第6話 目的地へ

 朝早く、日がまだ昇らないような時間にバレットさんが起こしにきた。

 朝食を食べ、俺とカーミルはバレットさんが用意してくれた装備に着替える。


「おお、なんか冒険者って感じがするぜ」


「そりゃ、冒険者がよく身に着けてるもんだからな」


 カーミルもバレットさんも似たような冒険者って感じの装備なので、なんか3人でパーティーを組んでいるみたいだ。


「あと、これだ。魔力量を偽装する魔道具だ。肌身離さず持っておけ」


 バレットさんから渡された宝石のついたペンダントのような魔道具を受け取り、身に着けた。


「あれ? 俺、魔力がないから魔道具を使えないんじゃないですか」


「オレが魔力を込めて発動させてある。数日は大丈夫だ」


 魔道具には、魔石が入っていてそれに魔力を込めれば持続的に発動するタイプの物が多いようだ。

 まあ、俺には込める魔力がないが。


「それじゃあ、出発するぞ。目的地はここから歩いて2日くらいかかる所にある、別の隠れ家だ。そこで仲間と合流する」


 俺たちは、隠れ家(表向きは宿屋)を後にした。


★★★


「はあ、はあ。マジ疲れた」


 俺達は森の中を歩いていた。

 かれこれ2時間は歩いている。

 そして俺の疲れは限界に来ていた。


「2人ともなんで平気なんだよ」


「ドラゴンだから」


「鍛えてるから」


 カーミルもバレットさんも歩くペースが尋常じゃなく早い。

 

 最初、「転移でいけばすぐじゃないですか」と言ったが、「オレは転移魔法は使えない」との事。

 俺たちを助けに来てくれた時の転移は使い捨ての魔道具でもう使い切ったとの事。

 カーミルがドラゴンの姿に戻ってそれに乗っていくというのは目立ちすぎるからダメだと。

 そんな訳で森を歩いて移動している。


「ユウザキに合わせてたら、4倍はかかっちまうな。よし、カーミル、お前が背負ってやれ」


「わかりました。ユウシン、はい。乗っていいよ」


「えー、そこは普通、バレットさんじゃないんですか?」


「オレは野郎を背負う趣味はない。さっさとしろ」


「カーミル、大丈夫?」


「ぜんぜん大丈夫だよ。わたし、ドラゴンだから」


 俺はカーミルの小さな背中に体を預ける。

 身長170を背負ってる見た目10歳くらいの子。シュールだな。

 深紅の髪からいい匂いがする。


 カーミルが俺を背負ってから、2人の歩くペースが上がった。

 歩きというよりは走りだ。

 今まで俺に合わせていたのだろう。


 えっ、俺、めっちゃ足手まといじゃん。

 しかも、見た目10歳くらいの女の子に背負われてるって、もうなんか色々終わってるな。

 なんか、涙が出てきそう。


 それから2人は昼食休憩を除いてノンストップで走り続けた。

 俺は、その間ずっとカーミルに背負われている。


 そして、日が沈み始めた頃。


「今日は、ここで野営にするぞ」


 バレットさんがテキパキと野営の準備を始める。


「なにか手伝える事ありますか」


「ない。そこでじっとしてろ」


 俺は、あまりにも何もしていないので申し訳なくなり、手伝いを申し出てみたが断られた。


 バレットさんはマジックポーチ(見た目より物がたくさん入る魔道具)から道具を次々と取り出していく。

 道具を取り出し終えると布を木の棒と生えている木を使いタープのように張り、寝床を作っていく。

 寝床が出来ると、夕食の準備を始めていた。


「なんかいい匂いしてきたね」


「ああ、そうだな」


 俺とカーミルはバレットさんの調理を眺めながら話していた。


「バレットさん、料理出来るんだな」


「そうだね。結構手慣れてるみたい」


「カーミルは料理出来るの?」


「料理? しないよー」


 食べる専門か。


「飯、出来たぞー」


 出てきたのは、ソーセージ入りのポトフの様なものと、串焼きの肉、そして黒パンだった。

 そして飯の量だが、バレットさんが俺の2倍、カーミルは俺の4倍ぐらいあった。


 別に、俺はもともとそんなに食べないから、バレットさんの飯の量でも食いきれないだろう。カーミルの量は論外だ。


 2人とも黙々と食べている。


 ポトフに口を付ける。

 うまいな。

 次は、串焼きの肉だ。

 一口齧ると肉汁があふれ出してきた。

 焼き加減もよくてとても美味しい。

 何の肉なんだろう?


