僕と『影』の物語

月影

♯1 影

僕は幼い頃からずっと独りぼっちだった。


友人はみんな魔物に殺され、家族は魔物を倒しに行くと言ったっきり帰ってこない。


僕は元々戦いが苦手だった。剣の修行だってしたことない、何も出来ない子供だった。


そしてとうとう、僕一人だけ残された。

僕には家族を待つ事しか出来ない。

何とか食料は魔物のアイテムから作れているものの、何も感情を動かすことは出来なかった。


そう、僕は寂しかった。

僕に家族がもう一人出来たらな心から思ったことだってある。


「なんて、叶う訳ないか」


僕は椅子に腰をかけ、天井を見上げた。


「…………………はぁ」


やることも何もないし、大きなため息を吐いてしまう。

しかし、しばらくして僕は立ち上がった。


「ああそうだ、破壊された城の掃除しなきゃな」


箒と一応の武器の剣を持って、家用の小屋から出る。

徒歩三分歩くと、大きな城の姿が見えてきた。


しかし、その城は凄くボロボロだった。

崩れているところもあるし、苔が何本も生えているところもある。


そう、これも全て、魔物にやられたのだ。


そして、最悪なことにその日に僕らの国の国王は殺された。人々は怒り狂って魔物を撃退させようとした。しかし、皆一人も帰ってこなかった。


「あぁ……何で皆、必ず無理だって分かってるのに行ってしまうんだろうなぁ」


なんてボソボソと呟きながら、城の中を箒で掃除する。

あちこちで苔が舞う。汚すぎて目を瞑ってしまった。

すると--。



カタリ。



鈍い音が響いた。魔物だろうか。

この城はとても広いから、瞬きをする音さえ響き渡る。


僕は二階へ続く階段を駆け上がった。

すると、木と木の間の穴に足を踏み外してしまった。この城はあちこち壊れているので、穴なんてどこにでもある。


「うわっ!?」


僕はすぐさまに木の板を掴み、這い上がった。

ハァハァと息を切らし、心臓を落ち着かせる。


「危なかったー……」


ふぅと息を吐き、立ち上がる。

そして、汗を拭いながら恐る恐る穴の中を覗き込んでみた。


穴の中は、丈夫な厚い板を貫通していた。

あのままだと、僕は地面に叩きつけられていただろう。



ドタンッ



また、音が城中に響き渡る。

しかし、さっきよりは随分と大きい音だった。


「……っ!?」


僕はバッと振り向き、剣を抜きながら立ち上がった。


「誰だ……誰かいるのか?」


僕は剣を構えながら歩を進めた。

あんな大きい音がするのなら、きっと巨大な魔物なのだろう。

僕は魔力を貯めて、いつでも技を発動できる様にした。


そして--曲がり道の先をバッと覗き込む。


「!!」


僕は目を見開き、声にならない叫び声をあげた。


人だ。人が倒れている。

年は僕と同じくらいの少年だ。


僕は剣を捨て、急いで駆けつけた。


「あ、あの……だ、大丈夫ですか!?」


僕はその少年に恐る恐る近づいた。

しかし、すぐに足を止めてしまった。


「……え!?」


その少年は、『影』だった。


顔も、足も、腕も、体も、全身が真っ黒だった。

火に焼かれたのだと思ったが、全体が少し薄れているからきっと違うのだろう。


僕はその少年を抱き起こし、揺さぶってみた。

しかし、ちっとも動かなかった。

だが、それより驚いたことは、その少年には目も鼻も口も無かったのだ。いや、あるのかもしれない。


まあ影だから当たり前だろうが、何故影がこんな立体としてこの世界に現れ、ここに倒れているのか分からない。


「……えっと……すみません、起きて下さい!」


呼びかけてみたが、やっぱり起きる気配がない。

もう死んでいるのだろうか?それとも、もともと空っぽなのだろうか?


僕は少年の胸に手を当ててみた。すると心臓の動きをはっきりと感じることが出来た。


「……影が……生きてる……?」


僕は何かどうなっているのか分からず、混乱していた。

一体、この影はなんなのだろう?


「…………」


しばらく沈黙の時間が続いた。

何故か、ここから一歩も動けなかったのだ。


「……よし!」


僕は思い切って影の少年を背負って立ち上がった。そして歩き出した。

この少年が何者なのかは知らないが、ほっとけなかった。

そこで、僕は一度この少年を小屋に持ち帰り調べてみようと思った。


「じゃあ行こうか」


僕はまだ意識が戻っていない影の少年にそっとつぶやいた。

何故か分からないが、なんだか友達の様な大切な存在に思えたからだ。


♦︎♢♦︎♢


しばらく歩いた頃、やっと自分の家が見えた。


「うわぁー、やっと着いたぁ」


今までずっと少年を背負って歩いていたから、疲れるのは当たり前だ。

僕は小屋の中に入り、影の少年をベッドに寝かせた。

そして、ふーっと息を吐き、椅子に腰掛けた。


「どうしようかなコレ……」


僕はとにかくこの少年が起き上がるのを待つことにした。

このまま待っていても、僕に出来ることは何もなかったからだ。


そして、何日かした頃--。


僕は薪が入った鞄を背負って、小屋に戻ろうとしていた。


「あーあ。今日はこれだけか」


そう呟く。鞄には少ない数の薪しか入っていなかった。


「まあ、最近疲れているからしょうがないか。またコツコツと溜めていけば結構溜まるだろ」


ふぅと息を吐き、小屋に入る。

すると、カタンとかすかに音がした。


「!?」


僕は一応剣を構えて、音がした方へ歩き出した。

魔物か?しかし、音が小さすぎる。しかも、城で聞こえた音とよく似ていた。

人の気配を感じさせる音だ。


「まさか……」


僕は剣を緩め、バッと寝室へ繋がる扉を開けた。

そして、目を丸くする。


影の少年が、起き上がっていた。

やはり、生きていたのだ。


「き、君!だ、大丈夫かい!?」


僕は急いで駆けつけ、少年の肩を掴んだ。

しかし、怪我どころか何も害は無かった。

やはり、影が立体として現れている。夢みたいだった。


「……」


影の少年は何も言わず、僕の手を振り払った。

そして立ち上がり、歩き出した。


「ど、どこに行くの!?ま、待ってって!」


僕は慌てて少年の腕を掴み、無理矢理ベッドに座らせた。


「えっと……君は一体なんなんだ?」


そして、笑顔を作り語りかける。

少年は何も言わない。ボーッとただ座っているだけだ。


「えっと……やっぱり君、喋れないの?」


「……」


また僕の問いに答えない。大体僕の言葉を分かっているのだろうか?


「おーい!僕の声聞こえる?言葉は分かる?」


また答えない。影の少年はずっと黙ったままだ。

僕は首を傾げた。この子、ここの人間ではないのだろうか。


(でも僕、他の国の言葉とか全然知らないしな……)


はぁ、とため息を吐き、立ち上がった。


「じゃあ君、ちょうど朝食作ろうとしてたからさ、ご飯って食べれる?食べ物ぐらいは分かるでしょ?まぁ口あるかどうか分からないけど」


影の少年は答えない。やはり口は無いのだろうか。


「……」


僕は黙ったまま、扉の方へ歩いた。

しかしふと立ち止まり、振り返る。


「じゃあ、大人しく待っててね」


僕はまた影の少年に微笑みかけ、扉を閉めた。


☆☆☆♦︎♦︎☆☆☆


まだ全然『影の少年』の謎が明かされていませんが、楽しんで読んで頂けたら光栄です。

あと高評価もお忘れなk((殴

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