3-1 ユミルサイド

 ここは、セシル王国。それは鳥人族という、わたくしのように背中に翼を生やした亜種が暮らす、国ですわ。鳥人族は、鳥と付きますが、一般的な鳥とは違い、口は嘴ではありませんですわ。


 セシル全土は森に囲まれた、自然豊かな国でも、ありますわ。森の中の移動は大変そうに見えますが、わたくし達、鳥人族は、空を飛んで移動が可能ですから、鳥人族にとっては、不便では、ありませんですわ。この自然豊かなで、空気が綺麗な環境は、疲れた心を癒してくれますわ。それが、セシル王国のいいところですわ。


 わたくし、ユミルは一応、この国のお姫様と言うことになるのでしょうか? 勿論、セシル出身である、わたくしは鳥人族ですわ。わたくしの背中には、白い翼が生いていますわ。


 現在、わたくしは、セシルにあるお城の中庭で、毎日の日課である、刀の鍛錬をしていますのよ。


 刀を扱っている鳥人族は、わたくしぐらいでしょうか? 鳥人族の扱う武器は、近接系だと、突剣や、槍など、突きによる攻撃をメインとした武器が一般的ですのよ。後は、遠距離系の武器だと弓でしょうか?


 だけど、わたくしは憧れの人と同じ、刀を武器にしていますのよ。その人は過去の人ではありますのよ。そう、英雄譚に載っている偉大な方ですのよ。わたくしは、その方を目指して、毎日の刀の鍛錬を欠かせないのよ。


「す~~、はあ~~」


 周りは音一つも聞こえない、静かなところですわ。そんな空気の中で、わたくしは目を閉じて、大きく深呼吸をするのです。

 

 そして、腰に掛けている鞘から刀を抜きましたわ。


 シュパーーーーーン!!!


 一振りしか、刀を振っていないのに、訓練用の人形には七箇所の切れ目が付いたのですわ。


「ふ~~。こんな、ものですかな?」


 刀を鞘に納めましたわ。大分、物にしたでしょうか? けれども、まだまだ未熟ですわ。技一つ放った後に、集中力が途切れてしまい、何度か技を使うための体力が残っていませんわ。


 やはり、技を何度か使うためには、基礎体力を付けないといけませんわ。そのためには、毎日の素振りを倍以上にやるとか……。


「あっ! いた、いた! お~~い、ユミルちゅあ~~ん」


 急に、わたくしの後ろから声が聞こえましたのよ。後ろを振り向くと。


「きゃぁぁぁぁぁーーー!!! 不審者ですわーーー!!! 誰か助けてくださーーーいぃぃぃぃぃ!!!」


 思わず叫び出しましたのよ。


 だって、明らかに不審な、鳥人族のおじさんがいたのですわ。なぜか国王っぽい、格好をしているわ。そういう、恰好の趣味があるのでしょうか?


 それでも、不審者のおじさんってことには、変わりませんわ!


「いや、いや! わしは、君のお父さんだよ。そして、この国の王様だよ」


 お父さんと聞こえると、わたくしは刀を抜くのをやめましたのよ。


 よく見るとお父様の顔だったわ。……ような気がするのです。そう言えば、お父様の顔って、どんなのでしたっけ? わたくし、恥ずかしい屋らしく、人の顔を間近では見られないから、薄らしか覚えていないですわ。


 そう考えると、この人は……。


「いやーーー!!! 新手の詐欺師よ!! わたぬしの父と偽って、近寄ってくる詐欺師ですわ!! きっと、そうですわ!! 」


 これは、わたくしが、お父様の顔を、薄らしか覚えていないことを、逆手に取った、詐欺師よ。きっと。


「酷い、扱いされているな、わしは。お父さん、傷つくよ。それに、さすがに王属でも、ないのに、王を名乗っては、死刑ものだぞ」


 気のせいでありますでしょうか? 不審者は困ったような顔をしているみたいですわ。やっぱり、お父様であっているのかしら?


「ユミル様、どうなされましたか?」


 知っている声が聞こえましたから、振り向くとソフィアさんでしたわ。


 ソフィアさんは、わたくしが小さい頃から、この国に仕えていて、現在はわたくしの臣下ですわ。


 普段から、黒いドレスとエプロンを組み合わせたような不思議な服を着ていらっしゃるのよ。


 表情の変化が薄く、ちょっと愛想のない人ではありますが、これ以上にないってくら頼れるになるお方なのですのよ。だけど、怒らせたら怖く、国王よりかは敵に回せては、いけないぐらいですわ。小さい頃はその姿を見た時はもうトラウマになりそうだったわ。現在はなれてはいますわ。悪い人ではないのですわ。