 俺が飯を味わって食べていると、すでに自分の分を食べ終わったカーミルがこちらを見つめてきた。


「俺の分もちょっと食べるか」


「うん、食べる。ありがとね」


 ニコニコ顔で俺があげた串焼きの肉を食べていく。

 それ見てバレットさんが「餌付けされてるな」と笑いながら言った。


 飯の片づけが終わるとバレットさんが言った。


「魔物除けはしてあるし、ここら辺は魔物は少ないが、一応見張りを立てる。オレはちょっと仮眠をとるからその間は2人で頼んだぞ。まあ、なんかあったら起こせ」


 バレットさんは寝床へ入って行った。


 日はすっかり暮れ、あたりは森の中なのもあって真っ暗だ。


 魔道具の小さい明かりが俺とカーミルの顔を照らしている。


「ねえ、手、繋いでもいい」


「どうした? まあいいけど」


「ありがと」


 カーミルが手を繋ぐ。

 小さくて暖かい手だ。


 しばらく沈黙が続く。


 そういえば、カーミルって何歳くらいなんだろう?

 見た目通り10歳くらいなんだろうか?


「1つ聞いていいか?」


「うん、いいよ」


「カーミルって何歳なんだ?」


「100歳くらいだよ」


「えっ!? 本当に?」


「本当だよ」


「マジか、10歳くらいかと思ってた」


「年下だと思ってたんだ。わたし、ユウシンよりお姉さんだよ」


 100歳だと、お姉さんというよりおばあちゃん? いや曾おばあちゃんくらいか?


「なんか失礼な事考えてない?」


「ソンナコトナイヨ」


「見張り交代だ。イチャイチャしてないでさっさと寝ろよ」


 カーミルと手、繋いだままだった。


 見張りをバレットさんに代わり、俺とカーミルは眠りについた。


★★★


 翌日、俺達は森の中を目的地へ向けて走っていた。


 カーミルに背負われるのも少し慣れてきた。


 いや、慣れてきたら終わりか。

 クラスメイトに見られたら嫌だな。

 まあ、クラスメイトは城にいるだろうし、会う事はないと思いたい。

 そういえば、城にいるクラスメイト達には俺が処刑された事が伝わってるのかな。

 連次郎れんじろう三城みつきには、本当に申し訳ないな。

 上結かみゆいさんは悲しんでくれたりするのかな。


「魔物だ」


 バレットさんが立ち止まる。

 一瞬遅れてカーミルも立ち止まる。

 俺は、カーミルの背中から降りる。


「ゴブリンか」


 木の陰からぞくぞくと緑色の小人――ゴブリンが出て来た。

 それぞれ、剣や槍などの武器を持っていた。


 おお、本物だ。これぞファンタジーだな。


「カーミル。ユウザキを守っとけ」


「ユウシン、わたしの後ろに」


 俺は大人しくカーミルの後ろへ行く。


「こいつでいくか【氷結の大剣】」


 バレットさんの手に長さ2mほどの大剣が現れる。

 その大剣は全てが白く、全体から白い冷気が出ていた。

 

 複数のゴブリンがバレットさんに襲い掛かる。

 それを、片手で持った大剣で薙ぎ払う。


 俺達のところへは一切ゴブリンがこなかった。

 来ようとした瞬間にバレットさんに狩られていったからだ。

 

「【氷結球】」


 バレットさんの放った白い冷気の野球ボールくらいの大きさがある玉を空いている方の手から放つ。

 その玉はこちらへ来ようとしていたゴブリンに着弾し、そのまま凍り付かせた。


 ゴブリンが槍でバレットさんの死角から襲い掛かろうとする。


「危な――――」


「【氷弾】」


 バレットさんは片手だけをそのゴブリンに向け魔法を放った。

 ゴブリンは頭から血を吹き出し倒れる。


 後ろに目でも着いてるのか?


 大剣で切ったり、魔法を放ったりであっという間に数十匹のゴブリンを倒してしまった。


「全部、片づいたからいくぞ」


 あたり一面は氷漬けのゴブリンで溢れかえっていた。


 バレットさんは凄いな。

 俺もあんな感じで魔法が使いたいな。

 魔力量ゼロだけど。


★★★


 夕方。

 俺、カーミル、バレットさんの3人は森の中にある、木で出来た家の前にいた。


「ここが目的地ですか?」

 

 俺はバレットさんに聞いた。


「ああ、そうだ。そして、お前らを鍛える場所だ」


「ここで?」


 今度はカーミルが聞く。


「ここは人目がないから丁度いいんだよ。さっさと中入るぞ」


 バレットさんを先頭に家へと入って行く。


「あら、久しぶりーバレット。2人は初めましてだね。私はリザ。見ての通りエルフだよー」


 家の中に居たのはエメラルドグリーンの綺麗な髪の女性だった。

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