第4話
ここ数か月、巷でまことしやかに囁かれるウワサがあった。
地球の引力消滅。
――人類滅亡――
はじめこそそれは『週末(終末とかけている)ジャンプチャレンジ』なる、その名のとおり週末に夕日をバックに(夕方、つまり人類の斜陽というシャレ)どれだけ高くジャンプができるかという、今となれば不謹慎と取られかねない他愛のないトレンドの発信源でしかなく、そんな都市伝説を真に受ける人間のほうが珍しかった。人気バラエティ番組の検証企画でも、平時と比べて誤差の範囲内の数値しか計測されなかった。
このとき僕は初めて知ったのだけれど、日本の中でも北海道と沖縄じゃあ重力の大きさがわずかに違うらしい。僕はほんの少しだけ、真面目に勉強に取り組んでみるのも悪くないかもしれないと思った。
けれど日を追うごとに、前代未聞の天変地異は急速に真実味を帯びてくる。
潮の満ち引きの周期が不安定になる。相次ぐ旅客機の墜落事故。都市部において酸欠と思しき症状を訴える人々が急増する。外国のどこかの研究機関の発表では、重力値に実際に異変が見られた地域もあったという。昼夜問わずくり返される報道。
そのせいで、世の中はてんやわんやの大騒ぎが続いているらしいけれど、片田舎へ住まう僕らにとってそれはまるで雲をつかむような話で、今日もこの場所はこれと言って代わり映えもせず、穏やかで、それでいていつも以上に静かだった。
そして世界は終末を迎える。
放課後の屋上。
僕と美咲。
オレンジ色に染め上げられた校舎には、もうすぐ夜のとばりが下りようとしていた。
「ねえ」
「うん」
「あした土曜だし、どっか行こうよ」
「どっかってどこへ」
「ディズニーランド」
「遠いな」
「USJ。あ、ハウステンボスでもいいよ」
「こんなときに呑気に営業してるとこなんかないだろ」
「じゃあ山登ろう」
「じゃあってなんだよ」
「んー、なんとなく。ふいんき?」
「ふいんきじゃあ山は登れません」
「あれもダメ、これもダメ、ってワガママだなあ。じゃあどうするの」
「どうもしなくていいよ」
「なにそれ」
「いつもどおりでいい」
「大野くん」
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