 ソフィアさんは、わたくしのお父様と名乗る不審者の方に振り向く。


「もしや、このストーカーおっさんに何かされたのですか?」


 ソフィアさんは不審者さんに向かって指をさしたのです。


「ソフィアくんも、酷いじゃないか、わしは……」

「黙れ、カスじいさん。ユミル様が怯えているではないですか」


 相変わらず、凄いですわ。ソフィアさん。この不審者さんが仮に本物の国王だとしても、表情を変えずに堂々と罵倒するなんて。


「わし、本当に、国王だろうか?」


 段々と萎れてきていますわ。


「ユミル様、これはカスですか。無害なので、ご心配なく」

「無害なカスって、なんぞ? それに、国王にカスはないですよ」

「静かにしてくれませんか? グズじじい」


 もはや、不審者さんには、喋らないたりはさせないようですわ。


「あっ、はい……」


 不審者が黙り込んだ。ソフィアさん、頼もしいですわ。口調に毒が入っていますわ。


「ユミル様、すいませんが、貴方に王から伝言がありまして」

「いや、わし、ここにいるから、わしが直接……」


 びっくりして、思わず、叫んでしまったですわ。


「いやーーー!!! 不審者がしゃべっているーーー!!!」

「いや~、口があるから、しゃべ……」

「ちょっと、不審者。ユミル様を怖がらせているから、喋らないでください。後、口が臭いので、開かないように」


 不審者には喋らせたりしないのね。


「あっ……、すいません。それと、わしはそんなに口が臭いのか?」

「喋らないでください、臭いので。ちゃんと、歯を磨いてください」

「あっ……、はい」


 不審者さんはまた、黙り込んでしまいましたわ。ソフィアさんは頼もしいですわ。口調はかなり酷いと思いますわ。


「ユミル様の治癒の力が必要になりまして」


 わたくしの治癒が必要ですか? 確かにわたくしは、治癒術は扱えますわ。その治癒が必要って、ことは怪我人がいるって、ことですよね? 何かあったのかしら?


「怪我をしている人がいるんですか?」

「最近、凶暴な魔物がセシル王国全体に現れて、多くの村がその魔物達に襲われているのです。そこで、この都を避難場として、被害にあった、村人を我々の軍で誘導をしているんですが、何分、怪我人が多くって、村人誘導活動は思っていた以上に進まないのです」


 ひぃぃぃ!


 セシル王国が今、そんなことになっていたなんて。魔物は怖い、怖いけど、襲われている人がいるなら助けにいかないとですわ。治癒を使える人は数えるぐらいの人しかいない話だから、数は足りないと思うわ。


「そこで、わたくしの出番ですか?」

「はい。ユミル様には、申し訳ないのですが……」


 わたくしは迷わず。


「それなら分かりました。早速、行きましょう! 今、行きましょう! そうしましょう!」

「ユミル様なら、そういうと思いました。それでは、わたくしも、ユミル様の護衛を兼ねて、同行をします」

「じゃあ、わしも……」

「牢屋でも、引きこもってください、じじい」


 なんだか、不審者さんが可哀想になってきましたわ。やっぱり、お父様なのかしら?


「ソフィアくん。いくら昨晩、ユミルちゃんの入っていた、女湯覗いたからといいって、そこまで、罵倒する必要は」


 やっぱり、ヤバイ人だったですわ。変態さんですわ。そう言えばこの人、お城の女湯で見かけたことがあったような、気がしましたわ。


「うるさいですよ。除き魔。そんな、除き魔は、男の胸毛でも眺めといてください」

「あっ……、わかりました」

「では、行きましょうか」

「あっ! はい!」


 わたくしはお父様にそっくりなおじさんを置いて、出掛ける準備をするため、ソフィアさんとお部屋に向かいましたの。


「わし、これでも賢王の異名が……」


 気のせいかな? なんか、聞こえたような。


「そう言えば、アルヴス殿から、ポッポ伝達がありました」

「アルヴスさんって、シグマさんの部下の?」

「はい、妹様と、その連れの二人がこの国に訪ねてくるそうです」


 妹さんって、確か……ルナさんという名前でしたよね? わたくしは、お兄さんであるアルヴスさんには会ったことはありますが、妹さんの方は、まだあったことはありませんですのよ。


 あれ? でも、現在のセシル王国は。


「今は、こちらへ、来ない方がよろしいのでは、ありませんの?」


 そう、セシル王国には凶暴な魔物が現れていますのよ。


「私も、そう思いますが、手紙に気になることが書かれていました」

「どんなことですか?」

「もし、そちらでトラブルがあったら、頼もしい、助っ人になるだろう的なことが書かれていました」

「どういうことでしょうか?」

「わかりません。ただ、旅行客ではないことですね」


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