3-2 エドナサイド (場面変更)
あたし達は、しばらく、アヴァルの街にある宿屋に泊まっているんだよ。
「ふぁ~~~。よく寝たわ~」
カチュアさんの大きなあくびが、この部屋全体に、響き渡っていたんだよ。
「おはよ~、エドナちゃん~」
「あ! カチュアさん。おはようなんよ。今、十二時だよ」
「あら、あら~」
あたしも、本を読んでいたら、いつの間にか、時間が過ぎていたんだよ。
あれ? 何かを、忘れている気がするんだよ。……うん、思い出せないんだよ。きっと、気のせいなんだよ。
「あれ~。エドナちゃんは、本読んでいるの?」
「はい、ルナちゃんから、借りたんだよ。『実際にあった英雄伝説シリーズ』の『四英雄記』という、蒼炎伝説が広がったの後に、起こった、厄災との戦いを描いた話なんだよ」
あたしも、以前は、この本を、持っていたんだよ。今は持っていないんだよ。というのも、村にいた頃、家で、本を持っていた、ところで転んじゃったんだよ。その弾みに、本を離しちゃったんだよ。さらに、その本は、窓ガラスを破いて、隣の家である、村長さんの家の窓ガラスも破いちゃったんだよ。肝心の本は、ドアさんが作っていた、シチューの入った鍋に落ちちゃったんだよ。だから、四英雄記は途中までしか、読んでいなかったんだよ。
ルナちゃんが、持っていたから、借りたんだよ。
「読んだことはないのよ~。でも、聞いたことはあるわ~。確か~、当時、暗黒時代と、言われるほどの、厄災が現れて、四人の英雄が、その厄災を倒したお話だったような~?」
「そうなんだよ。勇者バルング、聖女ティア、弓聖ヒスイ、賢者サリナ、この四人が、当時の厄災を討ち滅ぼしたんだよ。確か、この四人も空の勇者と呼ばれているんだよ」
ウキウキした気持ちになって、話すんだよ。
「聖女ティアに賢者サリナ……ねぇ」
カチュアさんの瞳が赤くなっているんだよ。いつの間にか、ナギさんになっているんだよ。
「あれ? ナギさんだよね? どうしたんですか?」
「いや、何でない……。その人達は空の勇者っていうけど、その厄災を倒すために空の国から来たの?」
「この本によると、事故で空の国から来たらしいんだよ。その時に、四人の仲間である二人と、はぐれたらしいんだよ。その二人を探していたら、厄災との戦いに巻き込まれたらしいことが、書いてあるんだよ」
「探す、ついでに世界を救ったって、ことか? とんだ、とばっちりだな。……前から、気になっていたんだけど。その、厄災って何だ?」
そう言えば、「厄災」って、英雄譚を読んでいたら、何度も記されているんだよ。だけど。
「う~ん、よくわからないんだよ。ただ、その時代に現れる、人類の敵、そしての呼び名ぐらいしか、わからないんだよ」
「まあ、厄災と、呼ばれるぐらいの存在だから、そういう認識か……」
「その厄災に、なんか、ありますんですか?」
「いや、ちょっと、引っかかることがあってね。……そう言えば、その……話が変わるんだけど、エドナが今読んでいるのが、四英雄記って言うんだよね。その前の、戦いが蒼炎伝説って、カチュアと同じ、蒼い髪と瞳を持つ女性が出って、いいんだね?」
「うん、そうなんだよ。女将軍シェリア。色んな呼び方があるんだよ。蒼姫とか蒼炎のシェリアとか」
「蒼炎伝説って、やっぱり、厄災と呼ばれる存在がいたの?」
「うん、そうだよ。名前は確か……メリオダスっていうんだよ。蒼炎伝説は、伝説の女将軍シェリアと当時の厄災と呼ばれている、義理のお兄さんのメリオダスの戦いなんだよ」
「義理とはいえ、お兄さんとの戦いだったの?」
「本だと、そう書かれているんだよ」
「容姿のことは、よく聞くけど、そのシェリアって、何者? それに、そのメリオダスも」
「えっ~とお……、確か……」
あたしが、本の内容を必死に思い出そうとしていたところに。
「シェリアとメリオダスの二人は、同じ孤児院育ちで、由緒ある貴族に、二人同時に、引き取ったんですって。そのように伝われているんですよ」
あ! ルナちゃんだ! ルナちゃんが部屋に入ってきたんだよ。あれ? ルナちゃんって、眼鏡掛けていたっけ?
「孤児院育ちか……。ん? 二人は実の兄妹ではないんでしょ? 何で、二人同時に引き取ったんだ? 普通はしないんじゃないのか?」
「あれ? そういう、ものなんですか?」
「メリオダスは魔術、シェリアは剣術の才を買われたそうです。二人が当時、メリオダスが九歳で、シェリアは六歳ぐらいね。お互い、幼いながらも、大人顔負けの実力を持っていたそうよ」
「二人は、勇能力の持ち主だったのか?」
「メリオダスはそうです。けど、シェリアは勇能力を持っていなかったそうですよ。だけど、本当か、どうかはわかりませんですけど、勇能力を持った将軍クラスの者と稽古した時は圧勝したそうですよ。そう、此間のカチュアさんの、ように」
そう言えば、カチュアさんはガイザックという、勇能力を持った人に、勝ったんだよね? あたしは戦っているところは見たことはないんだよ。
「そして、二人が、それぞれ、十八、十五歳になった頃には、メリオダスは魔術研究者の第一責任者となったんです。当時、魔術革命と呼ばれるくらい、魔術が発展した時代だったんです。シェリアは若くして、騎士団団長の任意を就いていたんです」
この辺は、よく読んでいても、凄さが分からないんだよ。でも、本には、この二人がどれだけの偉大さを強調するようなことが記されていたから、きっと凄いんだよね。イマイチピンと来ないんだよ。
「でも、それだけ、凄い人二人が、なんで争ったんだ? ここまでの話を聞いている限り、争う理由なんて、なかったはずだが」
「それは分からないです。ただ、メリオダスは突然、人が変わってしまった、ことしか……」
あたしが読んだ英雄譚には、メリオダスが、厄災と呼ばれるほどの、人格へと変わってしまった経由は、記されていなかったんだよ。あれはシェリア視点に書かれている本なんだよ。
「あら? そうなの~?」
「あれ? カチュアさん? いつも間にか、元に戻っています」
カチュアさんの瞳の色が蒼色に戻っていたんだよ。今はカチュアさんが喋っているってことかな?
「ナギちゃんなら~、疲れてちゃったみたいだわ~。でも、話は聞いているって」
「カチュアさんは、ナギさんが表に出ている時、カチュアには意識があるんですか?」
「喋れなく、なるぐらいで、普通に、体は動かせられるわ~」
「……都合良すぎないですか?」
「そーなの~?」
「ところで、カチュアさん、エドナさん」
急に。ルナちゃんの猫さん見たいな目が、さらに細くなったんだよ。
「どうしたの? ルナちゃん?」
ルナちゃんは、大きく息を吐いた。
「待ち合わせ、時間は九時ですよ。もう、三時間も遅刻ですよ」
待ち合わせ? 何のことだろうか? しばらく、カチュアさんも黙っているんだよ。
そして。
「「あ」」
カチュアさんと二人沿って、声を上げたんだよ。
思い出した。そう言えば、今日、セシル王国に向かう日だったんだよ。
アルヴスさんから、先日、許可書を受け取ったから、ようやく、セシル王国へ行けるから、今日、向かう予定だったんだよ。それを、忘れていたなんて。はうう……。
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