第2話 勇者召喚

「ようこそ、おいで下さいました。勇者様」


 白い光が消えるとそこは教室とは別の場所だった。

 そして俺たちクラスメイトの周りには、鎧に身を包み腰に剣を装備している人、ローブに身を包み手に杖を持った人の2種類がそれぞれ10数名いた。


 歓迎の言葉を口にしたのは、俺たちの前方にいる1人だけ豪華なドレスに身を包み、綺麗な金髪の長い髪、白い肌に碧い目を持つ13歳くらいの少女だ。


「わたくしの名前は、セリアーナ・オルヴェルス。この国の王の娘です」


 それから、王女セリアーナさんから説明があった。

 まとめるとだいたいこんな感じだ。


1.この世界は日本とは違う異世界で魔法やスキルがあり、ここは人間の国、オルヴェルス王国の城の中との事。


2.俺たちを召喚した理由は、これからの魔族との闘いに備えての戦力の増強。


3.召喚された勇者は、だいたい膨大な魔力、強力なスキルを持っているとの事。


4.俺たちの故郷、日本には魔族との闘いに勝てば帰れるとの事。


5.これからは城で、泊まり込みで戦闘訓練を受けてもらうとの事。


6.ほしい物は言ってくれればだいだい準備してくれるとの事。


 つまり、異世界にクラスメイトみんなで召喚されたって事だな。

 説明中、声を荒らげる人やパニックになる人もいるんじゃないかと思ったが不思議とそういう人はいなかった。

 しばらく日本に帰れないかもしれないのにみんな落ち着いてるな。


 俺は、異世界って事でなんかテンション上がってるけど。


「みなさまには、これから魔力量の測定を行っていただきます」


 王女セリアーナさんが魔力測定について説明を始めた。

 魔力は基本的に全員が持っているもので戦闘以外にも生活でなくてはならないものである。


 そして、魔力の量は基本的に変わらない為、この異世界では生まれた時に測定をみんなするらしい。

 測定方法は、バスケットボールくらいの大きさの水晶に手を乗せると魔力量が数字で分かるらしい。

 昔は、色だったらしく大体の量しか分からなかったとの事。


 魔力量800が一般人の平均で、兵士や冒険者には千以上、魔術師には2千以上は必要と言われている。

 50以下になると1人では日常生活も厳しくなるらしい。日常生活に必要な魔法を使っているだけで回復が間に合わず魔力切れになるとの事だ。


「じゃあ、俺から行くぜ!」


 茶髪の不良、蒼井が最初に測定をした。


「すごいです! 魔力量10200です!」


 王女セリアーナさんが驚く。

 そして、その隣で測定の補助をしている周りの騎士よりも階級が高そうな鎧をまとった男も驚いた顔をしていた。

 魔力量1万台は、国に数名しかいないトップクラスらしい。


 周りの鎧に身を包んだ騎士や、ローブを身に着けた魔術師達から「おお」と歓喜の声が上がる。


「じゃあ、次は俺がいくか」


 俺の親友、連次郎が水晶に手を乗せる。


「魔力量11020です! スキルは〈能力増加ステータスブースト〉です!」


「その魔力量でスキル持ちか、鍛えがいがあるな」


 階級の高そうな騎士が楽しそうな笑みを浮かべる。


 そのまま魔力量とスキルの有無の測定が続いていく。


 俺以外の測定が終わった。

 魔力量1万越えは蒼井と連次郎以外には、七宮さん、風折さん、公正の3人だった。

 他は、9千代が数名、後は全員5千から8千代の魔力量だった。


 スキル持ちは、連次郎以外には三城と七宮さんと根暗暗蔵ねくらくらぞうだった。

 根暗は、よくクラスで蒼井達に絡まれている陰キャの男だ。


 ちなみにスキルとは、魔法とは別で魔力を使わずに使える特殊能力だ。

 もっている人は少数で、生まれつきか途中で目覚めるか半々くらいらしい。

 スキルは基本的に一人一つで、能力によってはものすごく重宝される。

 まあ、召喚された者はスキル持っている、目覚める確率が普通よりは高いらしい。


 そして、最後は俺の番。


 魔力量は、どんくらいあるかな? 1万はほしいなー。

 スキルはあるかな? 強いスキルがいいな。

 魔力量1万以上に、スキルを手に入れたらモテたりするかな。

 そしたら、彼女いない歴=年齢と童貞の2つを卒業できちゃったりして。

 なんか、テンション上がってきたな。


 これから始まるぜ、俺の異世界ライフが――


 俺は、期待を膨らませながら水晶に手を触れる。


「……魔力量ゼロ、スキルもありません……」


「えっ!? もう一度いいですか?」


 俺は、思わず聞き返してしまう。


「すいません。魔力量ゼロです」


 王女セリアーナさんが非常に申し訳なさそうな感じで答えてくれた。


 どういうことだよ、魔力量ゼロって。

 あんまりだろ、それは。

 日本に帰りたい。


 この世界では、普通に生活していく中でも魔力を使うとの事。

