第7話
事件から一週間が過ぎた。
アイザックは逮捕され、私たちの婚約は破棄された。
両家にとって大事な婚約だったらしいけれど、向こうが百パーセント悪いので、それほど不都合はないそうだ。
逮捕の決め手となったのは、松葉杖の中に隠されていた刃物と、意識を取り戻した執事の証言だ。
どうやら、アイザックはプライドを深く傷つけた私を殺そうとしていたそうだ。
そのために、足を怪我したふりをして、凶器の刃物を松葉杖の中に仕込んでいた。
自業自得なのに、とんだ逆恨みである。
そして、足を怪我しているのは偽装ではないかと感づいた執事は、彼がよからぬことを企んでいるかもしれないと、あの時私に伝えようとしていた。
途中でアイザックに遮られたあの時のことだ。
アイザックは執事が感づいたことに気付き、邪魔をされないように口封じのために刺したそうだ。
「お嬢様、お久しぶりです」
「あ、マッチョくん。どうぞ、あがって」
彼と会うのは、事件の日以来だ。
憲兵への証言やら婚約破棄やらのごたごたで、時間がなかった。
今日は彼に、あの時私を守ってくれたお礼を言いたかったのだ。
「あの、あれからずっと気になっていて、どうしてもお嬢様に言いたいことがあったのです」
「え、何を?」
あらら?
もしかして、愛の告白かしら?
私たち、知り合ってまだ少ししか経っていないのに。
いきなりそんなこと言われても、まだ心の準備が……。
「お嬢様は、どうして松葉杖の中に刃物が隠されていると分かったのですか?」
……あぁ、なんだ、そんなことか。
期待して損した……。
……あれ?
私、期待していたの?
「マッチョくん、その質問はセクハラです」
「え……、ど、どうしてですか?」
面食らうマッチョくん。
彼のこんな顔を見たのは初めてだったので、なんだかそれがおかしかった。
まぁ、セクハラというのは言い過ぎだけれど、例のワードを言うのが恥ずかしいのだ。
私たちはあの時、ボディチェックの抜け穴について考えていた。
凶器を隠したまま、屋敷に入る方法だ。
無意識にチェックしていない場所としてまず、チン……が思い浮かんだ。
まぁ、凶器の長さからしてチン……の部分には隠せないけれど、その形状から、凶器を隠せる場所を連想したのだ。
つまり、例のワード→棒状のもの→松葉杖という感じで。
それに、けが人というだけで、ボディチェックの際はどうしても気遣ってしまう。
その体を支えているものとなればなおさらだ。
私はちょうどアイザックがボディチェックを受けているところを見ていたけれど、松葉杖はチェックされていなかった。
だから、そこが唯一の隠し場所だと判断したのである。
「それよりも、今日はお礼が言いたかったの。あのとき、アイザックから私を守ってくれてありがとう」
「……なんと、もったいなきお言葉。恐悦至極に存じます」
口調が変だぞ。
もしかして、照れているの?
「怪我は大丈夫だったの?」
私はそれが心配だったのだ。
マッチョくんは私をかばった際、顔を殴られたのだ。
それで、口の中が切れて血を流していた。
「ええ、ご心配には及びません」
「本当に? 私をかばったせいで、ごめんね」
「お気になさらないでください、お嬢様。本当に大丈夫です。熱い飲み物を断るちょうどいい口実ができました」
思わず頬が緩んでしまった。
初めて見る彼の笑顔に、私は満面の笑みを浮かべていた。
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