第6話
松葉杖を私に蹴飛ばされたアイザックは、普通は支えがなくなって床に倒れるはずだ。
もしギブスをしている右足を床に着けようとしても、痛みで踏み込めずに倒れる。
突然松葉杖を蹴られたアイザックを見ていた周りの人たちは、きっとそう考えていただろう。
しかし、彼はギブスをしている右足で踏ん張り、その場に立っていたのである。
痛みに苦しんでいる様子もない。
すべて、私の予想通りだった。
ただ一点を除いては……。
「痛いぃ! 誰か助けてぇ!」
松葉杖を蹴ったほうの足をおさえて、私は床でうずくまっていた。
突然現れ、アクションシーンを披露したかと思えば、情けない声をあげて床にうずくまる令嬢を目の当たりにして、周りの者たちは言葉を失っていた。
恥ずかしいよぉ。
……おかしい。
こんなはずではなかったのに……。
松葉杖を蹴った足が痛くなるなんて、予想外だった。
ここから、驚いているみんなの前で、私の推理をかっこよく披露するはずだったのだけれど。
これが、根暗が調子に乗ってスポットライトを浴びようとした報いなのか……。
これはこれでスポットライトを浴びて注目を集めているけれど、私の想定していたものとは全然違う。
「いたた、誰か、氷を持ってきていただけないでしょうか? ちょっと、尋常ではないほどの痛みです。あ、あとその松葉杖の中に、刃物が隠されていますよ」
「な、なんですって!?」
ついでのように言ってしまったけれど、床にうずくまったままの私の言葉を聞いて、この現場を取り仕切っている憲兵が声をあげた。
「よく調べてみてください」
「え、ええ。あれ? そういえば、なんであなた、松葉杖がないのに、普通に立っていられるんですか?」
憲兵がアイザックに目を向ける。
つられるように、周りの皆の視線も彼に集まっていた。
「お、お前、よくも……、お前のせいで……、おれのプライドはズタズタだぁ!!!!」
怒り狂ったアイザックが私に殴りかかろうとしてきた。
しかし、マッチョくんが間に入り、私を守ってくれた。
そしてアイザックは、瞬く間に憲兵に取り押さえられた。
「くそっ! 離せ! 離せと言っているだろう! おれはライデル家の次期当主だぞ! この無礼者どもが!」
「アイザック、まだ状況を理解していないのですか? あなたはただの、犯罪者です。監獄の中では、なんの権力も持たない、ただの人です。ずっとそんな態度をとっていると、監獄のお仲間に可愛がられることになりますよ」
「ふざけやがって! 得意げな顔をして、それで勝ったつもりか? お前は今日のことを、いつか後悔することになるぞ!」
「はいはい、弱い犬程よく吠えると言いますからね。これからの監獄生活、不安でしょうけれど、楽しんでくださいね。当然、お手紙なんて送りませんよ?」
「くそっ! 離せ! 平民の分際で! 離せと言っているだろう!」
アイザックは情けなく抵抗していたけれど、あっさりと憲兵に連行されて行った。
……やっぱり、改心していなかったのですね。
改心して素直に私に謝罪しておけば、こんなことにはならなかったでしょうに……。
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