 要は、日本だと電気やガス、水道を1人で使えないような感じだ。


 俺が測定結果に絶望して項垂れていると、心配して連次郎と三城がそばに来てくれた。


「あんま気にするなよ。俺が魔族なんか速攻倒すから日本に帰ろうな」

「大丈夫、僕たちがついてるから」


 2人の言葉で少し気が晴れた気がした。


 少し離れたところでは、「勇崎は魔力ゼロのスキルなしの役立たずだって!」とバカにする蒼井、それ聞いて大爆笑する取り巻き2人。

 そして、「魔力量ゼロだって、スキルがなくたって、役立たずは言い過ぎだろ!」と俺の心の傷をえぐっている、よく分からないフォロー? をする公正。


「勇者様方、これから城の案内をいたします」


「俺がその役を務めよう。勇者様は俺についてきてください」


 階級の高そうな騎士に、クラスメイト達はついていく。


「俺らもいこうぜ」


「そうだな」

「そうだね」


 連次郎に言われ、俺と三城はクラスメイトの後ろについていこうとする。


「すいません。ユウザキ様はこちらにお残り下さい」


「どうやら俺は残らないと行けないらしい」


「優心また後でな」

「また後でね」


「おう」


 連次郎と三城は一旦の別れを告げ、クラスメイトの元へ去っていく。


「ユウザキ様にこれからの事を話したいと思います」


「はい」


「ユウザキ様には、このお城で魔力のいらないお仕事を手配しますのでそちらをお願いしたいと思います」


「戦闘訓練とかは?」


「魔力がないので厳しいかと」


「そうですか……」


「心配しなでください。わたくしが全力でフォローいたしますので。もともとは、こっちの都合で勝手に召喚してしまったわけですし……」


 王女セリアーナさんの両手が俺の両手を包み込む。


 手が綺麗で柔らかいな。


「セリアーナさん。なんとか大丈夫な気がしてきました。ありがとうございます」


「わたくしは、仕事の手配をしてきますのでここで少しお待ちください」


「わかりました」


 王女セリアーナさんが出ていくと部屋にいた騎士や魔術師もゾロゾロと出て行き、最終的一人になった。


 仕事ってどんな事をするんだろうな。

 楽な仕事だといいな。


「お待たせしました。ユウザキ様。セリアーナ様は、別の用事が入った為我々が迎えにあがりました」


 そこには、騎士と魔術師が数名ずついた。


「それでは、こちらへ」


 俺は騎士たちについていこうとした。


「【睡眠】」


 魔術師の一人が呟いた。


 あれ、なんか眠たくなっ――


 俺の意識はここで途切れた。


★★★


 気が付くと俺は牢屋の中にいた。

 牢屋の外にはさっきの騎士と魔術師たちがいた。


「さっさと処刑しちまいましょうか」


「えっ!? 処刑!? なんで?」


 言ってる事が分からない。


「勇者様の中によー、魔力ゼロの欠陥品なんかいたら栄えあるオルヴェルス王国、他の勇者様達の評判が落ちちまったり、他からも色々言われるわけ。分かる?」


 勝手に召喚しといて何言ってるんだ。


「待ってくれ! 殺さないでくれ!」


 俺は必死に声を荒らげる。


「国王様のご命令だから無理――あっ、これ言っちゃいけない奴だった。まあ、いいか。どうせ死ぬわけだし」


「どういうことだ!? セリアーナさんは、仕事を探してくれるって!」


「あんな、小娘には大した権力はねえぜ。残念だったな」


「そんな!? 助けてくれ! 誰かあああああ! 殺される!! 助けてくれ!!」


 俺は必死に助けを乞う。


「そんな騒いでも無駄だぞ。防音の魔法が掛かってるからな」


「なんでもするから殺さないで!」


 俺は牢屋の床に頭を擦りつける。


「それは無理だな。ただ処刑つってもここで俺らが殺す訳じゃないが。この牢屋から転送魔法である場所に飛ばすだけだ」


「……飛ばすだけなのか?」


 俺は顔を上げる。


「まあ、転送先は死の谷って言われててな、強力な魔物がたくさん生息している場所で、処刑で転送された奴で帰ってきた奴はいないけどな。はははははは」


魔術師や騎士達は肩を揺らして笑う。


「ふざけるな! ここから出せ! なんで勝手に召喚されて殺されないといけないだよ! 早く出せよ!」


「ほはははは。ちなみに魔力量10000越え数名のパーティーが死の谷に行って帰ってこなかった事もあったな。魔力量ゼロのお前ではまず無理だろうな」


「やめろおおおおおおお、ここから出せええええええええ」


「おっ、準備ができたようだ。じゃあな魔力量ゼロの欠陥勇者さま」


 牢屋の床に、教室から召喚された時と同じように白く光った魔法陣が出現した。


「クソがああああああああああああああああ!」


 視界は白い光に包まれた。

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