辞儀をしたんだよ。


「こちらこそ。あ、ナギちゃんも、よろしくっだって」

「はい! ナギさんも、これから、よろしくなんだよ!」


 あたしは、この場にいないけど、ナギさんに対してもお辞儀をしたんだよ。


 そして、大きな荷物を持って、村から出ていくんだよ。




 村が見えなくなるまで、あたしは村を見ながら歩いたんだよ。




第一章  蒼髪の少女 完

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