第7話 勇崎優心の死亡報告

 勇崎優心ゆうざきゆうしんが処刑されてから2日後。


 今日の訓練を終えた優心のクラスメイトで勇者達は、召喚された日、魔力量を測定した部屋へ集められていた。


十連寺じゅうれんじ連次郎れんじろう月山三城つきやまみつきへ話しかける。


「王女さんの呼び出しだって事だけど、なんだろうな?」


「なんだろうね。それより、優心来てなくない?」


「まだ、仕事してるんじゃねえか」


 連次郎は、勇者達が寝泊まりしている所に優心がいなかった為、城の人にどこに居るのかを聞いていた。

 聞いた内容は、別の場所で寝泊まりをしていて、訓練の代わりに掃除に励んでいてとても頑張っているとの事。

 優心が寝泊まりをしている場所も聞いていた為、昨日の夜、連次郎は三城と2人で優心の部屋へと行ったが、カギが掛かっており、扉越しからいびきが聞こえた為、その日は帰ったのであった。


「そうかもね。仕事頑張っているみたいだし」


 連次郎と三城は城で、ちらほら優心が仕事を頑張っているという話を耳にしていた。


「みなさま、お待たせしました」


 ガヤガヤと話をしていた連次郎や三城、他のクラスメイト達も王女セリアーナ・オルヴェルスの声で静かになる。


「みなさま、勇者様方に集まって頂いたのは、報告しなければならない事があるからです」


 セリアーナは、少し間を置いてから口を開いた。


「本日、ユウザキ様が亡くなられました。窓の掃除をしていた所、バランスを崩し落ちてしまい――」


「おい、優心。嘘だろ。嘘だといってくれ!」


「優心、なんで……」


 優心の親友、連次郎と三城が膝から崩れ落ちる。


 七宮奈々絵ななみやななえは、泣き崩れていた。

 それを、上結結菜かみゆいゆいなが必死に介抱している。


 そして他のクラスメイトのほとんどが困惑のような表情をしていた。


「……優心に会わせてくれ」


 連次郎が言った。


「申し訳ございません。城の高い所からだったもので、とても……」


「それでもいい、会わせてくれ!」


「申し訳ございません。それは出来ません。明日の訓練は中止で、葬儀を執り行います」


「なんで!? 頼む!」


 セリアーナはそれだけ告げると連次郎を無視して、部屋を去っていった。


 奈々絵の泣き声だけが部屋に響いていた。


 その中、蒼井蒼汰あおいそうたは、ニタニタしながら言った。


「はは、勇崎の奴、窓から落ちて死ぬとかダセェ。さすが魔力量ゼロだわ」


 蒼井の言葉に対して、公正正義こうせいせいぎが注意をしようとする。


「蒼井君、それは――」


「蒼井! 今なんて言った!」


 公正が言い切る前に連次郎が蒼井の顔面を殴り飛ばした。

 さらに、連次郎が殴ろうとするのを公正と他数名のクラスメイトが止めに掛かる。


「十連寺君、殴るのはやりすぎだ。少し落ち着け」


「どこがやりすぎだ! あいつは優心の事を!」


 殴り飛ばれた蒼井が起き上がる。


「痛てえな。何すんだよ。ほんとの事言っただけじぇねえか。それにしても勇崎の奴、訓練しないで掃除してたのか。ウケるわ」


 三城が無言でスタスタと蒼井へ近づき、顔面を殴った。


「月山! 何すんだよ」


 三城がさらに殴りかかろうとするところを風折風音かざおりかざね夏野夏乃なつのかのが止める。


「やめて! 三城君!」


「月山君、落ち着いて!」


「ねえ、公正。あいつ、どっか連れてって!」


「ああ、風折さん。分かったよ」


 風折にお願いされた公正は、連次郎を取り押さえるのを他のクラスメイトに任せて、蒼井を連れて部屋を出て行った。


 それからしばらくして、一旦この騒動は収まった。


★★★


 セリアーナは、優心死亡の報告をした後、部屋へ戻っていた。

 部屋には他に誰もいない。


「ごめんなさい。ユウザキ様、わたくしは何もできず…………」


 堪えていた涙がこぼれ落ちた。


「わたくしがあの時、ユウザキ様を1人にしなければ」


 セリアーナは勇者召喚があった日、優心の仕事を見つけ部屋に戻ってみたらそこには誰も居なかった。

 その後、城を探しても見つからず、国王の元へ行った。


「お父様、ユウザキ様を知りませんか?」


「あいつか。処刑した」


「なんで!? そのような事を!」


「あんな勇者の恥さらし、いてもらっては困るのだよ。後、勇者達には事故死で伝えるからの。その準備も進めてある」


 国王は続ける。


「もし、漏らしたら分るよな。勇者の中には可愛い子が多い。楽しみだな」


 このような事があり、セリアーナは優心が処刑された事実を誰にも言うことが出来なかった。


「わたくしにもっと力があれば……」


「ユウザキ様。ごめんなさい。ごめんなさい。」


 セリアーナはそのまま泣きじゃくった。




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